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番外編 ハッピーウエディング②


「初めてご使用になられた方は皆さん驚きますわ。それほどあの美容法の効果は絶大なのです」


エステルは私の反応に満足そうに頷いた。


「すごーい!」


「髪が乾くまでの間に先にお化粧をいたします。半乾きになったらカーラーで髪を巻いていきますわ」


「あの、髪は早く乾いた方がいいでしょうか? 髪を乾かす魔法具がありますので、もしよかったら使ってくださいね」


私はそう言いながら鏡台の引き出しからドライヤーを取り出した。


「まあっ、そのような魔法具が? では、せっかくですから使わせていただきますわ」


「ここをポチッと押すと温かい風が出ますよ」


ドライヤーを受け取った侍女は早速ボタンを押すと、自分の手に温風を当てて驚いた顔をしている。


「気に入ったのならお土産にお一つどうぞ」


「王妃様がお喜びになりますわ! これがあればお支度が楽になります」


え、王妃様へのお土産にドライヤー……?

普段使いの家電だし、みんなで使ってっていう意味で言ったんだけど、王妃様にそんなものをあげて失礼に当たらないのかな?


「あら、温かいわ」

「まあすごい」

「私にもちょっと持たせて」


侍女軍団は代わる代わるドライヤーを手に取ってキャッキャとはしゃいでいる。


ま、まあ、喜んでくれてるなら別にいいか……。

高価なものは何でも持ってるだろうし、逆にこういうものの方が喜ばれるかもしれないしね。


「では乾かしてまいります」


「お願いします」


侍女の1人がブオーッと勢いよく温風を吹きつける。

そして、ある程度髪が乾いたところで、みんなで手分けしてカーラーを髪全体に巻きつけていく。

最後に全体的に温風をあてたら、熱が冷めるまでこのまましばらく放置だ。


「次にお化粧をいたします。目を閉じていてくださいませ」


「はい」


言われるがまま、指示に従う。


はあ……、顔にクリームやら粉やらいろいろ付けられまくって、なんだか疲れてきたよ……。

こんなに塗りたくって肌荒れしないのかな。


「はい、もういいですよ。目を開けて、今度は上を見てください」


目を開けると、髪からカーラーが外され、メイク班とヘアメイク班の二手に分かれて作業しているところだった。


それにしても、こっちの世界でも結構いろいろなコスメが揃ってるんだなぁ。

ファンデーションやフェイスパウダー、チークにアイシャドーに口紅までは想定内だったけど、マスカラがあるのがびっくり!


だけど、どれも形状が持ち運びに不便だし、水に溶いて使うものもあって、使い勝手が悪いのが難点だ。

いままでは興味がなかったから魔法で出したことがなかったけど、前世で見たようなコスメを売り出したらバカ売れするんじゃなかろうか。


いつかお金に困ったら真剣に検討しよう。

うん、そうしよう。


「これで御髪とお化粧はおしまいです。次はお召し替えを」


へいへい、次は着替えね……。


容赦なくぎゅうぎゅうとコルセットで締め付けられた後、侍女が床に広げてくれたウエディングドレスの中心にそっと足を踏み入れる。

そして両脇から2人がかりでドレスを引き上げ、背中のボタンを留めていく。


「ベールは大聖堂に着いてからお付けいたします。あとはこちらのネックレスをつけて……、さあ、出来ました! とてもお美しいですわ。あちらの姿見をご覧くださいませ」



「えっ……、これが、私……?」



このセリフを素で言う日が来るとは……。


ウエーブ感を残してゆるく結い上げられた髪には、繊細な細工を施された光り輝くダイヤモンドのティアラが載せられ、胸元では揃いのネックレスが煌めいている。


肌は陶器のような滑らかさ、ピンクのチークを控えめにふんわり乗せて、ツヤのあるタイプの口紅を塗られた唇もぷるぷるだ。


それより何より、目がいつもの1.5倍の大きさになっているではありませんか!?

マスカラの効果かアイラインの効果か、それとも両方の相乗効果か。

普段との違いに驚くよ!


「お綺麗ですわ」

「お美しいですわ」

「ええ、本当に」


信じられない……。

メイクでこんなに変わるなんて……。


私が呆然と鏡に見入っていると、コンコンとノックの音がした。


「はい、どうぞ」


「チェリーナ」


ガチャリと扉を開けて入ってきたのはお父様とお母様だ。

2人ともすでに結婚式用の衣装に着替えを済ませたらしく、きらびやかな正装で現れた。


「お父様、お母様、いま着いたのですか?」


私たちの結婚式のために、プリマヴェーラ辺境伯領から駆けつけてくれた2人は私を見て目を丸くしている。


「チェリーナなのか!? これは驚いた! 結婚した頃のヴァイオラに瓜二つじゃないか」


「チェリーナ、とても綺麗よ」


うっ……、お父様とお母様の顔を見たら、何だか胸がいっぱいになってきた……。


いままでお父様とお母様の子どもとして何不自由なく暮らしてきたけど、今日私はクリス様の妻になる。

これからはもう、子どものままじゃいられないんだ……。


「お父様……、お母様……。いままでっ、育てていただいて……、ありがっ、ううっ」


「泣かないで、チェリーナ。せっかくのお化粧が取れてしまうわ」


お母様はそう言うと、泣き出しそうな私を優しく抱きしめてくれた。


そ、そうだ。

精鋭侍女軍団の努力の結晶を無駄にしてはいけない。

私はパチパチと瞬きを繰り返し、グッと涙を堪えた。


「本当に綺麗だよ、チェリーナ」


「お父様……!」


ううー、やっぱり涙がでちゃうよ!

こぼれ落ちるかと思った直前、エステルがさっと柔らかいもので私の目元を拭った。


「マルチェリーナ様、涙が出そうな時は、この脱脂綿でそっと水分を吸い取ってください。くれぐれも、くれぐれも擦らないようにお願いいたします」


ひぇっ……、ご、ごめんなさい!

いまのエステルの圧力で涙が引っ込みました!


「す、すみません……」


「いえ。お支度は整いましたので、私たちは玄関ホールでお待ちしておりますわ。それでは失礼いたします」


侍女たちは一礼して支度部屋を後にした。


侍女たちが退出すると、お母様は手に持っていた小さな箱の蓋をそっと開けた。

中を覗き込むと、直径1センチはあろうかという大きなダイヤモンドが2粒鎮座している。


「チェリーナ。これは私が結婚する時に、母から受け継いだイヤリングなの。今日からこれはあなたのものよ。チェリーナにもし娘が出来たら、その子が結婚する時に渡してあげるといいわ」


お母様は、そう言って一粒ずつ取り出し、私の耳にイヤリングを付けてくれた。

流行に左右されないデザインのシンプルなそのイヤリングは、国王陛下から頂いた装飾品と最初から揃いで作られたかのようにぴったり似合っている。


「お母様っ! 大切なものを、ありがとうございます。私も、お母様みたいな、素敵な母親にっ……、ううっ!」


「おいおい、チェリーナ。そろそろ大聖堂へ向かわなくてはならない。化粧をやり直す時間はないぞ」


はっ、そうだった!

なんとしてもこの顔を死守しなくては!


「ふうー……、もう大丈夫です」


「では、お嬢様、奥様、お手をどうぞ。馬車までわたくしめがエスコートいたしましょう」


お父様がおどけたしぐさで一礼して腕を差し出す。

私はフフッと笑ってその腕を取り、クリス様の待つ大聖堂へと向かった。





しばらく馬車を走らせると、窓から大聖堂が見えてきた。

早めに到着した招待客の馬車が大聖堂の周辺に止まり、石造りの大階段は華やかに着飾った人々で賑わっている。


「わあー、みなさんお洒落してますねー。すごくキラキラしています」


「そりゃ結婚式だからな。むしろチェリーナのドレスが白一色で驚いたよ。それはそれで美しいドレスだが、伝統的な花嫁衣裳とはだいぶ違うよな」


フォルトゥーナ王国の貴族の結婚式では、色鮮やかな生地にふんだんに金糸の刺繍を入れた衣装が主流になっている。


さらに王族ともなると、金色の生地に金糸の刺繍を入れるほどの金ピカなものが伝統的な婚礼衣装だ。

クリス様のお兄さんのアドリアーノ殿下のときも、ファビアーノ様のときも、花嫁のドレスは目がくらむような豪華絢爛さだった。


「私はウエディングドレスは白と昔から決めていたんです。これでも、私の希望よりかなり豪華になったんですよ?」


私的にはもっとシンプルでもよかったんだけど、王妃様の専属デザイナーがもっと装飾をと涙ながらに訴えるから……。


形は王道のプリンセスライン、ドレスの後ろを長く引きずるトレーン、そして長いベール。

これだけは譲れないポイントだったけど、他の部分はデザイナーさんの意見を取り入れることにしたのだ。


かくして出来上がったこのドレスは、身頃の部分は繊細なレースで覆われ、ふわりと広がるスカートは幾重にも重ねられたオーガンジー、そして右腰の辺りに付けられた立体的な白薔薇のモチーフを起点として、裾に向かって流れるようにたくさんの薔薇モチーフが縫い付けられ、豪華でありつつ可憐さも失っていない珠玉の逸品となった。


ちなみに白薔薇はクリス様をイメージしたものなんだけど……。

クリス様、気付いてくれるかなぁ?





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