第17話 お父様と一緒
お父様は納得がいかない顔をして、私を質問攻めにしてきた。
「なんでお父様は無理なんだ!? 護衛騎士を乗せても平気なんだろう? 二人では乗れないが、一人ずつなら乗れるという意味なのか?」
「だって……、おとうさまは牛よりおもそうですし……」
筋肉は重いっていうしねえ……。
「お前な。いくらなんでも牛より重いわけないだろう! お父様は人間だぞ!」
「チェリーナ、マントを出したときは、僕のサイズからお父様のサイズまでいろいろ出せたでしょ? あの時と同じように、大きさを変えられないの?」
ああー。
拡大ね、そういえばそんな機能があったっけ。
お兄様、なかなか記憶力がいいですね。
でもさあ、お父様が乗れるほど大きいドローン出してもさあ、置く場所に困っちゃうし。
「うーん……、使ってないときに置くばしょがありませんし……」
「お前な。なんでそんなにお父様を乗せることに乗り気じゃないんだよ!? このだだっ広い辺境伯領で、乗り物の一つや二つを置く場所がないなんてことがあるわけないだろう。このフォルトゥーナ王国で一番広い領地なんだぞ」
それはそうだけど。
「だって、もしとちゅうで落ちたら、おとうさまがけがをしてしまいます」
「落ちて怪我をするのは、お父様じゃなくても誰でもそうだろう? お父様は大丈夫だから、チェリーナの魔法具でお父様と一緒にフィオーレ伯爵家へ行こう。いいな?」
仕方ないなあ。
そんなに乗りたいならお父様サイズを出しますよ。
でも、あのヘロヘロな状態でお父様を乗せられるのか、本当に心配なんだよね。
空中分解でもしたら一大事だし、大急ぎで改良しないと。
4つのプロペラを大きくして、もっと重くても飛べるように。
もっと高くあがるように。
あっ、それから、プロペラの風が直撃しないように、ベンチに風よけと落下防止用のシートベルトをつけよう。
「チェリーナ? 聞いているか?」
「あっ、はい。おとうさまを乗せても安全なように、かいりょうできないかと考えていたのです」
「そうか! わかってくれたんだな。それじゃあ、チェリーナの準備が整ったら出かけることにしよう」
へいへい、わかりましたよ。
まだ朝ごはん食べ終わってないんだから、そんなに急かさないでください。
「お父様! 僕も一緒に連れて行ってください!」
朝食を食べ終えたお兄様は、お父様の席まで行って天使の笑顔でねだり始めた。
あざと可愛いな。
お兄様め、この機会に便乗してカレンデュラに会いに行こうと思っているね。
「チェレスはダメだ。この家の跡取りなんだからな。万が一、お父様とチェレスが一緒に死んでしまっては、プリマヴェーラ辺境伯家が滅んでしまうだろう」
そうだよ、一家全滅なんてことになったらどうするの。
「ええー、そんなあ。僕も一緒に行きたいです」
「俺もーーーー」
クリス様が何かを言いかけたが、その言葉はお母様の声にかき消されてしまった。
「チェレス、我がままを言ってはいけません。チェレスはカレンデュラに会いたいのでしょうけれど、お父様たちは病気の人々を助けるという重大なお役目があって出かけるのよ。クリスティアーノ殿下をご覧なさい、クリスティアーノ殿下は不用意に御身を危険に晒すようなことはなさらないわ。チェレスも跡取りとしての自覚を持たなくてはね」
「はい……」
お母様に叱られたお兄様は、しょんぼりと肩を落とした。
クリス様を見ると、エッという顔をしている。
パクパクと何か訴えたそうに口を開いていたが、やがて諦めたようにガクリと肩を落とした。
「おにいさま、今回せいこうしたら、いつでもカレンのところへあそびに行けるようになりますよ!」
だから、そんなにガッカリしないで。
安全を確認できたら、みんな連れてってあげるからね。
王都までだって、気軽に遊びに行けるようになるかもしれないよ!
「ーーポチッとな!」
ズシーン!
家族や使用人、騎士などたくさんの人が見守る中、正面玄関前で改良版ドローンを出すと、おおーという大歓声があがった。
やっぱり昨日のよりだいぶ大きくて、迫力が違う!
色は爽やかに、青空の色にしてみたよ!
お兄様が庭の隅に置いておいた昨日の白いドローンをリモコンで操作しながら持ってきたので、比べると大きさの違いがよくわかった。
お父様には改良版に乗って貰って、私は昨日のドローンに乗ればいいか。
「おにいさま! チェリーナのためにもってきてくれたのですか? ありがとうございます!」
「えっ、違うけど。チェリーナたちが出かけてる間、昨日の魔法具で操縦の練習をしようと思って」
「俺も飛ばしてみたい」
そうなんですか?
でも、今から使うし。
お兄様、クリス様、ごめんね?
「チェリーナはお父様と一緒に乗るんだから、一つで十分だぞ」
え、お父様と一緒に乗ることになったの?
いつの間に……。
「べつべつに乗った方がたのしいですよ? きょうそうしたりできますし」
それにゆったり広々座れるし。
「ダメだ! 安全第一、競争はしないぞ。それにもしチェリーナが落ちそうになった時、別々に乗っていたら助けられないだろう?」
「ええー、おとうさまのおひざに座るのですか?」
お父様の足は岩のように硬いのに、膝に座れと言われたら困るよ。
私のおしりのピンチだ。
「やれやれ。昨日は散々お父様の足に乗って遊んでたのに、どうして急にそんなに嫌がるんだろうな。女の子は難しいな」
私に拒絶されたと思ったのか、お父様は心なしか傷ついたように眉を下げた。
周りからの同情の視線を一身に集めている。
お母様は、そんなお父様を慰めるようにそっと腕に手を添えた。
いやいや、別に嫌ってるとかじゃないからね?
「おとうさまのおひざは岩のようにかたいので、おしりがいたくなるのです」
理由を知ったお父様は、ほっとしたような、呆れたようなため息をついた。
「はあー……。それなら、お父様の隣に座ればいいだろ」
「はい、わかりました!」
よかった、私のおしりは守られた!
「チェリーナ、この乗り物に名前はあるのか?」
「なまえ? なまえはーーー」
か、考えてなかったっ!
飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ……。
「トブーンというなまえです!」
もう、何でもいいや。
それぞれ呼びやすい名前で好きに呼んでください。
「トブーンか。しかし、チェリーナは一体どうやってこういう物を考えつけるんだろうな? 空を飛べる乗り物など、見たことも聞いたこともないというのに」
うっ、自力で考えついたみたいになってるのはちょっと心苦しいな。
私が考えたんじゃなくて、前世の賢い誰かが考えたものなんだもん。
でも、前世の記憶があるなんて言える訳ないし……。
「やはり、神から授かった知恵なのだろうか……」
お父様が真剣な顔で考え込んでいる。
そうそう、全ては神様の思し召しってことにしておいてください!
「おとうさま、さあ座ってください! はやくいきましょう!」
「おお、そうだな。それじゃあ皆、行ってくる」
お父様は私を持ち上げてベンチに座らせると、自分も隣に乗り込んだ。
私はリモコンを握りしめると、元気いっぱいに宣言した。
「いざ、フィオーレはくしゃくけへ、しゅっぱーつ!」