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第166話 湖のほとりで


私はお父様の注意を引くべく、サッと手を上げた。


「お父様! 私にお任せください! 私の魔法でパパッといい感じに整えます!」


「いい感じに整える? 何をだ?」


「泊まる場所ですけど?」


他の話のわけないでしょ?

いままでの会話、ちゃんと聞いてたのかな?


「何をするつもりだ?」


「それは見てのお楽しみです! とりあえず湖のほとりに移動しましょう。広い場所が必要ですから」


町の中では一番大きい家だとはいえ、さすがにこの裏庭だけではスペースが足りない。


「わかった。ユリウス、お前も一緒に来い。あとで他の連中を案内してやってくれ」


「わかりました」


そして私たちは、ユリウスを伴って最初にトブーンで降り立った湖のほとりへと向かった。





「クリス様、やっぱりここの景色は素晴らしく綺麗ですね!」


「確かにいい眺めだな。あ、向こうに小さい島もあるぞ」


わあー、後で探検に行きたい!

でもとりあえず今は、泊まる場所を何とかしないと。


ルイーザのところみたいな白を基調としたビーチリゾート風もいいけど、湖のほとりならやっぱり山になじむコテージ風がいいかな。

色は控えめに白と焦げ茶色で、主張しすぎない落ち着いた家にしよう。


家の中は18畳のリビングダイニングキッチンと、10畳のベッドルームが2つあれば十分かな。

後から人数が増えることを考えて、客間兼収納スペースとしてロフトがあると便利かもしれない。

それからバストイレを付けて。


……待てよ?


もしかして私、魔法で水洗トイレ出せるんじゃないの!?

なんてこった、もっと早く気付くべきだった……!


「出来ました……」


「急に元気がなくなったみたいだけど、どうしたんだ?」


クリス様が不思議そうに首をかしげている。


「すごくいいことを思い付いて……」


「よかったじゃないか」


「でも、もっと早く思い付かなかったことが悔しくて……!」


創造魔法を使えるようになって7年経つけど、7年もの間ぼっとんトイレに甘んじてしまったなんてっ!

天才の名を欲しいままにしていた私としたことが、その称号を返上しなくてはいけないほどの痛恨のミスだ。


「これから便利になるならいいじゃないか。それで何を思い付いたんだ?」


確かに、たとえ遅くなったとしても思い付かないよりはずっとマシだ。

私はこれからみんなに水洗トイレ、ううん、ウォシュレットの素晴らしさを伝える伝道師になるよ!


「ーーポチッとな!」


ズズーーーン、ズッシーン……!


おおー、出た出た!

大成功だー!


「なっ、なんだ!?」

「家か?」

「すげえな、お嬢は家まで出せるのかよ」


2人で1軒使ってもらうとして5軒出してみたけど、湖の美観を損ねることなくバッチリ景色になじんでいる。


やっぱり色味は重要だ。

焦げ茶色にして正解だったな!


「さあ、みなさん! 家の中をご案内いたします! こちらへどうぞ!」


私は最寄りの1軒の家の扉を開け、みんなを中へ招き入れた。


さあさあ、立ち止まらないでどんどん奥へどうぞ!

そのまま突き当たりまで、ずずずいっと進んでください!


「おいおい、どこに行くんだ? 玄関から順番に説明してくれよ」


「お父様、まずはこの家の目玉商品からご紹介いたします!」


「商品? 売り物なのか?」


クリス様、そういう細かい言葉のアヤは気にしないでください!


「こちらにご注目ください!」


じゃん!

どうですか!


私は最奥の扉を開け放って自慢げに胸を反らした。


「……ここはなんだ?」

「狭い」

「俺たちは何を見せられてるんだ?」


ふふふ、いまご説明いたしますよ!

よく聞いてね!


「ここはトイレです!」


「は? 真っ先に便所かよ。他に見せるもんがあるだろうが」


ユリウスはちょっと黙ってて!


「ゴホン! まずは蓋を開けて、この椅子に座ります。そして使用後にこのレバーを引くと、なんと! ごらんの通り水が流れて清潔な状態を保てるのです! それから、こっちのボタンを押すと、おしりを洗うことも出来ますよ!」


「へえ……」

「チェリーナ……」

「……ハー、便所でケツなんか洗ってどうすんだ」


あ、あれ?

どうしてみんなそんなに興味がなさそうなの?


もしかすると、実際に使ってみないとウォシュレットの素晴らしさが伝わらないのかもしれない。

私の卓越したプレゼン能力にも限界があったようだ。


でも、さすがにここで実演するわけにはいかないし……。


「チェリーナ、他のところも見せてくれ」


お父様もみんなも、トイレよりも他の場所を見たがっている。


「はい……。どうぞご自由にごらんください」


自信作だったのに……。

はあ……、出鼻をくじかれて案内する気がなくなったよ。


「お嬢! この厨房はなんだ? どうやって使うんだ?」


私はもうやる気なくなったってば。

勝手に見ればいいじゃない……。


「お嬢!」


「わかったわよ……。ここをひねると火が着いて、元に戻すと火が消える。それからこっちは水が出る。それから食料は、こっちの冷蔵庫に入れておくと長持ちするわ」


とりあえず最低限、コンロと蛇口と冷蔵庫を説明すればあとは何とかなるだろう。


「す、すげえな! 魔法の家か……。俺、ここに引っ越すかな」


いやにキッチンに食いついたけど、ユリウスって料理できるの?

奥さんも貰わずいつまでも1人でフラフラしてるってことは、顔に似合わず意外と家事が得意なのかもしれない。


「おーい、チェリーナ! この風呂はどうやって使うんだ?」


お父様の姿が見えないと思ったら、どうやら浴室に行っていたようだ。


「ここをポチッと押すとお湯が出ますよ。お湯が溜まったら自動で止まります。それからこっちはシャワーといって、うちの浴室で使っている火消し君スーパーと同じように使えますよ」


「自動でお湯が張れるのか? これはいいな。うちの浴室にもほしい」


お風呂は気に入ってくれたんですね……。


「チェリーナ!」


今度はクリス様の呼ぶ声が。

もういいって……。


「チェリーナ!」


「なんでしょうか……」


「お前のおすすめのトイレを使ってみたよ。なかなかいいぞ、俺は気に入った」


クリス様!

使ってくれたの?


「そうなんです! 使ってみればあのトイレのよさを分かってもらえると思ってました! あっ、ちゃんと座っておしり洗いました? 座らないで水を出すとびしょ濡れになりますよ」


「そっちはまだ使ってない。今度使ってみるよ」


「はい! ぜひ使ってみてください!」


ふんふふふ~ん。

クリス様がウォシュレットのよさを認めてくれたなんて嬉しいな。

やっぱり価値観が似てるって大事なことだよね!





「じゃあそろそろ俺たちは引き上げよう。ユリウス、後のことを頼むぞ」


「はい、お任せください」


えっ、もう帰るの?

さっきの食料を配るの、手伝わなくていいのかな。


「でもまだーー」


「国王陛下に今回の事件を早く報告しなくては。それに、他にもいろいろ話がある」


いろいろって何の話?


なんとなくお父様の視線が鋭い気がする。

その視線の先のクリス様も若干タジタジのような……?


はて?


そして私たちは、トブーンでプリマヴェーラ辺境伯家へと戻って来た。


ぜんぜん領内を見て回れなかったし、どこに家を建てるかも決められなかったな。

いま現在町を盗賊に占拠されてるなら急いで報告しないといけないのもわかるけど、もう全部解決してるんだから、別に急ぐ必要なくない?


「いま帰った」


「お帰りなさいませ。みんな無事でしたの?」


私たちが居間に入ると、お母様とお兄様が帰りを待っていてくれた。


「ああ。俺たちは無事だが、占拠されていた3年の間に騎士と領民の何人かが犠牲になったそうだ」


「まあ……」


「うちならともかく、他所の領で騎士がたった10人しかいないとは、いくらなんでも警備体制に問題がある」


お父様はそう言って顔をしかめた。


普段魔物を相手にしているプリマヴェーラ辺境伯領の騎士たちは、王国一の戦力を誇っている。

うちの騎士たちなら10人の戦力で30人の盗賊を返り討ちにしても不思議はないけど、経験値に差がある他領の騎士たちにそれを求めるのも酷な話だ。


「……今回のことは、俺から父上に報告しよう。王家直轄地の警備体制の見直しも進言しておく」


「ええ、お願いいたします。それで、本題ですが」


お父様……、か、顔が怖いです……。

そんな目で見たら……、ほらあ、クリス様の顔が引きつっています。


「な、何の話……、かな……」


「失礼ながら、率直に言わせていただきます」


お父様は真剣な眼差しでクリス様を見据えた。



「ーークリスティアーノ殿下は、本当にあの男爵領をご自分の領地に選ぶおつもりなのでしょうか?」





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