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第164話 食糧支援を考える


こんな緊急事態なのに、お兄様って案外物分かりが悪い!


「……チェリーナ、通信機を俺に貸せ。チェレスか? 俺だ。すぐに騎士を10人ほど手配して、旧ラーゴ男爵領の領都へ来させてくれ。町が盗賊に乗っ取られていてな、もう盗賊は捕まえたが、後始末を手伝ってほしいんだ」


私の手から通信機を抜き取ったお父様が、端的に状況を説明する。


『ええッ、盗賊が町を!? 承知しました、直ちに手配します。旧ラーゴ男爵領というと、プリマヴェーラ辺境伯領の南西部と隣接した土地でしたね』


もー、お兄様ってば話が長い!

早く通話を終えて、騎士たちを寄越してください!


「そうだ。大きな湖を目印にするといい。うちから1時間もかからなかったぞ。急いでくれ。ーーあ、チェレス。どさくさに紛れてお前が来るなよ?」


『……わかっています。すぐに向かわせますので、失礼します……』


嘘だ!

お父様に釘を刺されなかったら、絶対にお兄様も一緒に来てたくせに!


お父様は通話を終了すると、転がっている盗賊たちをぐるりと見回した。


「いつまでも盗賊たちを外に転がしておくわけにもいかないな。うっかり逃げられたら後が面倒だ。とりあえず、うちの連中が来るまで家の一室に閉じ込めておくか」


「そうですね」


「あ、あの。私どももお手伝いいたします」


使用人たちが手伝いを申し出てくれたので、裏庭はお父様と使用人たちに任せて、私とクリス様は正門側に放置した盗賊を担当することにした。


庭をぐるりと回って正門側に着くと、私はパンパンと手を叩き盗賊たちに家に入るよう命じた。


「さあさあ、中に入った入ったー」


「か、絡まって……、動けねえ……」


もぞもぞと蠢く小山、もとい、盗賊の塊が苦情を言う。


あ、そうだった。

トアミンを外さないと……、って、ものすごい絡まってる!

さては逃げようとしたね……?


「あー、これは切らないと無理ですね」


私はアイテム袋からトアミン切断用のハサミを取り出した。


「ちょっと待て、まだ切るな。ーーおい、お前たち。おかしな真似をしたら命はないと思え。俺たちは二人とも魔法使いだということを忘れるなよ」


「ヒッ……」


そうか、腕尽くで逃げ出そうとする人もいるかもしれないんだ!

狙われるとしたら私じゃん!


何かされたらどうしようかと少しビクビクしたけど、私たちが魔法使いだと自己紹介したことが功を奏したのか、盗賊たちは抵抗することもなく大人しく家の中へと入っていった。


よしっ、任務完了だ!





そして私たちは、再度裏庭に戻ってお父様たちに合流した。


「えーと、次は……。町のみんなは、おなかが空いているわよね。とりあえず今日はお弁当を食べてもらうとして、元の生活に戻るまでの食糧支援が必要だわ」


はー、忙しい忙しい!


「食糧支援? まさか、毎日通っておべんとーを配る気か?」


クリス様がうんざりした顔で尋ねる。


いや、私もさすがにそれはちょっと。

いくら近いとはいえ、毎日往復2時間は気乗りしないよ。


「日持ちのいい食材を配るんですよ。えーと、干し肉と、卵と、じゃがいも……それくらいですかね? ほかに何かいいものありますか?」


夏野菜はこの季節なら毎日収穫できるから、新鮮なものを畑から調達できる。

魚も湖から獲れるし。


うん、そこそこ栄養のバランスも取れてると思うな!

あ、チーズも出してあげたらチーズオムレツが作れる。


「チェリーナ、パンがないじゃないか。食事にパンは付き物だろ?」


お父様がパンを出すことを提案してきた。

お弁当のご飯も好きみたいだけど、お父様的には食事に欠かせないのはパンのようだ。


パンねぇ……、最初の2~3日分なら出せると思うけど……。


「だって、パンは日持ちしませんよ?」


この季節だと、すぐにカビが生えちゃうから。


「小麦粉を渡せばパンぐらい自分達で作るだろう。今までそうしてたんだから。小麦粉は卵やじゃがいもよりずっと日持ちする食材だぞ。それから、チェリーナが考えたっていうパスタ。あれも2年位保存できるって話じゃなかったか? アルベルティーニ商会で商品化に成功して、飛ぶように売れてるそうだぞ。一緒に売り出した瓶詰の肉のソースも評判がいいようだ」


なんと!

粉で渡す発想はなかった!

お父様、すごい頭いいー!


それにしても、アルフォンソってばいつの間にパスタの商品化に成功してたのよ。

抜け目なくボロネーゼソーズまで売り出していたとは、アルフォンソ……、恐ろしい子。


「なるほど! さすがお父様ですね、目の付けどころが違います! 私、ぜんぜん思いつきませんでした。小麦粉があればパンもお菓子も作れますね」


やっぱり領主ともなると、長期保存できる食料のことは頭に入ってるんだな。

不作や自然災害、それに魔物の被害が出ることもあるかもしれないし、常に万が一のことを想定しておかないといけないもんね。


「ははは、誰でも思い付くことだよ。ちょっと褒めすぎだな」


そんなことないですってー!

お父様が名領主だからに決まってる!


私がお父様の腕にぎゅうぎゅう抱き着いていると、後ろからクリス様の不服そうな声がした。


「町の連中に早く知らせてやった方がいいんじゃないのか。盗賊を捕まえたってこと」


「あ、そうでした! 早く知らせてあげましょう」


そうだそうだ。

もう心配はいらないってこと、みんな少しでも早く知りたいよね。


「あの、よろしければ、お屋敷にお戻りいただくよう代官様をお呼びして参ります。その時に通りすがりの何人かに声掛けすれば、すぐに噂が広まると思います」


隠れ家の場所を知っているらしい使用人の男の人が、代官を呼んできてくれると言っている。

ぜひお願いします!


「そうね、お願いするわ! ついでに食べ物のことも心配しないでって言っておいてちょうだい。今日中になんとかするわ」


「はいっ! ありがとうございます、お嬢様!」


男の人は喜びを抑えきれない様子で踵を返し、たたっと走り出した。





ブバババババーーー!


おや、あの音は。

まだ1時間経ってないのにもう着いたの?


空を見上げると、2機のトブーンがこちらに向かって飛んでくるのが見える。

どうやら第一陣が高速トブーンに風魔法をプラスして駆けつけてくれたようだ。


「おーい、おーい! こっちだよー! あ、バルーンが邪魔だ。アイテム袋に仕舞っておこう」


私は出しっぱなしだったバルーンをアイテム袋に回収した。


「チェーザレ様! ご無事でしょうか」


トブーンを着地させると、騎士たちはお父様の元へ駆け寄った。


「おお、来たか。早かったな」


「はい。お急ぎとのことでしたので、我々が先行して駆けつけました。後続の3機は風魔法使いが同乗しておりませんので、もうしばらくかかるでしょう」


「そうか」


「あの、先ほどまであった目印が消えたようですが……? 我々のために出しておいてくれたのでは?」


目印……?

ああっ、バルーンか!


「バルーンのことか。あれを目印にしてきたんだな、なるほど」


確かに町中にあんな大きなものがあったら遠くからでも目立つな。

どうやら、後続の騎士たちのためにも外に出しておいたほうがよさそうだ。


「着地させるときに邪魔になるかと思ったんだけど、目印になってたなら出しておくわね」


「おお! 近くで見るとずいぶん大きいですね。これは何なのでしょうか?」


アイテム袋から出したバルーンを見上げながら、騎士が尋ねた。

あ、気になっちゃいます?


「これは大人数で空を飛べる乗り物よ。高速トブーンより速度は落ちるけれど、最高速度は初期型トブーンと同じなの。そして、飛行音がしないことが特徴ね」


「大人数ですか。それは素晴らしい。マルチェリーナ様は本当に独創的なものを次から次へと、恐ろしいほどの魔法の才能ですね。さすがはチェーザレ様の自慢のお子様だ」


風魔法使いの騎士は感心しきりの様子だ。


えへへ、そう?

そうかな!

そんなに褒められたら照れるー!





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