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第16話 フィオーレ伯爵家からの手紙


私が言い終わると同時に、目の前にドローンが現れた。


ドシッ!


重量感のある音と共に、無事に地面に着地する。

わあー、すごいすごい!

第一号機のドローンの色は、無難な白にしました!


アルベルトがたたっと駆け寄って、ベンチによじ登って喜んでいる。


「チェリーナ、すごいよ! 何もないところからこんなものを出せるなんて! これで本当に空を飛べるの?」


アルフォンソが興奮を抑えきれない様子で私に尋ねてきた。


「たぶん飛べるとおもうけど、あまり重いとだめかも」


取り付けたベンチ自体が結構な重さがあるように見える。

人を乗せたら更に重くなるよねえ。

でも、こんな大きなものをこの場に放置するわけにいかないし、なんとか飛んでもらわないとな。


よし、とりあえず、人を乗せないでドローンだけ飛ばしてみよう!


「アルベルト、ちょっとじっけんするから下りて」


「じっけん?」


アルベルトは実験の意味が分からないようだったが、ベンチから下りて私の横に並んだ。

護衛のおじさんたちも、クリス様を守るようにクリス様の両側に立った。


「さあ、それでは飛ばします! 空たかくとべーーーー!」


私はリモコンの上下コントロール用つまみをグイッと押し上げた。


ブブブブブブブ!


プロペラが音を立てて回り始めると、ドローンはゆっくりと宙に浮かび、5メートルくらいの高さのところでとどまっている。

あれ?

もしかして、これ以上高くあがらないの?


ま、まあ、高さはとりあえず置いといて、進むかどうかやってみよう。

私は前後左右コントロール用のつまみを操作して、ドローンを前へ移動させることにした。


ブブブブブと音を立てながら、ドローンはすいーっと前へ動いた。


「チェリーナ! すごいよ! 大成功だね!」


大成功かなあ?

思ったより高くあがらなかったけど、大成功と思っていいの?


それに、まだ人を乗せてないし……。

いったんドローンを下ろして、試しに乗ってみようっと。


「ちょっとチェリーナが乗ってみます」


「マルチェリーナ様、お待ちを! 万が一落ちては危険です。私が代わりに試してみましょう」


でも……、マッチョのおじさんが乗ったんじゃ、飛べるものも飛べなくなる気がするな……。

軽い子どもから試すのがいいと思うんだけど、でも納得してくれなさそうだし仕方ないか。


「では、おねがいします」


「はっ」


リモコンを操作してドローンを浮かせてみる。

ドローンはブブブと音を立てながら、フラフラと浮かび、3メートルくらいの高さまであがった。


おー、思ったより頑張ってるなあ!

きっと、もっと体重が軽ければもうちょっと高く上がる気がするな。

よし、今日のところは、これで大成功としておこう!





翌朝、モリモリと朝食のパンを頬張っていると、一足先に食べ終えたお父様が話しかけて来た。


「チェリーナ、今朝早くフィオーレ伯爵家から鷹が飛んできたんだがな」


もぐもぐもぐ、ごくん。

何だろう、この間のお礼の手紙かな?


フィオーレ伯爵家は、仕事の関係でたくさんの鷹を所有している。

うちの領はフィオーレ伯爵家に飛べる鷹はいないけど、フィオーレ伯爵家にはうちの領に飛べる鷹がいるから、向こうから連絡をくれれば手紙のやり取りが出来るのだ。


「はい。おてがみにはなんて書いてあったのですか?」


「実は、お前のらっぷが大評判になってるらしくてな。もっと譲ってもらえないかと言ってきてるんだ」


ええ、なんでまた。

フィオーレ伯爵家ってそんなに怪我人だらけなんだろうか。


「えっ、もう使いきったのですか? そんなにけが人がいるなんて、じこでもあったのですか?」


「いや、怪我人ではないよ。お前と同じ病気の治療に使ったそうだ。フィオーレ伯爵領では病気は流行っていないが、別の領で暮らすフィオーレ伯爵家の主治医の息子一家が病気に罹ってしまってな。中でも孫娘が一番症状が重く、主治医の息子が何か手立てはないかと手紙を送って来たそうなんだ」


そうだ。

私は重症だったのに奇跡的に回復できたけど、流行り病はまだ根絶したわけじゃない。

お父様の話からして、他の領ではまだまだ猛威を振るっているようだ。


「それで、カレンデュラからお前の病気が綺麗に治ったことを聞いた主治医が、らっぷを分けてもらえないかとフィオーレ伯爵に願い出てな。鷹を使って、息子一家の元へ手紙とらっぷを少し送ったそうなんだ」


うん、あのジェルソミーノおじさまなら、二つ返事で了承するだろう。

伯爵本人に限らず、フィオーレ伯爵家の人々はみんな人がいい。

あまりに人が良過ぎて、悪い人に騙されるんじゃないかと周りがこぞって心配するほど底抜けなのだ。


花の名産地で花に囲まれているせいなのか、おっとりのんびり、ちょっと浮世離れした感じなんだよね。

もちろん荒事は大の苦手で、軍事方面は代々筆頭騎士を務めている家臣の騎士爵家に一任していると聞く。


「そうなのですか」


「息子一家はらっぷの効果ですぐに良くなったのだが、噂を聞き付けた人たちが後から後から押し寄せてきているそうなんだ。息子も医者をしているというから、病気の人々を見捨てることも出来ないのだろう。それで、困り果ててまた父親に連絡をしてきてな」


「はい」


それは困るだろうな。

でも、押し寄せる人の気持ちもわかる。

誰だって一縷の望みがあるのなら、それに賭けたいと思って当然だ。


「フィオーレ伯爵が持っているらっぷを全て与えても、まだ騒ぎが収まらないそうなんだ。チェリーナ、助けてやってくれるか?」


「もちろんです。ただ、一つだけじょうけんがあります」


「条件?」


お父様は私が条件を出したことが意外だったようで、目をぱちくりと瞬かせた。


「むすこさんもお医者さんとのことですが、顔のちりょうは誰でもむりょうでしてあげてほしいんです。お金がない人のこともたすけてあげてほしい。それがじょうけんです」


顔に痕が残るのと、体に痕が残るのじゃ精神的ダメージが大違いだからね。

お金持ちから体の治療費を取れば、息子一家の生活にも支障はないだろう。


「チェリーナ……」


「あっ、あと、ラップを作ったのはチェリーナだということもひみつにしてほしいです! じょうけんが二つになっちゃいました」


かっこつけて条件が一つあるとか言っておいて、二つになっちゃったよ。

私は、えへへと笑ってごまかした。


お父様は優しい目で私を見ると、しっかりと頷いてくれた。


「よし、わかった。チェリーナの望み通りになるように取り計らおう」


「はい」


「しかし、らっぷの運搬はどうするのかな。ここからフィオーレ伯爵家までは馬車で行くとしても、そこから馬車で各地に運んでいては時間がかかりすぎるし、かといって鷹に括り付けては量が運べないしな」


あれっ!?

もしかして、さっそく私の秘密兵器の出番ですか?


「おとうさまっ!」


私はバンッとテーブルに手をついて勢いよく立ち上がった。


「うおっ、なんだ!?」


「チェリーナにおまかせください! チェリーナのひみつへいきでフィオーレはくしゃくけまで運びましょう!」


「秘密兵器?」


お父様は、また私がおかしなことを言い出したと思ったのか、怪訝そうな顔をして聞き返した。


「あっ、昨日魔法で出した空飛ぶ椅子のこと? 確かに空を飛べば馬より早いし、盗賊に襲われることもないから安全だね!」


お兄様は満面の笑みを浮かべて、パチンと手を打った。


「はい! クリス様のごえいきしがのっても飛べました。チェリーナがフィオーレはくしゃくけへ行けば、そこでたくさんラップを出せます」


「なるほど……。いやしかし、チェリーナを一人で行かせるわけにはいかないぞ。お父様も一緒にそれに乗れるのか?」


「おとうさまはむりです」


無理に決まってるでしょ。

お父様、何キロあるんですか?





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