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第157話 いざ、新天地へ


翌日、予定通りにお昼頃に到着したクリス様と私は、プリマヴェーラ辺境伯家の玄関前にトブーンを着地させた。

お兄様は少し手前で分かれてカレンデュラをフィオーレ伯爵家へ送って行ったので、私たちとは別行動だ。


「はあー、懐かしい! クリス様、やっと我が家に帰ってこれましたね!」


「つい3週間前にも同じことを言っていたぞ」


そうだっけ?

3週間ぶりかあ。

学院に通う前は毎週末帰ってくるつもりだったのに、いざ通い出したら何かと忙しくて中々帰省できないな。


「クリスティアーノ殿下。チェリーナ」


トブーンの音に気付いたお父様たちが外に出て来てくれた。


「お父様、お母様! ただいま帰りました!」


「お帰りなさい。待っていたわ。昼食の用意が出来ているわよ」


お母様が微笑みながら迎えてくれる。

私たちは並んで食堂の方へと歩き出した。


「そう思って途中で食べずに帰って来たんです。お母様、聞きました? クリス様が領地に連れて行ってくれるんですって!」


私は嬉しさのあまり、お母様の腕に抱き着きながらぴょんぴょん跳ねた。


「ええ、聞いたわよ。どこになるのかしらね。近いところだと嬉しいわ」


「僕も近いところだと嬉しいよ」


あれっ、もう追い付いたの?

振り向くと、いつの間にかお兄様が立っている。


「お兄様、早かったですね」


「まあね。クリス様の領地を見に行く時はみんなで行こうよ。僕も早く見たいし」


え……、残念なお知らせですけど、みんなで行くならお兄様はお留守番なんじゃない?


「悪いが、俺とチェレスは一緒には行けないぞ」


「ええー、もし魔物が発生したとしても、トブーンがあればすぐに駆けつけられますよ」


「2人同時に事故に遭う可能性もあるだろう」


やっぱり……。

小さい頃から何度も言われてるのにお兄様ったらわがままなんだから。


「まあまあ。お兄様はカレンと一緒に遊びに来ればいいじゃないですか」


「はあ……、僕っていつも留守番役だよな……」


うん、そこは諦めてください……。

もしお兄様に跡継ぎの男の子が出来たら、その子と一緒に旅に出ることも出来ないということもお忘れなく……。



私たちが食堂に入りそれぞれの席に着くと、すぐにおいしそうな料理が運ばれてきた。

ボリューム満点の昼食を取りながら、新しい領地の話に花を咲かせる。


「それで、その領には代官がいるから、私たちは名物料理の開発とか、観光業に力を入れられたらいいなって思ってるんです」


大きな湖があるって話だし、白鳥型のボートを浮かべて恋人たちの聖地にするとか!

ボート乗り場の近くには売店も必要だな。


「チェリーナ、領地経営は代官に任せっぱなしにする訳にはいかないぞ。領主がしっかり目を光らせて、主導することが大切だ」


お父様は真剣な顔で私を諭した。

そうなんだ……、領地経営なんて難しそうなこと、まだ10代の私たちだけで大丈夫なんだろうか。


「……俺も、代官がいるならある程度任せられると思っていたが、そう単純な話ではないんだな……」


「クリス様、私たち、上手くやっていけるでしょうか……」


よく考えてみたら、その代官がいい人とは限らない。

海千山千の悪代官だったら、とても私たちの手に負えない気がするよ……。


「よし。クリスティアーノ殿下の領地を見に行く時は、俺も一緒に行ってやろう。その領に何も問題がないか、代官が信用に値する人物か見極めたい」


お父様!

やっぱり私のお父様は頼りになる!


「わあっ、そうしましょう! よかったですね、クリス様」


「ああ。よろしく頼むよ、プリマヴェーラ辺境伯」


クリス様もホッとしたように笑顔を見せている。


「はい。微力ながら力添えいたします」


お父様と旅行に行くなんて久しぶり!

楽しみだな!





翌日はお父様がエスタンゴロ砦へ行く予定があったため、クリス様の領地見学は翌々日に行くことになった。


お父様、エスタンゴロ砦に行くのかあ。

私はしばらく行ってないな。


あんまり顔を出してないと私のこと忘れちゃうかもしれないし、砦のおっちゃん騎士たちはお酒が好きだから、お土産にワインでも差し入れしようかな?

うん、そうしよう!


「お父様、砦のみんなにワインを差し入れしますね! みんなによろしく言っておいてください」


「おおっ、ワインか! みんな喜ぶよ。俺の分の在庫も残り少なくなったから、そっちも頼むな」


お父様はホクホク顔でナチュラルに自分用のワインまで要求して来た。

お父様……、基本的には物欲ないのに、ワインだけは別なんですね。


何でみんなそんなにお酒が好きなんだろう?

ぶどうジュースの方が味は勝ってるのに不思議だよね。





そして、待ちに待ったクリス様の領地を見学しに行く日がやってきた。


一緒に行けないお兄様が、不服そうな顔でこっちを見ています……。

せめてどの辺りなのか教えてあげればいいのに、クリス様は頑固にも口を閉ざしたままだ。


「それじゃ出発しよう」


「はい! 帰ってきたらいろいろ報告しますねー!」


私は見送りの人たちに大きく手を振り、屋敷を後にした。

飛び立ってしばらくしてから後ろを振り向き、お父様がちゃんと付いて来てるか確認してみる。


よしよし、迷子になってないね!


「プリマヴェーラ辺境伯は付いて来てるか?」


「はい、大丈夫ですよ。こっちは、フィオーレ伯爵領とは逆の方向ですね」


私たちは今、アゴスト伯爵領へ通じる街道の上を飛んでいた。

しっかり道順も憶えとかないといけないな。


「そうだな」


「ポルトの町へ行く時にこっちを通りますね」


「そうだな」


むむむ、ここまで来てもまだノーヒントを貫くんですね……。


飛び始めて小一時間も経つと、代わり映えのしない景色を眺めるのに飽き飽きしてきた。

しかたがないから、休憩の時の飲み物の新作でも考えてようかな。


真夏だし、かき氷に飲み物を注いでフラッペにしてもいいかも。

クリス様の好きないちごを使って、いちごヨーグルトのフラッペなんてどうかな。


「見えてきたぞ」


「えっ?」


もう?

まだ休憩も取ってないし、出発してから1時間位しか経ってないよ?


「あの湖のある一帯が俺たちの領地だ」


「わあーっ! 大きな湖ですね! きらきら光って綺麗です」


いつの間にかアゴスト伯爵領方面への街道を外れていたらしく、目の前には見たことのない美しい景色が広がっていた。


うちからこんなに近いなんて!

もしかして、プリマヴェーラ辺境伯領のすぐ隣なの?


「とりあえず、あの湖のほとりにトブーンを下ろしてみようか。町へは歩いて行こう」


「そうですね。領民を驚かせないように、人気のないところに下ろしましょう。お父様にも合図を送りますね!」


私は後ろを振り向くと、お父様に手を振ってから湖を指さした。

お父様は分かったというように大きく頷いている。


私は、クリス様がトブーンを着地させるのを待ちきれない思いで見守った。


「なかなか美しいところだな」


「はい! とっても綺麗です。この湖のほとりにお屋敷を建てたら、毎日この湖が見れますね」


「ここは……、もしや旧ラーゴ男爵領ですか?」


いつの間にかお父様もトブーンを着地させていて、湖を眺めながらゆっくり近づいて来た。


「そう、俺は旧ラーゴ男爵領を賜ることにしたんだ」


「しかし……、公爵位を賜るクリスティアーノ殿下のご領地が男爵領なのですか? それでは、あまりにも……」


お父様には予想外の領地だったらしく、心配そうに顔を曇らせている。

男爵領ということは、公爵領に比べると格段に税収が少ないに違いなく、お父様はそのことを案じているのかもしれない。


「この地では、農業だけに頼るつもりはないんだ。チェリーナに金の苦労はさせないから、どうか心配しないでほしい」


「はあ……」


心配するなって言われても心配だよね……。



ガサガサガサッ!


突然、繁みの中から、数人のやせ細った子ども達が現れた。


「ヒッ!」


どうやらベリーを摘んでいたらしい子ども達は、私たちがそこにいたことに気が付かなかったらしい。

怯えて息を呑んだかと思うと、蜘蛛の子を散らすように逃げて行ってしまった。


え、あの……、なんで逃げるの?






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