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第153話 おぼろげな記憶


「きゃーっ! お兄様、なにかに引っ張られています! ものすごい力です!」


このままじゃトブーンごと海に落ちちゃうよ!


「え……、手を離したら?」


「それは出来ません! すごい獲物かもしれないんですよ!」


もし大海老なら絶対に捕まえたい!


「なら、ロープを僕のほうへ寄越して。トブーンの操縦を代わろう」


初期型と違って、最近使っているトブーンは風よけを付けているせいで、横の部分しか開いていない。

つまり、私のすぐ横からトアミンを投げ入れているから、お兄様にロープを渡すためにはかなり力を入れてたぐり寄せなければならないのだ。


お兄様、渡すことが出来るくらいならこんな状況になってないですってーッ!


「たすけてっ、お兄様ッ!」


あ、あ、あ……!

横に思い切り引っ張られて体が浮き上がり、シートベルトからすっぽ抜けそう!


「チェリーナッ! 手を離せ!」


そう言われても、ロープ部分をぐるぐると手に巻きつけていたことが仇となり、焦って手を離そうとしても離れない!


「おにいさまーッ!」


ドッボーーーン!


ぶくぶくぶく……。


ああ……、シートベルトは車みたいにくの字型にすべきだった……。

腰の部分にーの字型じゃ、ホールド力に難があったよ……。


こんど……、生まれ変わったら……、シートベルトはくの字型にーーー。


『ーーリーナ! チェリーナッ!』


……あれ?

水の中でふと気が付くと、いつの間にか引っ張られる力が弱くなっている。

というか、もう止まってるんじゃない?


「ぷはっ!」


おお、顔を出せた!

息ができる、息ができるよ!


「チェリーナ! 大丈夫かっ!」


「ク、クリスさま……?」


よく見ると、ジュリオにトブーンを操縦させたクリス様が、身を乗り出して私に手を差し伸べていた。


クリス様……、私を助けに来てくれたの?


「だ、だいじょぶ……じゃない。クリスさま、わたし、うみにおちましたっ! ぷあっ!」


「それは見れば分かる。落ち着いて、その手に持っているものを放して俺の手を掴むんだ」


そうだ、ロープを放して……。

あれっ、何かがトアミンに絡まってプカプカ浮いてる?


なにあれ、とんでもなく大きいけど、イルカかな?

なんか、死んでるみたいだけど……。


「はあっ、はあっ……。うう、とれない。あっ、とれました!」


私は水分を含んでますます手に食い込んだロープを苦労して外すと、ばしゃばしゃ泳いでクリス様のほうに近づいた。


「よし、しっかり掴まれ!」


「はいっ」


私が必死に手を掴むと、クリス様はぐいっと私を引っ張りあげようとするけど、トブーンがゆらゆら揺れてどうにも安定しない。


「……引き上げるのは無理そうだ。すぐそこまで船が来ているから、船が着くまでこのまま待つしかないな」


「はい……」


首を捻って周りを見てみると、確かにすぐ近くにこちらに向かってくる船がある。

この距離ならすぐに助けに来てくれるだろう。


上を見上げると、心配そうに私を見ているお兄様の姿が目に入ったので、手を振って合図を送る。

トブーンを操縦しながらじゃ、どうすることもできないもんね。


お兄様、心配かけてごめんなさい……。


「はあー……。ーーまったく、お前は……」


あれ……?

なんか、デジャブ……。


以前にも、間一髪のところでクリス様がこんな風に手を掴んで助けてくれたことがあったような?

そして、今みたいに「まったく、お前は」って言ってハアッてため息ついてた……?


「クリス様、前にもこんなことがあった気がします」


「……思い出したのか?」


えっ?

やっぱり以前にもあったの?

いつだったのかぜんぜん思い出せない。


「なんとなくそんな気がするだけで、詳しくは思い出せません」


「……そうか。お前が病気になる前のことだからな」


クリス様は残念そうに微笑んだ。


今まで全く気にしてなかったけど、クリス様と初めて会った頃のこと、やっぱり思い出したいな……。

どうにか思い出せないかな……。


「おーい! 大丈夫かー!」


ああ、やっと船が着いたー!


「こっちだ! 船に引き上げてくれ!」


「おうよ! いやあ、それにしても、魔法ってなすげえもんだな? このデカいソードフィッシュを一撃で仕留めるとは恐れ入ったぜ」


船には日に焼けたおじいちゃんと若い男の子が2人乗っていて、男の子たちが私を船に引き上げている間に、おじいちゃんは呑気に魔法についての感想を述べていた。

どうやら私が魚に引きずり回されているところを、クリス様が魔法で仕留めてくれたようだ。


それにしても、このソードフィッシュっていう魚は大きいな。

私よりずっと重そうだし、私の力じゃ負けるわけだよ。


「はあはあ……、みなさん、助けていただいて、ありがとうございます。はあっ……」


「いいってことよ! おい、お前ら、ソードフィッシュも船に繋いでくれ。今日はもうこれで港に帰るぞ」


そして私たちは、ソードフィッシュを繋ぎ終わるのを待って、港へと船を漕ぎ出した。





先に戻っていたお兄様やクリス様たちより少し遅れて、私もやっとのことで港へと辿り着いた。

ふうー、酷い目にあったよねー。


「チェリーナ!」

「チェリーナ!」

「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」


港から私が落ちたところを見ていた人々が集まってきて、あっという間に人だかりになってしまった。


「みんな! 心配かけてごめんなさいね。海老は獲れなかったけど、ソードフィッシュを捕まえたわ」


海に落ちて手ぶらで帰還じゃ何だからね!

私は転んでもただでは起きない女なんです。


「ええっ、なんだって!」

「ソードフィッシュを!?」

「初めて漁に出たド素人がソードフィッシュだと!?」


ソードフィッシュという単語を聞きつけた港のおじさんたちが、ざわざわと大騒ぎし始めてしまった。

え、そんなに驚くようなことなの?


「おうおうおう! 俺が休憩でちょっと目を放した隙に、いったい何の騒ぎだ!」


怒鳴りつけるような声で人垣を掻き分けてやってきたのは……。

か、海賊!?


でもどこかで見たような……?


「……あらっ、おじさま、おじさまじゃありませんか?」


よく見たら、このガラの悪いおじさんに見覚えがある!


「あん?」


海賊もどきのおじさんは、訝しげに私を見た。


「ダニエルのお父さん!」


「あっ! その赤毛は、もしかしてプリマヴェーラ辺境伯のお嬢様かい!? そんなずぶ濡れで何やってんだ?」


エ、エヘ。

久しぶりの再会なのに、こんな姿で申し訳ない。


「海老を獲ろうと思ったら代わりにソードフィッシュを捕まえてしまって。引っ張られて海に落ちてしまったんです。ほら、あそこの魚ですよ」


私は、大勢で港に引き上げてくれているソードフィッシュを指さした。

わあー、全貌が見えるとさっきよりも大きく感じるなあ。


「うん? ありゃ、うちの爺様と息子たちじゃねえか」


「えっ、そうだったんですか?」


いやあ、偶然だなあ。

ダニエルの実家とは何かと縁があるんだな。


そういえば、親戚にもなるんだし、これからもよろしくお願いしとかないと。


「私、あのお爺様と男の子たちに助けていただいたんです。何かお礼がしたいわ。何がいいかしら? これから親戚になるんですから遠慮しないでくださいね」


海に落ちた人を助ける用の、高速救助船とかどうかな!

見た目は釣り船みたいになるとは思うけど!


「……親戚? 嬢ちゃんは何を言ってるんだ?」


え、だから、親戚でしょ?


「親戚とは、血縁や婚姻によって結びつきのある人のことですよ?」


「言葉の意味じゃねえよ、なんで俺と嬢ちゃんがこれから親戚になるんだ?」


ああ、そういう意味か。


「ティーナとダニエルが結婚したら、私たちも遠い親戚になるんじゃないですか?」


従姉妹の義理の親って、親戚のうちなんじゃないの?






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