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第151話 夢見心地な人


「ゆ、夢のように、素晴らしい結婚相手……、俺が……」


ガブリエルは、頬を赤くしてオルランド様の言葉を反芻している。

この照れ方を見ると、どうやらガブリエルがオルランド様をお慕いしているのは間違いないようだ。


まあ……、お互いに望んでいるなら……、外野がどうこういう問題じゃないよね。


「分かりました……。オルランド様がそういうお覚悟なのでしたら、私も祝福させていただきますわ」


よく考えてみたら、ガブリエルには気の弱そうな令嬢より、オルランド様みたいにしっかりと自分を持った女性の方が似合うな。

オルランド様なら、ガブリエルの暴言や暴走を止めるストッパー役にもなれるだろうし。


「そうですわね」

「オルランド様、ガブリエル様、おめでとうございます」

「おめでとう」


みんなが新しいカップルへ口々に祝福を送っている。


「ありがとう、みんな」


「……」


ぷぷ、ガブリエル、もしかして恥ずかしくてしゃべれないの?

常に小憎らしい態度のガブリエルだけど、こういう可愛いところもあったんだねぇ。


「そうだわ、お2人で浜辺へ行かれてみては? 静かでとても美しいところですよ。ガブリエル様、そこできちんと求婚されてはいかがでしょうか? あんなうっかり口を滑らせたのが求婚の言葉だなんてあんまりですわ」 


私は、仲人よろしく若い2人を浜辺へと誘ってみた。


裏庭から直接出られるアゴスト伯爵家のプライベートビーチは、領内でも指折りの絶景ポイントなのだ。

観光客もいないし、プロポーズするにはもってこいの場所だよ!


「う……」


「ははは、それはいいね。そうさせてもらおうか、ガルコス君?」


「……はい」


ガブリエル、がんばって!

一生の思い出になるような素敵なプロポーズを期待してるよ!


それにしても、ガブリエルがついに婚約かあ……。

ああいう旦那を持つと、奥さんはきっと苦労が多いんだろうな。

クリス様の方がずっといいよね!


私がなんとなくクリス様を見ていると、その向こうにお兄様を見ているカレンデュラが目に入った。

ルイーザもジュリオを見ている。


2人とも……、いま自分の婚約者の方がずっといいと思ってたでしょっ!

みんな考えることは一緒だね。





ザザ……、ザザーン……。


涼しげな波音が聞こえるビーチに出ると、爽やかな風が頬を吹き抜けていった。


「気持ちのいい風ですね……」


私は隣にいるクリス様に向かってほほ笑んだ。


「そうだな。しかし、できれば海に入って遊びたいけどな。いつまでこうしてるつもりなんだ?」


クリス様から不満の声があがる。

私たちはいま、岩場の影に身を潜めているところだからだ。


いつまでって言われても。

それはガブリエル次第としか……。


「しっ、小さな声で話してください。ガブリエル様が求婚の言葉を口にするまでの辛抱ですよ!」


ガブリエルがちゃんとできるか見守っててあげないと!


「俺たちにいったい何の関係が……」


「いいからいいから!」


いいところを見逃しちゃうかもしれないじゃないですか!

私は食い入るように2人の姿を見つめた。


「……さっきから話をしてないじゃないか」


「そうですね」


まったく、ガブリエルってほんとヘタレだよね!

もうOKしてもらえるって確実なんだから早く言えばいいのに!


「あっ。オルランド様がガブリエル様のほうを向きました」


「……握手を求めている?」


えーと、どういう状況?


「どうやら、ガブリエルが何も言えずにいるから、ジャルディーニ先輩が痺れを切らして自分から求婚したんじゃないかな? そして、これから仲良くやっていこうと言って握手を求めた。そんなところだよ、たぶん」


私たちと同じように、近くで成り行きを見守っていたお兄様が自説を展開しているけど……、うん、その説は当たってそうだ。


「なぜ言えないんだろうな? 俺は10歳の時に言ったけどな」


え……、なんで若干自慢げなの?

自慢できるようなプロポーズじゃなかったでしょーよ。


「酷い言葉でしたけどね!」


「でもちゃんと通じたし、お前も了承したじゃないか」


えーっ、了承したっていうか、断れなかったっていうほうが正しくないかな。


「不満があるなら、こんなところで人の求婚を覗いてないで、チェリーナこそクリス様に改めて求婚してもらえばいいじゃないか」


うーん、でもねえ。

プロポーズってそんなに何度もしてもらうものでもないしな。


「それはいいです。一生に一度の言葉なんですから。あれはあれで思い出になってますし」


たとえ酷い言葉でも、忘れられないプロポーズになったことは間違いないしね。


「ふーん。いいなら、そろそろポルトの町に遊びに行こうよ。お土産も買いたいしさ。父上は魚介の串焼きが好きだから買って行ってあげよう」


そうそう!

この機会に海の幸をたくさん買って帰らないと!


アゴスト伯爵家の料理人が作る料理はもちろん絶品だけど、屋台のB級グルメも中々いけるんだよねぇ。

小腹が空いたときのおやつにもなるし、片っ端から買い占めたいくらいだ。


「そうですね、特に海老とホタテをたくさん買って帰りましょう。お父様は海老がお好きですよ!」


「海老が好きなのは自分だろ。買うのはいいけど、1人で食べ尽くすなよ?」


わかってます!

私、そこまで食い意地張ってないし!


「オルランド様ー、ガブリエル様ー! 私たちはポルトの町に行きますけど、お二人はどうしますかー?」


私は声を張り上げてガブリエルたちに声をかけた。


置いていくのも何だから一声かけたんだけど……、振り向いた2人は、岩場の影に鈴なりになっていた私たちにぎょっとしている。


「はは、みんないたのかい? ガルコス君、私たちも町に遊びに行こうか?」


「え……、はい……」


そういえばさあ。

婚約者になったのに、ガルコス君、ジャルディーニ先輩って呼び合うってどうなのかな。


「オルランド様、ガブリエル様のことはお名前でお呼びになられては? オルランド様もガルコス姓になられるのですし。ついでと言ってはなんですが、私のことはチェリーナとお呼びください!」


「そうだね、これからはガブリエル様と呼ぶことにするよ、チェリーナ」


キャー!

オルランド様ー!


「ガブリエル様もオルランド様をお名前でーー」


ガブリエルの方を振り向いた私は、呆気に取られて言葉を切った。


は?

なんでゆでダコになってるの?

人間ってここまで真っ赤になれるんだ……。


そういえば、たこ焼きも食べたいな。


「ガブリエル様、大丈夫かい? よかったら、私のことも名前で呼んでくれないかな。実は、父から女性名に名を変えてはと勧められていてね。父はオルランディーヌにしようなどと言っているんだよ。私はあまり大仰な名よりも、オルガのような短い名がいいと思うんだが。ガブリエル様はどちらがいいかな?」


オルランディーヌとオルガの二択?

聞くまでもなく、オルランディーヌの圧勝じゃないかな。


戦士っぽいオルガよりも、どう考えても美人ネームのオルランディーヌを選択すべきだよ。


「オルランディーヌ・ガルコス、オルガ・ガルコス……。俺は、オルランディーヌがいいです」


「そんな女性らしい名前、私に似合うだろうか」


「もちろん似合います。オルランディーヌ・ガルコス、いい名です!」


あの……、ガブリエルの中ではもう挙式が済んだみたいですけど。


今はオルランディーヌ・ジャルディーニになるんじゃないでしょうか。






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