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第150話 比較の問題


料理人がワゴンの上で各種料理を盛り付けたお皿を、メイドたちがそれぞれの席へと運んできてくれた。


おいしそう!

ピザはピザらしく手づかみで食べたいけど、さすがにそれはお行儀が悪いよね。


私はナイフとフォークを使って一口大に切り分け、早速口の中に放り込んだ。


「あつっ! おいしーい!」


とろりととろけたチーズの熱で火傷しそうになりながらも、もぐもぐと咀嚼する。

パリッと香ばしく焼けた生地に、新鮮な魚介類、そしてたっぷり乗ったチーズが絶妙なバランスですごくおいしい!


「美味いな」

「美味い」

「これは遠くまで来た甲斐があるね」


さてさて、ピザの次は海老も一口いただきまーす。


豪快に縦半分に割られた大きな海老は、食べなれない人のために食べやすく工夫してくれているらしく、焼き目を付けてからいったん海老の身を取り出し、一口大に切って殻に戻してある。

その上にかけられた、オリーブオイルとバジルとナッツを合わせたソースがまた絶品なんだよね。


これは最初に食べた時に私が大興奮して以来、来ると必ず出してくれるお気に入りの一品だ。


んんー、海老の身がぷりっぷり!

はあ~、幸せ!




みんなで舌鼓を打ちながら楽しくおしゃべりをしているうちに、だんだんお腹がはちきれそうになってきた……。

うう……、くるしい……。


「チェリーナおねえさまー。おいしくてめずらしいものはまだですか? エリーズ、もうおなかがいっぱいになってきました。はやくしないとたべられなくなります……」


ハッ!

そういえばそんな約束した!

つい無心になって食事を堪能してしまったよ。


エリーズがおなかをさすりながら私をじーっと見ている。


「そうだったわね。アゴスト伯爵、デザートは私が出しても構いませんか?」


「ええ、こちらで用意したものはお茶の時間にでもいただくとしましょう。私も美味しくて珍しい物とやらが楽しみです」


うわあ、期待に答えないとな、何にしよう。


ええと、満腹でもおいしく食べられるものは……。

ケーキは重いしなぁ。


「いちごのぱふぇがいいじゃないか。冷たくてさっぱりするし、この前の半分のサイズにすれば食べ切れるんじゃないか?」 


あっ、いい!

お腹がいっぱいでちょっと頭が回らないし、そのアイデアいただきました!


「そうします! ーーポチッとな! エリーズ、この箱の中においしいものが入っているわよ。ちょっと開け方が難しいかもしれないから私が開けてあげるわね。こうやって上の蓋を開けて、箱の横の部分を破いて取り出すのよ。スプーンも中に入っているわ」


「ああっ、エリーズもやりたいー! じぶんでできます!」


よしよし、やってごらん。


うう……、だけど生クリームは見ただけで胸がいっぱいになるよ……。

今はちょっと重いな……。


よし、私の分はマンゴーかき氷の1/4サイズにしよう。


「ーーポチッとな! はあー、おなかがいっぱい……」


ぼたん雪のようなふわふわの氷に、マンゴーの果肉がたっぷり乗ったデザートをひとくち口に入れる。

うん、さっぱりするー。

でも、さすがに1/4サイズだとスプーンが小さすぎた。


「おい。お前のそれは何なんだ?」


「えっ、マンゴーのかき氷ですけど?」


氷が見えないくらいにマンゴーてんこ盛りなのに、見て分からないの?


「そっちは新作じゃないか! 俺もちょっと食べてみたいぞ。マンゴージュースのマンゴーは、ジュースになる前はそういう果肉なのか」


「あらっ、普通の果物のマンゴーを食べたことありませんでしたか? 他にも食べてみたい人はいます?」


「食べたいことは食べたいけど……」


ルイーザは満腹すぎてデザート2つはとても無理そうだ。

他のみんなも食べてみたそうな顔をしつつも、おなかをさすっている。


「じゃあ、2人で半分こすればいいですよ。それなら、いちごのパフェもマンゴーかき氷もどちらも食べられますし」


「それはいいな」


最初に人数分出したパフェの半分は、メイドたちに食べてもらうことにしてと。

マンゴーの方を追加でポチッとする。


そして、アゴスト伯爵夫妻、ルアーナとエリーズ、ジュリオとルイーザ、お兄様とカレンデュラとそれぞれに配りながら、私はハタと気が付いた。


半分こするに相応しくない人がいるじゃん!

これは由々しき問題じゃん!


「ガブリエル様とオルランド様は別々に食べてください。2つ食べるか、それともどちらか好きな方を選ぶか。さあ、どっちにします?」


「なんでだよ。俺たちもみんなと同じでいいだろ」


オルランド様とガブリエルが半分こするって、どう考えてもおかしいし!


「でもっ! 親しくもない男女が同じ器の食べ物を分け合うなんてはしたないと思います! 男女七歳にして席を同じゅうせずと言うくらいなのに、器なんて以ての外です!」


「は? そんな言葉初めて聞いたぞ。いつどこで誰が言ったんだ。それに、婚約者なのになんで親しくないことになるんだよ!」


はああああん!?

ガブリエル、いったいいつ婚約したのよ!?


まだプロポーズすらしてないくせにずうずうしい!

なんで戦う前から勝った気になれるんだろうか。

脳内麻薬を分泌しすぎじゃないかな!


「ガブリエルは何を言ってるんだ?」

「ガブリエル様が婚約!?」

「えっ、誰と誰のお話なの?」


あの場にいなかったジュリオたちが騒然としている。


「ははは、マルチェリーナ嬢。私ならガルコス君と同じ器で気にしないよ」


「でっ、でも!」


オルランド様が穢れてしまいます!


「どうやら私たちは婚約者同士になったようだからね。何も問題はないよ。ーーん、これは冷たくておいしいね」


問題大ありですってー!

のんきにマンゴー食べてる場合じゃないですよ!


「オルランド様! よくお考えになったほうが!」


「オルランド様、この先の人生を左右する一大事ですわ!」

「オルランド様、しばらく友人としてお付き合いをして、それからお返事なさっても遅くはありませんわ!」


ほらっ、私だけじゃなくてカレンデュラもルイーザも私と同じ意見ですよ!


「君たち、私を心配してくれるのかい? ありがたいけれど、私はこれでもガルコス君の人となりは十分知っているつもりだよ。家柄は申し分ないし、頭が良く研究熱心でおまけに女性に興味がない。浮気の心配がなくていいじゃないか」


うっ、それはそうですけどっ。


「オルランド様……!」


「私の義理の母はね、私の父よりも二回り以上年下なんだ。父が50で、義理の母はまだたったの22歳。私の姉たちよりも若いんだよ」


「ええっ! どうしてそんなに……」


28歳もの年の差がある結婚は、22歳の女性にとってはいくら何でも条件が悪すぎる。

実は子持ちの未亡人とか、何か事情があるのだろうか。


「義理の母は、子どもの頃に誘拐されたことがあってね。山小屋に閉じ込められているところを発見されたのは、身代金を渡してから数日経った後だったらしい。そういう不幸な事情で婚約者に恵まれなかった人なんだよ。本人は人柄もよく、とても愛らしい女性だというのにね……」


オルランド様はしんみりと目を伏せた。


「まあっ、酷い! 酷いわ! その方は何も悪くないのに!」


同じように誘拐された経験があるカレンデュラは、感情移入してしまったのか、憤慨してうっすら涙を浮かべている。


「6人もの娘がいる50男の後妻に入ることを思えば、ガルコス君は夢のように素晴らしい結婚相手じゃないか。私と結婚したいと言ってくれる唯一の男性かもしれない。私はガルコス君が結婚を申し込んでくれて、幸運だったと思っているんだよ」


「オルランド様……」


まさかの50男との比較……!

そりゃそういうことなら、ガブリエルの方がずっといいに決まってる。


冷静に考えれば、良家のお坊ちゃまでイケメンのガブリエルはかなりの優良物件だもんね。

ただ性格がアレで、お父さんがアレなだけで。






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