第15話 新兵器を考える
「はあはあはあ……、つかれたあー!」
私は荒く息を吐いて呼吸を整えながら、目的地である小川の傍にごろんとひっくり返った。
「俺が一番だったな!」
「ふうー……、クリス様、かけっこ早いんですね」
「まあな!」
クリス様は得意そうな顔でこちらを見ている。
もしかして、おやつの催促かな?
もうちょっと休みたかったけど、喉も乾いたことだし、おやつを出すことにしよう。
「ーーーポチッとな! さあ、みんな、まずはりんごの果汁をどうぞ!」
私は紙パックのりんごジュースを出すと、みんなに一つずつ配って行った。
もちろん、護衛の二人の分もちゃんと出したよ!
みんな手の中の紙パックを珍しそうに眺めて、誰も手を付けようとしない。
「では、のみ方をせつめいします! まずは三角のぶぶんが上になるように、じめんに置きます。つぎに、三角のつながってる所をはがすように、りょうがわに開いてください。そうしたら、開いたぶぶんをつまんで、前にひきだすようにはがしてください。こんな感じです!」
私は、実演しながら紙パックの開け方を説明していった。
うんうん、みんな中々器用に開けてる。
と思いきや、おじさんの一人が力を入れ過ぎたらしく、びしゃっと中身を少しこぼしてしまった。
あーあ、もったいない。
「開いたところに口をつけてのんでください。ーーーごくごくごく、んー、おいしい!」
そういえば、こっちではオレンジやレモンみたいな柑橘系の果物を絞ったジュースはあるけど、りんごのジュースは飲んだことなかったな。
オレンジを絞るより手間がかかりそうだもんね。
「どうですか?」
みんな一心不乱に飲んでいる。
あの、別に一気飲みする必要はないよ?
ゆっくり飲んでね!
「ぷはっ!」
「ぷは! 甘くておいしい!」
「チェリーナ、これひんやりしてておいしいよ! あの変なりんごを食べさせられたらどうしようかと思っていたけど、余計な心配だったね」
「ふん、まあまあだな。ーーごっきゅ、ごっきゅ、ごっきゅ」
クリス様っては、夢中で飲んでるくせにかわいくないぞ!
さあ、お次はマカダミアナッツチョコとショートブレッドの出番だよ。
「ーーーポチッとな!」
みんな、大きな茶色い箱と、チェック柄の赤い箱に目が釘付けになっている。
「クリス様には、一番になったきねんに、すきな方をおみやげにさしあげますね」
「お前な、こんな量の菓子を一人で食べ切れるわけないだろ。ここでみんなで食べるから土産はいらない」
Lサイズのピザの箱くらいの大きさだもんね。
確かに一人で食べきれる量ではないな。
「では、みんなでたべましょう! こっちの茶色いのは中にナッツがはいってて、あまくておいしいですよ。こっちはビスケットですけど、バターがたっぷり入っててとってもおいしいんです!」
私が勧めると、なぜかみんな揃ってショートブレッドの方に手を伸ばす。
なんでかな?
私はチョコを食べようっと。
「……チェリーナ、それは、おいしいの? それってたべものなの?」
アルベルトは私がつまみ上げたチョコを凝視している。
「なんか犬のーーーふがっ」
アルベルトが何かを言いかけたところで、アルフォンソが慌てて口をふさいだ。
犬の?
えー、もしかしてチョコ知らないの?
「もちろん食べ物だよ! とーってもおいしいよ。ね、おにいさま?」
前回チョコを出した時は、ジルベルト先生に預けてみんなで食べてもらった筈だ。
「えっ……、僕は、お腹が空いてなかったんだ……、あはは」
「クリス様は?」
「……匂いは甘い匂いがするけど、どう見ても食べ物に見えないだろ」
ええー、食べてくれなかったのお?
なんかショックだ……。
早起きして頑張ってお弁当を作ったのに、陰で捨てられてた的な……。
「もう、いいです! こっちはチェリーナが一人で食べます!」
チョコの箱を膝に抱えてふてくされていると、気を使った護衛のおじさんたちが声をかけて来た。
「おお、これは美味そうだ! マルチェリーナ様、私どもにも一ついただけますかな?」
「このような世にも珍しい甘味、是非ともご相伴させてください」
お、おじさんっ!
うんうん、食べて食べて。
足りなかったらいくらでも出せるから遠慮しないでね!
「では、失礼して。ーーーんん!? これはっ! 本当に美味いぞ!」
「本当だ! 口の中でトロリととろける濃厚な甘味と、香ばしいナッツがとても良く合う! これは王族に献上しても恥ずかしくない見事な完成度の菓子だ!」
おおー、食レポいただきました!
私も常々チョコレートはマカダミアナッツ入りが最高だと思っていたんです。
おじさんたちが美味しそうに食べるのを見て安心したのか、お兄様たちも揃ってチョコに手を伸ばした。
「ん! おいしいー!」
「美味しい!」
「チェリーナ、本当に美味しいよ! 今までに食べたことがない味だ」
「んぐ、まあまあだ……。もぐもぐもぐ」
よかった、みんな美味しいって言ってくれた!
さあて、それじゃあ次はいよいよ魔法を使って遊ぶぞー!
あれ、みんな小腹を満たしたら眠くなったのか、原っぱにひっくり返っちゃったよ。
まあいいや、ちょっと休んでから遊ぼう。
私はその間にさっきのドローンの構想を練ろうかな。
ええと、プロペラは4つ。
4つのプロペラを繋ぐようにして、棒をクロスさせて、真ん中のところに人が乗れるようにしよう。
……でも、プロペラに近すぎて、首を飛ばされそうで怖いな。
そうだ、棒をクロスさせた下の部分に、スキーのリフトみたいなベンチを取り付けたらどうだろう?
人が座ったり、荷物を載せたりできるもんね。
形は大体固まって来たけど、どうやって操縦するかが問題だよなあ。
ハヤメールと同じようにプロペラに行先を書いちゃうと、鷹みたいにその区間しか飛べなくなる。
やっぱり、本家のドローンに習ってリモコンで操縦するのがいいかな。
うん、いけそう!
よーし、早速お父様のくれた定規を使って描いてみよう。
「ううーん……、本体よりもリモコンがいがいとむずかしい。上下いどう用のつまみと、ぜんごさゆう用のつまみがひつようだよね……」
「おい。お前はまた一人で何をやってるんだよ」
クリス様は私が何をしているのか気になったらしく、ひっくり返ったまま顔だけこちらに向けた。
「さっきクリス様がいっていた、人をはこべるハヤメールができないか、ためしているところなのです」
「そうか」
クリス様はむくりと体を起こして、こちらに近づいて来た。
アルフォンソとアルベルトも興味深々といった様子で、私の周りに集まって来た。
「チェリーナ、空から攻撃するならさ、上から砂とか木屑を撒いて目つぶしにするとかどうかな?」
アルフォンソ!
それはいいかも!
砂も木屑もお金もかからないし、どこででも調達出来るもんね。
「マルチェリーナ様、高いところからものを落とすだけでも勢いが付いて攻撃力が上がるのですよ。それがナイフのような鋭いものであれば、殺傷力がさぞ上がることでしょう」
う、うん。
やっぱり護衛のおじさんたちは敵を殺すことにためらいがないんだな。
上からナイフが降ってきて、体にグサグサ刺さるところを想像するとちょっと怖いよ……。
「おいおい、子どもたちが怖がるようなことを言うなよ」
私たちがびくりと体を震わせたのを見て、もう一人の護衛が小声でたしなめている。
護衛たちは一礼すると、私たちから少し距離を取った。
私たちに口出ししないように、離れたところからそっと見守ることにしたようだ。
さて、気を取り直して仕上げにかかるよ!
「ーーーできたっ! せーの、ポチッとな!」