第149話 昼食会の始まり
「あら、お知り合いですか?」
ルイーザが小さく首を傾げてジュリオに尋ねた。
「俺たちの1学年先輩のオルランド・ジャルディーニ嬢だよ。去年おととしと2年連続で生徒会長を務め、主席で魔法学院を卒業した人だ。先輩、こちらは、僕の婚約者のルイーザ・アゴスト嬢と、チェレスの婚約者のカレンデュラ・フィオーレ嬢です」
ええーっ、2年連続生徒会長で、その上主席で卒業したんですかっ?
どこまでも完璧すぎる!
「まあっ、すごい!」
「素晴らしいですわ」
「やあ、可愛いお嬢さんたち。こんな可愛い子たちと知り合えて嬉しいよ。君たちと一緒に旅が出来るなんて楽しみだな」
カレンデュラとルイーザは、物語に出てくる王子様のようなオルランド様の甘い言葉に、キャーッと嬉しそうな悲鳴をあげた。
「……先輩」
「先輩の在学中は、カップル成立率が異常に低かったんだよな……」
「数々の男子生徒の屍の上で、不動の人気ナンバーワンに君臨してたっけ……」
浮かれる女性陣とは対照的に、男性陣はなぜか揃って遠い目をしている。
不動の人気ナンバーワンかあー!
女性だと分かっていてもやっぱりステキだもんね!
「ルイーザ、オルランド様もぜひご一緒いただきたいと思ってお誘いしたの! おうちの方は大丈夫かしら?」
「ええ、もちろん大丈夫よ」
私が尋ねると、やっぱり思った通りルイーザは快く了承してくれた。
ほらね、大丈夫だったでしょ、お兄様!
「突然すまないね。美味しいものを食べると聞いて、ずうずうしく着いて来てしまったよ」
「ふふっ、私の父はお客様をお招きして食事を振る舞うことが大好きなんです。趣味のようなものですから、どうぞお気軽にお越しくださいませ」
「ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうよ」
お互いの挨拶が済んだところで、私たちは早速アゴスト伯爵領へ向けて出発することにした。
早く遅れを取り戻さないと、ルイーザの家族が心配してるかもしれないからね!
そして私たちは、間に2回ほど短い休憩を取り、午後1時頃にアゴスト伯爵家の屋敷に到着した。
「アゴスト伯爵領には初めて来たけど、美しい町だね。青と白の家々が、まるで海の一部のようでとても幻想的だった」
トブーンを降りたオルランド様が、街並みの美しさに感嘆しているのが聞こえてきた。
私も初めて見たときは、ポルトの町と海との一体感に感動したなぁ。
「オルランド様、ポルトの町は海から見ると一段と美しいんですよ!」
「それはぜひ見てみたいね」
私たちがたわいのない話をしていると、玄関扉がガチャリと音を立てて開き、ルイーザの妹達が走り出てきた。
どうやら、私たちの到着に気が付いて迎えに来てくれたらしい。
「おねえさまー!」
「お姉様!」
8歳のエリーズと12歳のルアーナが満面の笑みでやってくる。
うん、ルアーナは一時は生死の境を彷徨ったけど、完全復活したようで安心したよ!
「ただいま! 2人とも元気そうね」
「もうっ、おそいです! エリーズは待ちくたびれました。おなかがペコペコです!」
「ほんと、もう少し早く着くと思ってました」
妹達はルイーザにまとわり付きながら口を尖らせている。
ご、ごめん……、お昼を食べずに待っててくれたんだ?
遅れたのはガブリエルのせいだから!
「ごめんね、来る途中にチェリーナたちが人助けをしたの。チェリーナが困っている人を放っておけない性格だからルアーナのことも助けてもらえたのだし、文句を言ってはいけないわ」
えぇ、私?
今回の発端は私じゃないからいまいち腑に落ちないけど……、まあ訂正するほどでもないか。
「はあい。チェリーナおねえさま、こんにちは!」
「チェリーナお姉様、お久しぶりです」
「こんにちは! 2人とも待たせてしまってごめんなさいね。お詫びに、おいしくて珍しいものをたくさん出すわ」
せっかく海の幸を堪能しに来たんだし、食事系じゃなくてみんなが喜びそうな新作スイーツでも考えよう。
「わあ! おとうさまとおかあさまも中でまっています。チェリーナおねえさま、こっちです!」
エリーズに手を引っ張られながら、私は玄関の方へと歩き出した。
置きっぱなしのトブーンがふと気になり後ろを振り向くと、お兄様とクリス様が手分けしてアイテム袋に収納してくれている。
おお、気が利くな!
そのままじゃ、馬の通行の邪魔になっちゃうもんね。
「おとうさまー! おかあさまー! おねえさまたちがつきましたー」
大きな声でエリーズが両親を呼んでいる。
私たちが玄関口に着く頃には、ルイーザの両親を始め、使用人一同がずらっと出迎えに現れた。
ルイーザのところはうちよりずっと使用人が多いから、こうして並んでいるのを見ると壮観だ。
それにしても、いつもの出迎えよりずっと多い気がする。
まさか、全員出てきてくれたの?
「これはこれは、クリスティアーノ殿下並びにお連れの皆さま。遠いところをようこそお越しくださいました」
アゴスト伯爵夫妻をはじめ、使用人一同が一斉に頭を下げた。
あ、クリス様効果ね。
王子様(仮)ではなく、本物の王子様が一貴族家に遊びに来たら総出でお出迎えするのも当然か。
アゴスト伯爵とクリス様は、子どもの頃に一度クリス様も含めた家族みんなで遊びに来たことがあるから、お互いに顔は覚えているようだ。
あの時は、留守番役を買って出てくれたマルティーノおじさまのおかげで、みんなで貴重な家族旅行をすることが出来たんだよね。
そうでもなければ、お父様とお兄様が一緒に旅をするなんて出来なかっただろう。
「大人数で訪ねてすまないな。世話になる」
「とんでもございません。いつでも大歓迎でございます。聞けば、我が領の魚介料理を召し上がりにいらしてくださったとか。こんなに嬉しいことはございません。我が家の料理人が心づくしの料理を用意いたしましたので、どうぞご賞味くださいませ。さあ、どうぞ中へ」
わあー、どんな料理かな!
大きな海老が食べたい!
案内された食堂に着席し、クリス様以外のみんなが紹介し合っているうちに料理が運ばれてきた。
「魚介のトマトスープと、小海老のゼリー寄せ、季節の野菜ソテー添えでございます」
ふんふん、まずはスープと前菜か。
スープはお魚がたっぷり入った具沢山のアクアパッツァだね。
一度にずらっと並ばないところを見ると、どうやら作り置きをしないで現在進行形で作ってくれているらしい。
だいぶ遅くなっちゃったし、もし作り置きだったら味が落ちてただろうから、こういう気遣いはうれしいな!
「うーん、おいしいわ! やっぱりアゴスト領の魚料理は最高ですね、クリス様」
「うん、美味い。新鮮だからか、魚特有の臭みがないな」
川魚だと、どうしても臭みが残るもんね。
私も海の魚の方が好きだ。
「こうしてアゴスト領の料理を食べると、子どもの頃にみんなで遊びに来たことを思い出しますね」
「俺もちょうど思い出していたところだ。あの時は楽しかったなあ。初めて海を見て、初めて海に浸かってベトベトになったんだよな」
海に浸かるって、そんなお風呂みたいに。
まあ、みんな泳げないから、波打ち際でぱちゃぱちゃ水遊びしただけだったけどね。
「ははは、我が領にお越しいただいたことが楽しい思い出になっているとは光栄です。料理と景色の美しさだけは、どこにも負けないと自負しております」
私たちの会話が聞こえたらしいアゴスト伯爵が嬉しそうに破顔した。
おいしい料理と美しい景色があればリゾート地にうってつけだよね。
できることなら毎年遊びに来たい!
「お待たせいたしました。ご要望をいただいておりましたお料理をお持ちいたしました」
料理人が大きなお皿を乗せたワゴンを押しながら現れた。
「魚介のチーズ焼きでございます。本日は、白身魚と牡蠣と4種のチーズを乗せたものと、赤身の魚とオリーブとフレッシュチーズを乗せたものの2つをご用意いたしました。それから、こちらは大海老のグリル、バジルソースがけでございます」
ルイーザがシーフードピザをリクエストしておいてくれたんだ!
それに私の好物の海老もあるー!