第146話 思わぬ展開
『チェレス様? チェリーナは見つかりましたか?』
連絡を待っていたらしいカレンデュラから、間髪入れずに返事があった。
「ああ、見つかったよ。ただ、怪我人がいるんだ。ジュリオに代わってもらえるかな?」
『まあっ、大変! ーージュリオ様! チェレス様がお話があるそうですわ』
すぐに、通信機を通してジュリオの声が聞こえてくる。
『どうした、チェレス?』
「近くに騎士か兵士か、盗賊の対処を出来そうな人はいないかな? それと、被害者が2人怪我をしているから、馬車も1台用意してほしいんだ」
『よし、すぐ誰かに知らせよう。街道沿いを王都へ戻るように進めば会えるか?』
「うん、今は少し道を外れたところにいるから、街道まで出て待つことにするよ。よろしく頼むね」
『任せろ』
お兄様は通話を終わらせると、オルランド様にニコリとほほ笑みかけた。
「街までそれほど遠くありませんから、馬を飛ばせばすぐでしょう」
「ああ……、ありがとう。それにしても、君たちの魔法具はどれもこれも素晴らしいものばかりだね」
あっ、私です!
それ、私が作ったんです!
「僕の妹のチェリーナは創造魔法を使えるんですよ。まあ、ハヤメールに限っては、森の中では引っ掛かりやすいのが難点ですが」
そう言われれば、私がアディの両親に向けて飛ばしたハヤメールは見失ってしまった。
お兄様が私を探すために飛ばしたハヤメールも、どこかに引っ掛かってるみたいな口ぶりだし……。
これは要改善事項だな。
「噂では聞いていたけど、創造魔法を実際に目の当たりにすると度肝を抜かれるね。君の妹は可愛らしいばかりか、優れた魔法使いでもあるようだ。ーークリスティアーノ殿下は、良い婚約者に恵まれましたね」
いやーん、オルランド様ったら!
そんなに褒められたら、恥ずかしいです!
顔がいいだけのどこかのイケメン軍団とは訳が違うな。
オルランド様は、身も心もイケメンな真のイケメンだ!
「お褒めに預かり光栄ですが……。出来れば、私の婚約者を誘惑するのは止めていただきたいですね……」
クリス様はなぜか苦笑いを浮かべている。
「何のことかな?」
クリス様の言葉に、オルランド様が首を傾げた。
「在学中は女生徒の人気を一身に集めていましたが、卒業しても変わっていないようで……」
「そんなことはなかったと思うが……。しかし、これからは女性として生きていかねばならなくなったというのに、男性から見向きもされないとは難儀なことだよ」
えっ、なにその話、もっと詳しく!
いままでは男として生きてたんですか?
「どういうことですか?」
会話をしているクリス様はもちろんのこと、お兄様やガブリエルも興味深々といった様子で見つめている。
「君たちも知ってのとおり、私は生まれたときから男性として育てられていてね。私の父は、5人続けて娘が生まれた後、最後に生まれた私に家を継がせようと決め、私を男として育てたのだ。婿になる男に家を乗っ取られないように、私自ら領地経営を行えるようにとね。
ーーだが、昨年私の母が亡くなり、父がすぐに若い後妻を娶ったことで状況が一変した。その後妻がつい先日男の子を産み、私は用なしとなったという訳さ」
オルランド様は諦めきったような表情で寂しげにほほ笑んだ。
「今になってそんな! あんまりですわ!」
乙女の貴重な18年間を奪っておいて、いまさら家督は弟に継がせるってよく言えたね!
ジャルディーニ伯爵ってちょっと極悪すぎないかな!
「はは、私のために怒ってくれるのかい? 君は優しい子だね……」
オルランド様ー!
ああ、なにか少しでも慰められれば……。
「そうだわ、よかったら私たちと一緒にアゴスト伯爵領へ旅行に行きませんか? 1泊の予定なのですが、おいしい物をたくさん食べるつもりなんです。おいしい物を食べれば、少しは気が晴れるかもしれませんし、ぜひご一緒いたしましょう!」
カレンデュラもルイーザも、ルイーザの妹達もオルランド様に会えたら絶対喜ぶと思うし!
「チェリーナ、だから勝手に人の家に招待するなと何度言ったら……」
「お兄様、大丈夫です! 私からルイーザに話しますから!」
だから反対しないでください!
広い海を見てると自分の悩みなんて小さなことのような気がしてくるし、オルランド様にはきっといい気分転換になる。
「嬉しい招待だが……、しかし盗賊たちの後始末も付けなくてはならないし……」
「お前ら先に行ってろよ。俺はジャルディーニ先輩とここで騎士たちの到着を待って、きっちり引き継ぎをして行くから。トブーンももう操縦できるようになったし、後から2人で追いかける」
えーッ、でもーッ!
ガブリエルとオルランド様の2人でぇ?
なんとなく納得いかないな!
「それなら、私が残ってオルランド様と一緒に行ってもいいじゃないですか!」
「攻撃魔法も使えないのに、万が一誰かに襲われたらどうするんだよ! ジャルディーニ先輩1人でこんな大人数を守れって言うのか。だから、ここは俺が残るべきだ」
むむむむむ!
なんかガブリエル必死じゃない!?
どうも様子がおかしい……。
「どうしてそんなに残りたがるんですか!」
「お前! 少しは気を利かせろよな! 俺はジャルディーニ先輩と2人で話したいんだよ!」
「だからなんでっ!?」
「だから、女性として生きることに決めたらなら、ガルコス家に嫁いでもらうことだってーー、あっ」
そこまで言いかけて、ガブリエルは慌てて言葉を飲み込んだ。
何それ、ずうずうしくない!?
オルランド様にふさわしいのは自分だとでも?
寝言は寝てから言ってほしい感じです!
「……ガルコス君は、私に結婚を申し込む意思があると言う意味かな?」
オルランド様は、ためらいなくズバリと核心を突いてくる。
聞えなかったことにしないあたり、性格も男前だ。
「うー……」
ガブリエルは目元を覆ってうめくばかりで、返事が出来ないようだ。
え……、もしかして恥ずかしがってるの……?
気が付くと、アディの両親も自力で上半身を起こして座り込み、私たち同様食い入るように成り行きを見守っていた。
アディに至っては、ガブリエルとオルランド様の間に立ってぽかんと口を開け、2人の顔を交互に見あげている。
うん、小康状態になったようで何よりです。
「ふむ。この人数の前では言いにくかろう。君たち、ガルコス君の言うとおり先に行っていてくれるかい? 私たちも迎えが着いたら後を追うことにしよう。ガルコス君、それでいいかな?」
「……はい」
そ、そんな!
こんなところで中断されても!
続きが気になって仕方ないよ!
「えーと、とりあえず、みんなで街道に移動しましょう。迎えの騎士たちとすれ違いになっては困りますから」
どうやらお兄様も続きが気になるらしく、先に行くとは言わない。
よし、こうなったら街道に出るまでに少しでも話を聞き出そう!
「ああ、確かにそうだ。プリマヴェーラ君はこちらの男性を背負ってあげてくれるかい? 私は女性の方を背負って行こう」
「いや、女性の方は俺が」
「いやしかし、相手は女性だからな」
オルランド様にいいところを見せたいのか、ガブリエルが柄にもなく自分が背負うと言い出し、オルランド様と攻防を繰り広げている。
「あ、あのう……、お話し中すみません。私でしたら、自分で歩けると思います。どういうわけか、もう痛みがなくなったのです」
アディの母親はそう言うと、少しよろめきながらも自分で立ち上がろうとして見せた。
オルランド様は、そんな母親にサッと自分の腕を差し出して掴まらせた。
「では私の腕に掴まって」
「まあ、ありがとうございます」
「それならっ! 俺は、アディを背負ってーー」
は?
ノーパンの幼女を、意味もなくガブリエルが背負って歩くと!?
通報しないといけない案件じゃないですか!