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第142話 ガブリエルの暴走


私を怒らせていることに気付いているのかいないのか、ガブリエルはどこ吹く風といった様子だ。

とんでもなくマイペースな男だよ……。


「まったく……。空の上ではケンカするなよな。プリマヴェーラ辺境伯領よりアゴスト伯爵領の方が王都に近いし、おそらく3~4時間程で着けるだろう」


はあ……、ガブリエルと行く空の旅は確定ですか。

あーあ、お坊ちゃまのお守りは大変そうだな。


でも、せっかくの旅でいがみ合うのもなんだし、ガブリエルの方が折れる訳ないし、ここは私が大人の対応をするしかないか。


「ガブリエル様、そのままでは座れませんから、お荷物は私がお預かりしますね」


私はスカートのポケットからアイテム袋を取り出しながら言った。


「ああ、アイテム袋に入れれば運べるじゃないか」


ガブリエルは背負っていた荷物を地面に下ろしながら、もっと早く言えといわんばかりの態度で荷物を差し出した。

クッ、これから何時間も本当に我慢できるかな……!?


「ところで、お兄様。今日はどのトブーンで行きますか?」


「そうだね、初心者もいるしーー」


ガブリエルに配慮して、普通のトブーンで行くのかな?

普通のやつだと、たぶん5~6時間はかかりそうだけど。


「高速トブーンで行こう。あんまり速いとカレンも怖いだろうし」


え、高速トブーンなの?

お兄様、割と容赦ないですね!?


いきなり最速トブーンでカッ飛ばすよりはマシだけど……。


「お兄様、今日は魔法で加速しないでくださいね?」


1人だけびゅんびゅん加速されても、誰も追いつけませんから。


「わかってるよ。じゃあ、僕たちは自分のトブーンがあるから、ジュリオに高速トブーンを出してやって。あと、結界のマントを持ってない人がいたら、それも頼むよ」


へいへい。

まったく人使いが荒いね……。


「ーーポチッとな! ジュリオ様、このトブーンを使ってくださいね。結界のマントを持っていない人は手をあげてー! 今日の結界のマントは新作なのよ!」


「新作? 何が違うの?」


新作と聞いたお兄様がキラリと目を光らせた。

ふふふ、知りたい?


「今回の新作は、なんと! 裏地の色が違います!」


ミエナインと結界のマントの見た目が全く同じなのは、ちょっと問題あるからね!

うっかり死んじゃうと困るから、分かりやすくしたよ!


「う、裏地……? はは、そうなんだ」


お兄様がなぜか肩を落としているけど……、何でかな?


「裏地なんてどうでもいいだろう。そんなところを変えただけで新作なのか」


ああん!?

ガブリエルは結界のマントはいらないってことでよろしいか!?


「ミエナインと結界のマントが一見して区別できないのは問題があるので、こうして改良したんです! ガブリエル様には、結界のマントは必要なかったみたいですね! はい、ルイーザ、あなたの分よ」


「待て! 俺もほしいぞ!」


ガブリエルは図々しく私の目の前に手を突き出した。

謝らないつもりじゃあるまいな!?


「チェリーナ。ありがとう。このマント、可愛いわね」


そうでしょう?

一目でわかる色にしたの!


「うわぁ……、俺はクリス様が着てるのと同じのがいいな……」


「ああ……、予備があるから一つやる」


ジュリオとクリス様が、後ろの方で何やらヒソヒソ話をしている。


「みんな、結界のマントは着たかしらー? それじゃあ、そろそろ出発しましょう」


「俺のがないだろ!」


「謝らない人にはあげません!」


文句を言うガブリエルに、私はプイッとそっぽを向いた。


「わかったよ……。もし気を悪くしたなら謝る。だから俺にも結界のマントをくれ」


あの……、”俺は全く悪くないけど、場を収めるために仕方なくこう言っとくか”感が前面に出てますけど……?


実質謝ってないじゃん。

この人、ゴメンというと死ぬ病気に罹ってるんだろうか。


もう時間がないから、重病なんだと思って今回だけ特別に許してあげるけどさ!


「ーーポチッとな! はい、どうぞ」


「ああ。助かる……って、何だよ、これはッ!」


「何だよって結界のマントですよ。新作って言ったでしょ!」


ガブリエルはちゃんと話を聞いてて!


「何でよりによってこの色なんだよ!」


「何でって可愛いからですよ! 文句があるなら着なくて結構! そんなにわがまま言うんだったら、盗賊の矢に怯えながら、風の冷たさに震えてればいいと思う!」


いつでもどこでもわがままが通ると思ったら大間違いなんだからね!

私はこんなわがままには屈しない女なんです!


「うう……、なんという醜悪さだ……」


「ガブリエル、諦めろ。裏返さなければ見えないんだから問題ないだろ? さっき自分で裏地なんてどうでもいいって言ってたじゃないか」


クリス様は宥めるようにポンポンとガブリエルの肩を叩いた。


まったく、そこまで嫌がるようなことなの?

葬式帰りみたいな、全身黒尽くめのガブリエルには良い差し色になると思うんだけど。


命を守るマントということが分かるように、裏地全体に大小のハート柄をちりばめてメッセージ性を高めた優れものなんだからね!


それに、ショッキングピンクって、目立つし可愛いじゃない!





すったもんだの末、私たちはジュリオとルイーザを先頭に、お兄様とカレンデュラ、クリス様と続いて空へと飛び立った。


「はあ……。憂鬱だ……。はあ……」


イライライライラ……。


「はあ……」


何回ため息吐くんだよ!


「ガブリエル様! ため息を吐くと幸せが逃げるって知らないんですか! さあ、私たちも飛び立ちますよ!」


私はイライラを押し殺しつつ、リモコンを操ってトブーンを上昇させた。


「う、うわ……。空に浮かんでるな……」


「前に進みますよ、しっかり掴まっててください!」


トブーンを前進させた反動で背もたれにピタリと張り付いたガブリエルは、硬直したまま動けないようだ。


「おお……、速いな……」


「数時間でアゴスト伯爵領まで行けるくらいですから。馬車なら何日もかかる距離なんですよ」


「これはすごい……」


まあね!

道中ずっと私を褒めたたえてくれてれば、ガブリエルとの空の旅も苦痛が減りそうだ。


少しは努力してくれたまえ!


「あっという間に王都を出たな。ふーん、少し王都を離れると、どこもかしこも畑だらけなんだな」


「上から見ると、景色が違って見えますよね」


王都を出たとは言っても、この辺りはまだまだ人が多く住んでいるので畑が多い。

もっと進むと、辺り一面森だらけだ。


「この乗り物は中々快適だな」


ガブリエルがもぞもぞと体を動かしながら言った。


改良を重ねてるからね。

今のトブーンは低反発クッションシートも付いてるし、初期型とは段違いに乗り心地が良くなっている筈だ。


「お褒めにあずかり光栄ですわ」


「これは貰ってやってもいいな」


あげないよ!?

何でもらえると思うのか意味がわかりませんけど!


「ガブリエル様にはあげませんから!」


「何でだよ!」


「両親に、魔法のことで目立つのはなるべく避けるようにと言われています」


じゃないと、こういう風にクレクレ言われるからね!


「今更だろ。学院中で、これ以上はないと言うくらい目立ってる自覚はないのか」


私、気を付けてるからそんな筈ないし!


「言いがかりです!」


「ちょっと俺にも操縦させてくれ」


急に話を変えるよね!?


「いいですけど……。右側で前後左右、左側で上下の移動を操作できます」


「ふーん。簡単そうだな」


まあ……、子どもでも操縦できるくらいシンプル設計ですけどね……。


「落とさないでくださいね」


リモコンを手渡されたガブリエルは、子どものように喜々としている。


「おおー! ーーんっ? あれは……」


「えっ、何ですか?」


ガブリエルは急にガラリと表情を変えた。


「しっかり掴まってろ!」


「ええっ!?」


ガブリエルはそう言うと、いきなり急下降し始めた。


はっ!?

私たち、墜落するのーーー!?






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