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第137話 孤児院訪問


「本当に大きくなられて……」


リコは成長したお兄様の大人なセリフに感動したのか、若干目が潤んでいるようだった。


確かにびっくりするくらい背は高くなったな。

まだまだヒョロ山ヒョロ男くんですけどね。


「ははは。では僕たちはそろそろ失礼します。ーーチェリーナ、急がないと学院の門が閉まってしまうよ」


はっ、そうだった!


「じゃあ、近いうちに暇を見つけて孤児院に行くわね。一緒に売れる商品を考えましょう! みんなも気をつけて帰るのよ!」


「う、うん! おにいちゃん、おねえちゃん、ありがとう!」


「いいのよ! じゃあまたね!」


そして私たちは急ぎ足で馬車が止まっている場所へと戻ることにした。


「……いい人だったな」


「そうですね。顔の傷で一瞬身構えたけど、人を見た目で判断してはいけなかったようです」


クリス様とお兄様は、リコについての感想を言い合っている。

顔の傷で判断するなんてひどい!


「私には最初から分かっていました。リコはいい人に違いないと」


私は人の内面を見てますから!


「……は? どの口がそんなことを」


「チェリーナが真っ先にすっ飛んでいって、ケンカを吹っかけてたと思うんだけど」


誰かが何か言ってるようだけど、よく聞こえないな。


「やっぱり私の目に狂いはなかった!」


「……」

「……呆れた」


やだなァ、本気にしないでよ。

たわいのないアメリカンジョークですよ、HAHAHA。


「ちょっとした冗談ですよ。ろくに話も聞かずに悪者だと決め付けようとしたこと、反省しています。それに、屋台のことも中途半端にしてしまったせいで、子ども達に苦労させてしまいました」


あそこにいた子ども達は、一番大きな子でも12歳ぐらいだった。

大人を相手に商売をしたり、場所代の交渉をするのは怖かっただろう。


「なんだ。ちゃんと分かってたんだ。とうとう気が狂ったのかと心配したよ」


「お前の冗談は分かりにくいぞ」


気は狂ってないけど、ちょっぴり予定は狂ったかな。

どう考えてもガブリエルの件は緊急じゃないし、どうしても後回しになっちゃうからね。


「みんなでがんばって売れる商品を考えて、バンバン売りまくりましょう!」


「そうだね。アルフォンソの意見が参考になると思うよ」


「俺も賛成だ。場所代が払えないほど切羽詰っているんじゃ、素人が考えるより専門家に任せたほうがいい」


確かにアルフォンソなら屋台営業を立て直してくれそうだ。

でも私だってアイデアの宝庫だからがんばるし!


そして私たちは馬車に乗り込むと、馬を飛ばしてもらい、門が閉まりかけたところへ何とか滑り込むことができた。





次の日、私たちは早速放課後に孤児院へ顔を出すことにした。


いまは何を売り物にしているのか、どれくらいの売上があるのか、毎日出店しているのか等、情報が何もない状態では改善計画を立てにくい。

まずはリサーチから開始だ。


私たちは正面玄関口で待ち合わせて、寮母さんが教えてくれた孤児院へと歩いて向かった。

孤児院は、校門を出て右にある教会に併設されているそうで、門を出ればすぐに見えると言っていた。


「あっ、きっとあそこだわ! 思ったより近いですね、クリス様」


どうやら100メートルも離れていないらしく、門を出て歩き出したら本当にすぐに教会が見えてきた。


「ああ、かなり近いな。パーティのときは、目の前の道を何台もの馬車が通っていったから気になって見に来たんだな」


普段はそれほど多くの馬車が通る道ではないようで、今は閑散としている。

まあ、お店が立ち並ぶ通りじゃないし、学生達は寮住まいだし、人通りは少ないよね。


「私、授業中にいろいろ考えたんですよ! どんな商品がいいかなって!」


今こうして歩いてるだけでもどんどんアイデアが出てくるな。

なんならアイデアのたたき売りが出来ちゃうくらいだよ。


「いや、授業中は勉強しろよ」


「甘いものが売れますかね?」


「話を聞けよ……。まあ、甘いものはいいな」


やっぱりそう思うよね!

甘いものが無難だよ。


子ども達は7歳くらいから12歳くらいまでの子が売り子をしていたから、私が思うにその場で料理を作るのは難しい。

だけど、ケーキなら作り置きしておける。


「いろいろ作ってみて、試食会をやるのもいいですね!」


「そうだな。パスタの時も楽しかったしな」


おしゃべりをしながら歩いているうちに、あっという間に孤児院の敷地をぐるりと囲ってある柵の前に到着した。


「こんにちはー!」


「あっ、おねえちゃん! ほんとうにきてくれたの?」


もちろん、本当に来ましたよ!

1人の子どもが私たちに気付くと、庭で遊んでいた子ども達がわっと集まってきた。


「来たわよー! 学院の門が閉まるまでに2時間くらいあるから、いろいろ話し合いましょう」


「わあー! 入って入って! ララせんせえ! ララせんせー!」


ララ先生と子ども達に呼ばれた女性が、慌てた様子で私たちの方へ駆け寄ってくる。


「まあまあまあっ! 慰問にいらしてくださったのですか? どうぞ、お入りくださいませ」


私たちとそう年が変わらないような若い先生は、驚きながらも愛想よく招き入れてくれた。


「昨日広場で見かけて、屋台の営業が上手くいっていないようだったから、私たちがお手伝いをしようと思ってきたのよ」


「まあ! もしや、あの屋台を寄付してくださった貴族のお嬢様とはあなた様のことでしょうか?」


いかにも私が、その貴族のお嬢様です!


「ええ、まあ、そういうことになるかしら。子ども達は商売に慣れていないのに、私ったら何も助言をしてなくてごめんなさいね。でも、私が来たからにはもう大丈夫よ、安心してちょうだい!」


「えっ、お嬢様は商いにお詳しいのですか? ご助言はとてもありがたいです!」


ララ先生は期待に目を輝かせた。


「いいえ? 詳しくはないわよ? 私は商売をしたことがないもの。でも、こういうことは私の得意分野なの!」


「は? はあ……、さようで……」


なんか、さっきよりもララ先生のテンションがだだ下がりしてない?

何か悲しいことでもあったのかな?


「ぷっ、くくくっ。あー、大きな商会の跡取り息子も一緒に来ているから、本当に安心してくれていい。彼に任せれば、屋台の立て直しくらいは造作もないだろう」


「まあっ! それは大変心強いです! ありがとうございます」


お?

またララ先生の気分が上がった?

この先生、ちょっと気分屋なのかもしれないね。


「ところで、この孤児院にはもう少し大きい子はいないのかしら? 昨日見かけた時は、12歳くらいの子が最年長だったようだけれど」


「それは11歳のベスのことだと思います。12歳からは、ほとんどの子が商家などへ下働きに出ておりますので」


え、学校は?

義務教育ではないけど、10歳からはだいたいみんな学校に行くんじゃないの?


「まあ。12歳から? 学校へは行かないの?」


「平日は学校にも通っていますが、学校が終わった後と、週末に働いているのです。15歳になると同時にこの孤児院を出なくてはなりませんので、自立するための資金が必要になりますから。私どもには、子ども達が巣立つときにお金を持たせてあげられる余裕がありませんので、厳しいようですが、子ども達自身にがんばってもらうしかなくて……」


そうか、子ども達には巣立つための資金も必要になるのか……。

それはお金がいくらあっても足りないだろうな。


「そうなの……。わかったわ! みんなで屋台を成功させて、たくさん稼げるようにがんばりましょう!」


「はい!」


私がそう言うと、ララ先生は嬉しそうに顔をほころばせた。






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