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第134話 若きガブリエルの悩み


何の話だろう。


「ええと、ご利用券ってなにかしら?」


「えっ! この前のパーティで、マルチェリーナさんが僕にくれた賞品です! ベンベンのご利用券! ほらっ、これですっ!」


パヴァロ君は愕然とした様子で、着ていた上着の内ポケットから紙切れを取り出した。


ああー!

ベンベンの!


「ベンベンのご利用券ね! もちろん憶えているわ」


そうだった、そうだった。

パヴァロ君にまだ何もあげてないんだったね。

本当に憶えてたからね!


「嘘だな」

「忘れてたな」

「忘れてましたね」


うるさいな、ちゃんと憶えてましたっ!


「それで、何がいいかしら? パヴァロ君なら録画機かしら?」


「録画機もいいかと悩みましたが、僕にはとても使いこなせない気がして。ですので、通信機をお願いします! 通信機があれば、いつでもマリアと話せますから」


そっかそっかー、恋人たちには通信機のほうがいいもんねえ。

通信機2丁、ご注文はいりましたー!


「ーーポチッとな! さあどうぞ、パヴァロ君とマリアで1つずつ持っていてね。使い方はとても簡単で、相手の名前を呼ぶだけでいいの。ブーブーと鳴ったら連絡が来たということだから、音が鳴ったらここのボタンをぽちっと押して話すのよ」


「なるほど、簡単そうですね」


「誰でもすぐに使えるわ!」


自慢じゃないけど、シンプルな操作で高性能な魔法具をご提供することがベンベンのモットーですから!


「ありがとうございます!」


「マルチェリーナ様、私にまでこのような素晴らしい魔法具をありがとうございます」


うん、それ2つないと意味がないの。

マリアの分は私からの婚約祝いだよ。


マリアと話したいから通信機をと言われたのに、1つしかあげないなんて意地悪だしね。


「喜んでもらえてよかったわ。婚約おめでとう!」


そしてパヴァロ君とマリアは、マリアの父親に婚約の申し入れをするからと言って、大事そうに通信機を胸に抱えていそいそと帰って行った。




パヴァロ君たちと入れ代わるように、数人の給仕がワゴンを押しながらやってきた。

それぞれの席の前に、ところせましと豪華な料理が並べられる。


ちなみにフォルトゥーナ王国では、どれから食べてもマナー違反になりません。


フランス料理みたいに、一品一品ちょっとずつお皿に乗ってくる形式じゃなくて本当によかったよ。

あれは待ちきれない。


「そういえば、乾杯がまだだったな。では改めて、アルフォンソ、ラヴィエータ、婚約おめでとう」


クリス様は、白ワインのグラスをあげて乾杯の音頭を取った。


「「「「「「「おめでとう!」」」」」」」


私たちは声をそろえてグラスをあげた。


15歳からお酒はOKなんだけど、女性陣はぶどうジュースで乾杯だ。

ワインよりぶどうジュースのほうが確実においしいしね。


「ありがとう」

「ありがとうございます」


うんうん、それじゃあ早速、冷めないうちに料理をいただきましょうか。

まずはお肉から。


もっちゃ、もっちゃ、もっちゃ……。


玉ねぎのソースがかかっているから、たぶん玉ねぎに漬け込んでお肉を柔らかくしているとは思うんだけど。

最高級和牛フィレステーキの柔らかさになれちゃうと、すこーし硬く感じるかな。


味はいいだけに、素材が追いついていないのが惜しまれる。


「お前のおべんとーの肉のほうが柔らかいな。どうやったらあんなに柔らかくなるのか不思議だ」


「あれは、エサから違うんですよ。このお肉は草で育った牛のお肉ですよね」


もっと脂肪がたっぷりつくようなエサをあげないと。


「えっ!? 草じゃなくて何を食べるんだ?」


「それはわかりません」


私、牛なんて育てたことないし。


「なんだよ……」


なによ?

そんな使えないヤツっていいたそうな顔して見ないでよ。


「ところでっ! 本当におめでたいことが続いたわね! 次は誰の番かしら?」


「誰の番て、もう1人しか残ってないだろ」


えっ、1人だけ?

ファエロとガブリエルの婚約者は見たことない気がするけど。


私が思わずファエロの顔を見ると、ファエロは心外そうに口を開いた。


「私には婚約者がいますよ。いま14歳なので、来年魔法学院に入学します。私は卒業してしまいますから、代わりに仲良くしてやってください」


ええー!

ファエロって婚約者いたの?

もー、なんで言ってくれなかったのかな。


と、言うことは。

独り身はガブリエルか。

……うん、なんか納得だな。


「もちろん、仲良くしますわ! ーーガブリエル様、どうか気を落とさないでくださいね」


かわいそうに……。

やっぱり性格の問題かな。


「別に気なんか落としてない」


「そんなに強がらなくてもいいんですよ」


私はそう言って、気の毒そうな眼差しをガブリエルに向けた。

いつか、ガブリエルのことを理解してくれる女の人がきっと現れるからね……。


「言っておくが、女なんか面倒だから作らないだけだからな! 女は、”どうして連絡をくれないの?”だの、”私と仕事のどっちが大事なの?”だの、”このドレスとあのドレスのどっちが似合うと思う?”だの、面倒なことばかり言う」


え、ガブリエルって前に彼女がいたの?


「そう言われたことが?」


「……ないけど」


ないんかい!

脳内の彼女と話すんだったら、どうせならもっと楽しい会話をしなよ!


やっぱり、単に変人だから婚約者どころか彼女すらいないんだな。


「ガブリエル様。そんなことを言う女性ばかりではありませんよ。現に私はそんなこと一度も言ったことありませんし」


「お前は変人だから、一般的な女とは違う」


カッチーン!

変人に変人って言われた!


「私はガブリエル様より一般常識はあると思っています!」


「お前がそう言うならそうなんだろうな。お前の中ではな」


ガブリエルは片方の口の端をあげて、フフンとせせら笑った。

なんだとうっ!?


「あの、2人とも。お祝いの席ですから」


ルイーザが睨み合う私たちに控えめに割って入った。


はっ、そうだった!

喧嘩してたらお祝いムードがぶち壊しになっちゃう。


ガブリエル、勝負は後日に持ち越しだから!

耳の後ろを洗って待っているがいい!


「そうね。ごめんなさいね、みんな。ガブリエル様が大人げないものだから」


「人のせいにするなっ」


フーンだ!


「もう止めろって。しかし、ガブリエル。俺たちはもう3年生なんだから、早く婚約者を決めないと親に勝手に決められてしまうぞ?」


「……うん」


なんかガブリエル、クリス様にはやけに素直だな。


「好きな人はいないのか?」


「……いない」


でしょうね!


「魔法の研究ばかりじゃなく、少しは女性に目を向けてみろよ。どんな人が好みなんだ?」


「……魔力が強いタイプ」


ガク。

こいつはだめだ。

根本的に結婚に向いていない。


こういう人はずっと独身でもいいんじゃないだろうか。


「だったら、ガルコス公爵が探してくる人でいいじゃないか。ガブリエルが望むなら、部下の中から選りすぐりの猛者を婚約者にしてくれるぞ?」


クリス様……、猛者って、女の人に対して使う言葉なんですか?


「……見た目も可愛い方がいい。あと、俺を怖がらない女」


次から次へと、結構注文多いね!?

まったく、自分がそこまで選べる立場だと思ってるんだろうか。


その性格だけでも前途多難なのに、ガブリエルと結婚したらあの父親がもれなく付いて来るんだからね!


「プッ! なんだかガブリエルの好みの女性って、チェリーナみたいだなあ。魔力が強くて可愛いし、ガブリエルを怖がらないよ?」


お兄様、やめて!

なんという恐ろしいことを!


「なにっ!?」


クリス様はじろりとガブリエルを睨みつける。

いや、ガブリエルはそんなこと一言も言ってないからね?


「……確かに魔力は強い。そして俺を怖がらない。だがしかし……、可愛い……、のか?」


ちょっと、首を傾げないでよ!

どこからどう見ても可愛いでしょうが!






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