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第132話 パヴァロ君とマリア


馬車の窓から外を見ていたクリス様は、私の方に顔を向けて返事をした。


「いや、その店に通うようになったのは、ここ2年くらいだ。その前はプリマヴェーラにいたからな」


まあ、そうだよね。

プリマヴェーラから王都の高級料理店へ通えるわけがない。


「いつも個室なんですか?」


「個室は今回が初めてだ。普段は一般客と同じところで食べている。でも、支配人がいつでも個室に案内できると言っていたから、いつ行っても空いてるんじゃないのか? まあ、なんとかなるだろ」


適当だな。

何とかならなかったら、私たちごはん食べられないんだからね!




しばらく馬車を走らせると、私たちはクリス様おすすめの高級料理店の前に到着した。


おおー、店構えからして高級そう!

彫刻を施した真っ白な外壁やら、大理石が敷かれた出入り口からして、いかにも貴族御用達といった雰囲気だ。


「わあー、いつものお店より高級感たっぷりですね!」


「お前には堅苦しいより気楽な店のほうがいいかと思ってたんだが、ここが気に入ったのならまた連れてきてやる」


「はい、ありがとうございます!」


私たちが馬車を降りて店の方へと足を進めると、店の中からクリス様の姿を見つけたらしい支配人が急ぎ足でやってきた。


「これはこれは、クリスティアーノ殿下。ご贔屓にしていただいて誠にありがとうございます」


「10名なんだが、個室は空いているかな?」


「勿論でございます。さあどうぞ、こちらへ。みなさま、ようこそお越しくださいました。私は支配人のマンジャーレと申します」


これ以上はないというくらいに満面の笑みをたたえた支配人は、二つ返事で私たちを個室へと通してくれるようだ。


店の中に一歩足を踏み入れると、内装もとても豪華だった。

天井からいくつもぶら下がった煌びやかなシャンデリアや優雅なテーブルセット、そして店内にふんだんにあしらわれた鏡がベルサイユ宮殿感を醸しだしている。


「わあー、中も綺麗……、あらっ?」


きょろきょろと店の中を見回しているうちに、私はあることに気が付いた。


「どうした?」


後姿だけど、あの大きな丸いフォルムと黒い巻き毛に見覚えがあるぞ。


「あれ、パヴァロ君じゃないですか? ほら、あそこです」


「ん? ああ、本当だ。連れがいるようだが……、婚約者かな?」


ええっ、パヴァロ君、婚約者がいたの?


「せっかくですから、私たちに合流できないか誘ってみましょうか? 私ちょっと声をかけてきますので、みんな先に部屋に行っててください」


「おい、婚約者と一緒なら迷惑かもしれないだろ。待てって!」


引き止めるクリス様を無視して私はパヴァロ君の元へと向かった。


パヴァロ君に婚約者がいたなんて初耳だし!

詳しく聞きたい!


「パヴァロ君!」


「えっ……、ええっ!? マルチェリーナさん! どうしてここに?」


いきなり声をかけられて驚いたのか、体をびくりと跳ねさせたパヴァロ君は目を白黒させている。


「アルフォンソとラヴィエータが婚約したから、お祝いにクリス様がここに連れてきてくれたのよ。パヴァロ君たちも私たちと一緒にどうかと思って誘いにきたの」


「アルフォンソさんとラヴィエータさんが婚約を!? あの2人は付き合っていたんですか?」


「驚くわよね! 私たちも今日初めて知ったのよ。ところで、そちらはパヴァロ君の婚約者?」


紹介されるのを待ちきれない私は、自分から核心に迫ることにした。

パヴァロ君と同じ黒目黒髪のきれいな子だ。


「えっ、いやっ、そんな」


「……」


パヴァロ君たちは、2人揃ってプシューッと音がしそうなくらい赤くなって俯いてしまった。

急にどうしたのかな?


「ええと、こちらは僕の幼馴染のマリア・アカラスです。父親の仕事の都合で1週間ほど王都に滞在するというので、こうして食事に来たんですよ。マリア、こちらは魔法学院の同級生のマルチェリーナ・プリマヴェーラさんだよ」


「まあっ! あのプリマヴェーラ辺境伯様のご令嬢の? お噂はかねがね伺っております。お目にかかれて光栄でございます」


マリアは私に会えて嬉しそうな様子を見せている。


お噂って、もしかしてこの前の演技が評判になって女優として噂されてるってことかな?

みんなの注目の的だなんて照れる……っ!


「あなたもあの余興をご覧になったの? パヴァロ君の歌は素晴らしかったでしょう?」


「いいえ、残念ながら私は行けませんので……。私は商人の娘で魔力がありませんし、身内に魔法学院を卒業した者もいないのです」


マリアは残念そうに小さく微笑んだ。

そうか……、平民で魔力がある人は滅多にいないもんね……。


「あら、そうなの……。パヴァロ君の歌を聞けなかったなんて残念ね。あの日は大喝采を浴びて、劇場の経営者までパヴァロ君に会いに来たのよ」


パヴァロ君もマリアに聞いてほしかったんじゃないかな……。


「はい。劇場の話はたった今聞いたところでした。契約金をたくさんいただいたとかで、奮発してこちらのお店に連れてきてくれたんです」


「まあっ! すごいわ、パヴァロ君! まだ学生の身で劇場と契約するなんて、私も同級生として鼻が高いわ」


「ありがとうございます、マルチェリーナさん。今回のことは、すべてマルチェリーナさんのおかげです」


そんな、すべて私のおかげだなんて。

そうかな?

いやあ、まいっちゃうな!


「何を言うの、パヴァロ君の実力と努力が実を結んだのよ」


「おい、いつまで話してるんだよ」


おっと。

ちょっぴり長話をしすぎたようで、クリス様が迎えに来てしまった。


「ク、クリスティアーノ殿下……!」


「クリス様、いま行きます。パヴァロ君たちも一緒に行きましょう? クリス様、パヴァロ君は劇場と契約したんですって! 本当におめでたいことが続きますね」


「なにっ! いつの間にそんな話に? 期間はどれくらいなんだっ!」


「はっ? あの、い、1年ですが……」


契約期間が1年と聞いたクリス様は、あからさまにホッとした様子を見せた。

なんでホッとするの?


「そうか。君には折り入って話があるから、もし今後契約更新の話があったとしても保留にしておいてくれないか」


「えっ? ええ、承知いたしました」


パヴァロ君はクリス様の言うことに首を傾げつつも了承してくれた。

何の話があるんだろ?


「さあ、個室でゆっくり話そう」


そうそう、みんな待ってるし早く行きましょう!


「あ、あの。私たちは食事を済ませたところですので……。お茶だけご一緒するということでよろしいでしょうか?」


「ええ、もちろんよ! さあ、行きましょう!」


私は心なしか足取りの重いパヴァロ君の背中をぐいぐいと押しながら、鼻歌交じりに個室へ向かった。





私たちが部屋に入ると、先に席に着いていたお兄様が文句を言った。


「チェリーナ、遅いよ」


えー、そう?

ほんの1~2分じゃなかった?


「みんな、お待たせしてごめんなさい! こちらはパヴァロ君の幼馴染のマリアよ。すごいのよ、パヴァロ君が劇場と契約したそうなの! おめでたいこと続きで素晴らしいわ」


「まあ!」

「すごいわ!」

「おめでとう!」


みんなが口々にパヴァロ君を祝福すると、パヴァロ君は顔を赤くしながらお礼を言った。


「ありがとうございます。まさか僕が舞台に立つ日がくるなんて、夢を見ているようです。アルフォンソさんとラヴィエータさんは婚約されたそうですね? 本当におめでとうございます」


「ありがとう、パヴァロさん」

「ありがとうございます、パヴァロ様」


アルフォンソとラヴィエータは、いったんお互いの顔を見て微笑み合ってからお礼を言った。


……なんでいったん顔を見たの?

椅子も何だか近いし……、おとといまでとは2人の距離感がまったく違っていてびっくりだよ。


それにしても、アルフォンソが美少女ヒロインのラヴィエータを射止めるとはねぇ。

これっぽっちも想像してなかったよ。


がんばったアルフォンソに、何かお祝いをあげないといけないな。





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