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第130話 甦る聖女疑惑


あの時私がアルフォンソに対して思ったことといえば……。


「女の子を軽々と抱き上げられるようになったなんて、アルフォンソも大きくなったなあとしか思わなかったわ……」


「クスッ、なあにそれ? チェリーナったら親戚のおばさまみたいだわ」


「ふふっ、ほんとうね」


うっ、秘密にしてるけど、前世から通算すると精神的にはアラサーなんです。


「ああ、私が誘拐されたときに、チェレス様が助けに来てくれたことを思い出すわ」


カレンデュラはあの時のことがよほど大切な思い出らしく、胸の前で手を組み合わせて夢見心地な様子だ。


「まあ! そんなことがあったの?」


「そうなの! 恐ろしい盗賊がいる洞窟に真っ先に飛び込んで、私を助けてくれたのよ。まるで、物語に出てくる騎士のようだったわ」


私がお兄様をチラリと見ると、思ったとおりドヤ顔を披露している。

お兄様……、無鉄砲にも丸腰で飛び込んだって聞いています……。


「素敵……!」

「素敵ですね」


ルイーザとラヴィエータはほうっとため息をつきながら、カレンデュラの話に相槌を打っている。

おおっと、私もお兄様なんか見てないで話題に付いて行かないとっ!


「それなら私だって!」


とっておきのネタがあるんです。


「まあっ、チェリーナもクリス様に助けられたことが?」


「いいえ、私がクリス様を助けたの! うちの裏庭で悪者がいきなり襲ってきて危ないところだったのよ。物語で言うなら、さしずめクリス様がお姫様で、私が騎士というところね!」


本当はマーニの活躍で助かったのかもしれないけど、そこは割愛しておくことにする。


「えっ……」

「ええっ」

「それは……」


あれ?

喝采はないのかな?

もうちょっとでナイフがぶっすり刺さるところだったんですよ?


「チェリーナ、そんなことをバラすものじゃないよ。女の子に助けられたなんて、クリス様の立つ瀬がないだろう? 僕はカレンを助けたからいいけど、フッ」


お兄様、私をたしなめる体裁を取りつつ、なにげに自分の手柄を自慢してませんか。

ちょっと顔も笑ってるし。


クリス様のほうに視線を向けると、なんとなくしょんぼりしているようにも見えた。


「チェレス、お前、面白がってるだろ……」


「いえいえ。そんなことは、フフッ」


もしかして、クリス様的にはみんなに知られたくないことだったのかも……?


「あの……、クリス様、ごめんなさい」


ちょっと調子に乗りすぎました。


「いや、別に……。事実だし……」


「あの時はまだ子どもでしたからっ! 今はクリス様の魔力もとても強くなりましたし、これからいくらでも好きなだけ私を守ってください! 私、攻撃魔法はさっぱりですし」


いまなら無期限守り放題キャンペーン、絶賛受付中です!


「そうだな。……お前の結界のマントがあれば、どんな攻撃でも防げるけどな」


ああっ、クリス様がやさぐれてしまった!


「はは……。それにしても、チェリーナの予言がことごとく当たっていたことには驚いたよ」


私のせいで微妙になってしまった空気を読んだアルフォンソが、気を利かせて話題を変えてくれた。

さすがの気遣いだ。


「私もです! マルチェリーナ様のお力は本当にすごい……。あの……、マルチェリーナ様は、本物の聖女様ではないのですか?」


ラヴィエータも私の方を見て感心している。 

褒められるのはまんざらでもないけど……、聖女説を流すのはありがた迷惑なんで止めてくださいね?


「信じられない……。あの馬鹿馬鹿しい連続殺人だの崖の上だの、あれが当たってるなんて冗談だと言ってくれ」


まだ認めたくないらしいジュリオが悪あがきしている。


ああー、そういえばあなた、さんざん私を馬鹿にしてくれましたよね?

私は忘れてないんだから!


「私にはどこまでも全部ズバッとお見通しなのです!」


嘘だけど。


「崖より何より、特にすごかったのがあの犯人像だよ! 年が10代から20代で、えーとなんだっけ?」


うろ覚えだったらしいアルフォンソが私に尋ねる。


「”犯人は、10代から20代、あるいは30代から40代の、女性もしくは男性である可能性が高いでしょう!”ですね」


ファエロ、相変わらず記憶力いいな。


そして声色をまねるのも前回より腕が上がったようだけど……。

まさか、夜な夜なモノマネの練習をしてるわけじゃあるまいな?


「そうそう、それそれ! 本当にぴったりそのままだったことが分かったときには震えたよ」


アルフォンソはゾクッとしたように両腕をさすった。

え、ほんとに当たってたの?


「そうなんです。私の異母兄のヒンドリーは20歳、義母はたしかまだ30代だった筈です。それに、御者のヒースは40代です」


「ええっ!」

「まさか!」

「信じられない!」


えええええ!?

私が一番びっくりだよ!

自分の探偵としての才能が怖い……!


「じゅっ、10代は当たっていない」


ジュリオ……、何が何でもハズレを見つけようとしないでよ!

ここまで当たってるならもう当たりでいいでしょ。


「犯人と言えるのかどうかわかりませんが……、でも、私にあの場所へ行くようにと言ったのは、この学院の女生徒でした。おそらく伝言を頼まれて伝えただけだとは思いますが、10代の女性、ということになるのでしょうか……」


「ええっ! じゃあ、本当にあの時食堂に犯人の一味がいたとも解釈できるということ!?」


ラヴィエータの説明にお兄様が目を見開いた。


だから言ったじゃん、だから言ったじゃんっ!

犯人はこの中にいるって!


犯人は身近にいるものなんだよ。

ドラマやアニメではだいたい毎回あのセリフが出るんだからね!


「……そういえば、犯人は知人だとも言っていたな」


クリス様も他の人同様に驚愕の表情だ。


「ここまで当たることはしばらくなかったけど、そういえばチェリーナは子どもの頃、魔物の大量発生を当ててたね……」


「それに、俺たちが魔法学院に入学してジュリオやファエロ、それからガブリエルと友人になることも当てていた」


「病気で死にかけた時は、神様に治療方法を聞いたと言って自分で治癒薬を作り出してたよね」


ちょ、ちょっと!

お兄様もクリス様も!

みんな食い入るようにして2人の会話を聞いてるから!


「本物だ……」

「本物の聖女なんだ……」

「思ってたのと違う」


ガブリエル、思ってたのと違うってどういう意味?


喧嘩売ってるのかな?

売ってるなら言い値で買いますけど!


「ごほん! とにかくっ! 私は神殿になんて行きたくありませんから、ここでの話はどうか内密にお願いします! 今後は聖女のセの字も言わないでください、いいですね!」


「無茶言うなよ」

「セの字を言うなは無理だろ」

「セぐらい普通に言わせてくれよ」


ああ、もう、細かいな!

聖女のセの字も言わないくらいの心意気でって意味だよ!


「じゃあセは言っていいです。聖女は内緒にしてください」


「俺たちに言論の自由はないのかよ……。それにしても、アルフォンソはさすが大きな商家の跡取り息子だよな。よくもまあとっさに敵を丸め込んだと感心するよ。動かぬ証拠まで突きつけるとは恐れ入ったぞ」


私もそう思った!

タイミングよく犯人を撮影してたとかすご過ぎるよ!


「ははは、クリス様。そう都合よく撮影できませんよ」


「えっ!?」


「あれは走り去る馬車を後ろから撮っただけなので、人物はもちろん、エベラ男爵家と関連付けられるような証拠は何も映っていません。あの映像では、どこにでもあるただの黒い馬車としか分からないでしょうね」


映ってなかったんかい!

てっきりバッチリ顔が映りこんでるのかと思ったわ。






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