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第129話 アルフォンソの回想 ~求婚~


振り向くと、そこには40代くらいの男が青褪めた顔で立っていた。


「私がっ……、あれは私の一存でしたことなのです! 奥様はただその馬車に乗りあわせてしまっただけ、悪いのは全て私です!」


えーと、この人は誰だろう?


「ヒース、何を言うの! あなたは馬車を操っていただけだわ。命じたのはこの私よ!」


なるほど、この人が御者だったのか。


「いいえっ、たとえお嬢様を脅かせと言われたとしても、実行しなければよかったのです。罪は、実行した私にあります!」


あれ……、殺せではなく、脅かせという命令だったの?

殺意があったのかなかったのか、そこが重要なんだけど。


「お取り込み中すみませんが、確認させてください。あなたはラヴィエータを轢き殺すつもりだったのでは?」


僕は単刀直入にエベラ男爵夫人へ尋ねた。


「そんな、轢き殺すなんてとんでもない! あの余興で、ラヴィエータが婚約者のいらっしゃるクリスティアーノ殿下にちょっかいをかけるのを見て……、ついラヴィエータの母親と重ねてしまって……。でも本当に、ちょっと怖い目に遭わせて、転ばせでもしたらそれで満足だったんです」


「そうだ! ラヴィエータは金持ちの家に嫁がせる手はずになっていたのに、その前に殺して多額の結納金をむざむざ逃すわけがないだろう!」


ヒンドリーが横から口を挟む。


……クズな兄貴は黙ってろ!

ラヴィエータを金持ちに売るつもりだったとは、本当に腹が立つ男だ。


「しかし、ラヴィエータの母親については、あなた方が轢き殺したのでしょう?」


「ちっ、違うわ! 橋を渡ろうとして隣をすり抜けたら、あちらが足を滑らせて川に落ちたのよ! 少し馬車を急がせていたかもしれないけれど、ぶつかってはいないわ!」


少しって……、おそらく相当な速さだったから驚いて足を滑らせたに違いない。

学院でも相当な勢いだったしな。


「なるほど、よく分かりました。それでは、取引と行きましょうか」


「と、取引……?」


エベラ男爵夫人はゴクリと唾を飲み込んだ。


「あなた方は、事件が公になることを避けたい。そうですよね? 私の口を噤ませるためには、どうしたらいいでしょうね?」


「か、金かっ! 金なのか!」


クズ兄貴、お前と一緒にするなよ。


「幸いなことに私の実家は裕福ですのでお金には困っておりませんよ。私からの要求は、ラヴィエータを伯爵の後妻にする計画を取り止めること」


「アルフォンソさん……っ!」


隣にいたラヴィエータは感極まったように僕の名前を呼ぶと、僕の腕へそっと手を伸ばした。


「何でだよ! 後妻だから駄目なのか! それなら他の人にーー」


「シャーッ!」


わめくクズ兄貴に向かって、どこからか現れたマーニが威嚇の声をあげた。

マーニ、いたの?


「他の人も駄目だ! ラヴィエータに不幸な結婚をさせたくない! ーーラヴィエータ、僕の手で君を幸せにしたい。どうか、僕と結婚してくれませんか?」


ヒンドリーの言葉をぴしゃりと遮った僕は、ラヴィエータに向き直って求婚した。


「アルフォンソさん! 私、嬉しいですっ……、私を、アルフォンソさんのお嫁さんにしてください」


「ラヴィエータ!」


僕たちはぎゅっと抱きしめ合った。

ああ……、幸せだ。


「待てよ! 俺は認めてないぞ! 金払いのいい金持ちと結婚させる計画はどうなる!」


うるさいな。

金、金って、ヒンドリーは相当お金に執着心があるようだ。

よし、彼には経済的なダメージを負ってもらうことにしようか。


何の痛みも伴わない解決方法じゃ、また何かろくでもないことを企みかねないからね。

それに、殺人を犯しかねない危険な義母には、二度と会わずに済むくらい遠くに行ってもらいたいな。


「……エベラ男爵夫人。失礼ながら、あなたのご主人がもしこの場にいたとしたら、その御者の方のようにあなたを庇ってくれたでしょうか?」


「それは……」


庇ってもらえるとは思わなかったであろうエベラ男爵夫人は俯いてしまう。


「私の知り合いに、貴族と使用人の立場で愛を貫いた人たちがいるんですよ。幼い頃から兄妹のように育って、女性の方に縁談が持ち上がった時に手に手を取りあって逃げたのです。二人はすべてを捨てて他所の土地へ行き、そこで子どもをもうけて幸せに暮らしました」


「幼い頃から……」


エベラ男爵夫人は御者の男に視線を向けた。


「キャサリン様……」


御者の男も、エベラ男爵夫人をじっと見つめ返す。


「私たちも、貴族令嬢と商人の息子という立場です。しかし、私は必ずラヴィエータを幸せにしますよ。真実の愛があれば、どんな困難も乗り越えられると私は信じています」


「真実の……愛……」


エベラ男爵夫人と御者の男は、僕の言葉に暗示に掛けられたようにただお互いを見つめていた。

うん、もうひと押しだな。


「もしお二人がそうされたいのなら……、ヒンドリーさんが喜んでお手伝いをしてくださるでしょう。実の母のために生活費を都合することくらい簡単なことですから」


「なッ、何を勝手なことを!」


ヒンドリーが唾を飛ばす勢いで抗議してくる。


「シャーッ!」


「このことが公になれば、あなたの結婚話はなくなるんですよ。男爵家の後継者としてふさわしくないとされて、親戚に跡継ぎの座を奪われるようなことになってもいいんですか? あなたが私たちとエベラ男爵夫人たちのことを認めて協力すれば、あなたは予定通り結婚出来るんです。よくお考えになった方がよろしいかと」


「くッ……、くそッ!」


ヒンドリーは悔しそうに歯噛みした。


「そうそう。ご紹介が遅れましたが、このマーニは、プリマヴェーラ辺境伯家を守護する神獣です。万が一にでも約束を違えるようなことがあれば、その時は恐ろしい神罰が下ることになるでしょう」


「ひッ、神罰っ!? わ、わかったよ! お前の言う通りにするから! だから、もう帰ってくれッ!」


「商談成立ですね。それでは、私たちはこれでお暇いたします。ーー神罰のことをくれぐれもお忘れなきよう」


僕は震えるヒンドリーに向かってニッコリ笑うと、ラヴィエータの手を取ってエベラ男爵家の屋敷を後にした。




--


「とまあ、こんな感じで。僕たちは婚約することになりました」


アルフォンソは照れながら話を締めくくった。


「ええー! なんだかいきなりじゃない? ラヴィエータはそんな急に求婚されてびっくりしなかったの?」


話の途中に思いついて、いきおいでプロポーズしてない?

私だったらそんな超展開に付いていけないし、その場でOKなんて出来ないよ!


「私は……、パーティの後、助けていただいたときからアルフォンソさんを素敵だと思っていましたから。求婚していただいて……、とても、嬉しかったです」


ラヴィエータは恥ずかしそうにポッと頬を染めている。

えっ、そうだったの!?


「ああ、あの時ね! わかるわ、力強い腕でさっと抱き上げて助けてくれるなんて素敵だったもの」


「そうね、あんな風にされたら、好きになってしまうわよね」


カレンデュラとルイーザはきゃっきゃと笑い合った。

どうやら、この2人はあの時からもしかしてと思っていたようだ。


「アルフォンソを頼り切ってうっとり見つめていたものね」


「そうそう! 私もそう思ったのよ。チェリーナも気付いたでしょう?」


えっ、ええ、もちろんですっ。


私だって女の端くれですから?

そこは女の勘でピンと来ました!


というのは嘘で、本当は全然気付かなかった。

むしろクリス様とラヴィエータの恋が始まるパターンだと勘違いして、あの時はエライことになったんだっけ……。






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