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第128話 アルフォンソの回想 ~対決~


プリマヴェーラ辺境伯領とは違って、エベラ男爵領は王都から程近かった。

初めて行く土地だったから迷わないようにと街道の上を飛んできたけど、街道沿いに来ても1時間もかからない距離だった。


「こんなにあっという間に着くなんて信じられません! マルチェリーナ様は本当にすごい方ですね」


ラヴィエータはチェリーナが魔法で出したトブーンに感心しきりの様子だ。


確かにチェリーナは、結果だけを見るとすごい魔法使いなんだけど……。

考えが足りなすぎるところが玉に瑕だよ。


「はは、あまり本人に言わないでくれると嬉しいな」


「えっ? なぜですか?」


「チェリーナを調子づかせたらどんなことになるか……」


出来ればこれ以上目立ってほしくない。

もしチェーザレ様やクリス様の庇護がなかったら、どれだけ悪人に利用されていただろうと想像すると怖ろしいものがある。


チェリーナを巡って戦争になることだってありえたかもしれないのだ。

それを考えると、この国の王子であるクリス様の婚約者になれたことは本当に幸運なことだったと思う。


「はあ。よくわかりませんが、アルフォンソさんの言うとおりにします」


「うん、そうして。ところで、あっちの丘の上にある屋敷、あれがラヴィエータの家かな?」


僕は街の外れに見える屋敷を指さして尋ねた。

ここから見ると崖の上というより丘の上にあるように見えるけど、他に貴族が住んでいるような屋敷は見当たらないし、おそらくあれがラヴィエータの実家なのだろう。


「はい。私はあの屋敷には1年も住んでいませんので、私の家とは思えないのですが……、エベラ男爵家の屋敷であることは間違いありません」


「ふーん、反対側から見ると崖になっているの?」


「そうなんです。反対側は断崖絶壁で、谷底には川が流れています。街からも離れているし、なぜあんなところに屋敷を建てたのか不思議ですよね」


背後から襲われることを想定してのあの位置なのか……?

エベラ男爵家は敵が多い家なのかもしれない。


人殺しを企てる時点で物騒な家であることは確実なのだ。

僕たちも用心していかないとな。


「いったん街へ入って、エベラ男爵夫人の評判を探ってみよう」


「はい」


そういえば、僕のお腹の辺りにいた筈のマーニは、どこに行ってしまったんだろう?

気が付いたらいなくなってたけど、このまま別行動でいいのかな……?




エベラ男爵領の領都は、マヴェーラの街よりもだいぶこじんまりしていた。

人口もあまり多くないようだし、商人や農民からの税収もそれほど多くは見込めないだろうな。


「……っ! おい!」


「きゃっ!」


ラヴィエータがあげた小さな悲鳴に気付いて振り向くと、見知らぬ男に腕を掴まれているラヴィエータの姿があった。

しまった、僕が油断してキョロキョロ街を見ているうちに、ラヴィエータが変な男に絡まれている!


「その手を離せ! 彼女に何の用だ!」


僕はラヴィエータと男の間にずいっと体を割り込ませた。


「誰だお前は」


手を放した男が僕を睨み付ける


「アルフォンソさん! こちらは、私の異母兄のヒンドリー・エベラです。お兄様、こちらは魔法学院の先輩で、アルフォンソ・アルベルティーニさんです」


ラヴィエータの異母兄!

ということは、エベラ男爵夫人の息子か。

十中八九敵だろうな……、いきなり容疑者の息子に出くわすとはついていない。


「お兄様でしたか、それは失礼いたしました。アルフォンソ・アルベルティーニと申します」


「……男連れで帰省するとはな。お前の結婚話が進んでいることが耳に入ったか?」


はっ!?

ラヴィエータの結婚話?


「えっ、いったい何のお話ですか? 私、結婚するんですか?」


ラヴィエータも寝耳に水だったようで、見るからに動揺している。


「とある伯爵がお前を後妻として迎えてもいいと言っているようだ。もう50歳位にはなる方だがな」


ごごごごご、50歳っ!?

僕の父親より年上じゃないか!


ラヴィエータはまだ15歳なのに、そんな年の男と結婚させるつもりだなんて何を考えているんだ!


「そんな! そんなことっ! アルフォンソさん!」


ラヴィエータはあまりの話に顔色をなくし、助けを求めるように僕の腕にしがみついた。

殺害を失敗したエベラ男爵夫人が、厄介払いのために金持ちの後妻にしようとしているのか……?


僕はカタカタと小刻みに震えるラヴィエータに視線を落とした。


……この縁談、なんとしてもブチ壊すしかあるまい。


そのためなら手段を選ぶつもりはないよ。

エベラ男爵家のみなさんには、僕の本気をとくとご覧いただくことにしよう。


「大丈夫だよ、ラヴィエータ。僕に任せて。ヒンドリーさん、これからお宅にお邪魔してもよろしいでしょうか? 少しお話をさせていただきたいのです。ーー先日の、馬車の件で」


先日の馬車の件、の部分は思わせぶりにわざと声をひそめて言ってやった。

絶対にこいつも何か知っている筈だと僕の勘が言っているから。


「……っ!」


ほら。

思ったとおり激しく狼狽している。


ヒンドリーはしばらく僕を睨みつけたあと、顎をクイッとしゃくって付いてくるよう合図を送った。

はあ……、殺人事件の捜査に来た筈が、思わぬ方向に話がそれてしまったな。




15分ほど歩くと、僕たちはエベラ男爵家の屋敷に到着した。

屋敷に入った途端にヒンドリーがわめき出す。


「母上! 母上!」


「ーーなんですか、騒々しい」


玄関近くの部屋から小柄な女性が顔を出した。

どうやらこの人がエベラ男爵夫人のようだ。


取り立てて美しくもなく、かといって醜くもなく……、人殺しを企てるような邪悪な人にも見えない、どこにでもいるような普通の女性だ。


「母上! 厄介なことになりました……。この男が、先日の件で話があると……」


「せ、先日の件……! なんのことかしら、私にはなんのことかっ、さっぱりわかりませんわ!」


さっぱり分からないという割りに、僕を見て震えているけど。

思いっきり心当たりがあるようだ。


こんなにはっきりと動揺を見せるとはね、この様子なら楽に交渉が進みそうだ。


「分かりませんか。では、分かるようにお話いたしましょう。ーー先日のパーティで私たちの余興をご覧になりましたか?」


「よ、余興……? いったい何の話なの!」


突然の話の転換に、エベラ男爵夫人はいらだちを見せた。


「まあ落ち着いてください。舞台の壁一面に、信じられないくらいの大きさで人物が映し出されていたでしょう?」


僕がなぜそんな話をしているのか意図が掴めないエベラ男爵夫人は、眉間にしわを寄せて僕をキッと睨みつけている。


「……」


「あれはですね、この魔法具で撮影したんです」


僕はそう言うと、アイテム袋の中から録画機を取り出した。


「ああ……、よく映っていますよ。パーティの後、ラヴィエータを轢き殺そうとしたあなたの馬車が学院から逃げるところが。ほら」


僕は録画機の小さな画面がエベラ男爵夫人に見えるように差し出した。


「……っ!」


エベラ男爵夫人は、ひゅっと息を飲んで後退りしただけで画面を見ようとはしなかった。

今にも倒れそうにぐらぐら揺れてるけど……、大丈夫かな?


「は、母上っ! だからあれほど止めたのに! なんてことだ、こんなことが公になったら俺の結婚はどうなる! 来月には結婚式だというのに!」


あー、残念でしたね。

息子のほうが先に白状しちゃいましたよ。

それにしてもこの息子、こんな状況になっているのに、真っ先に気にすることが自分の結婚なんだな……。


まあいい。

話を詰めよう。


「さてーー」


「お、お待ちくださいっ!」


エベラ男爵夫人に一気にたたみかけようとしたところで、僕たちの背後から制止する声があがった。






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