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第125話 和解の時


まったく、迂闊なことをするなと言われたそばから迂闊なことをするなんて信じられないよ!


ちょっと騙され易すぎじゃない?

国王陛下とファビアーノ殿下は間違いなく親子だよね、血の繋がりを強く感じる。


「そしてそこでひと時を過ごした後、部屋の外が騒がしくなったかと思うと、いきなり扉が乱暴に開け放たれた。クラウディアも想像が付くと思うが、そこにはインテンソ伯爵……、いや、その時はまだ子爵だな。インテンソ子爵が立っていたよ。


廊下から明かりが差し込んだことで、その時になって初めて私の隣にいる女性の顔が見えて、相手は同級生のアルビーナであったことがわかった。ーーそこまでの状況になってやっと気が付いたのだ。自分が罠にかけられたことに」


時すでにお寿司ーーって、言ってる場合かっ!

相手の顔すら見てなかったなんて、国王陛下の迂闊っぷりは底が見えないな……。


「私たちの姿を見たインテンソ子爵は激高して、アルビーナをベッドから引きずり出し、恥知らずとののしって彼女の顔を殴り始めた。唇を切ろうが、鼻血を出そうがお構いなしだったよ。インテンソ子爵は、まるで自分は関わっていないかのような口ぶりだったが、あれがインテンソ子爵の命令でない訳がない。


学院でのアルビーナは、物静かで読書が好きな優等生で、いつも面倒事を押し付けられてしまうようなお人よしな少女でもあったのだ。そんな彼女が自分一人の考えであんなことを企てるとは到底思えなかった」


ちょっとちょっと!

そんな呑気に側妃様の人となりを分析するより、まずはそのDVじじいの蛮行を止めてよ!


「まあ、なんて恐ろしいことでしょう! それをご覧になっているだけで、インテンソ子爵の暴力をお止めにならなかったのですか!?」


王妃様はそう言って美しい顔をしかめた。


ほんとですよ、さっさと止めてよね!

無理やり自分の悪巧みに娘を加担させておきながら、血が出るほど暴力を振るうなんてとんでもない父親だ!


その上、インテンソ子爵ってクリス様の命まで狙ってきたんだよね。

極悪人めー、今度会ったら踏んづけてやる!


「いや、あまりのことにしばらく呆然としてしまったが、もちろん止めに入ったよ。ーー止めながら、こんな父親の元へこのまま戻されたら、彼女はいったいどうなってしまうのだろうかと案じてもいた。


彼女にしてしまったことに対して責任も感じたし、自分しか彼女を守れないと思ったら……、つい、”アルビーナを側妃に迎える”と言ってしまったのだ。父上に相談することもせず、完全にその場の勢いだったが……」


まんまとインテンソ子爵の思う壺になったってわけですね……。


「わたくしの想像とは、全く違う状況でしたのね。わたくしは、陛下とあの方は、学生時代からの恋人同士で……。愛ゆえに、お互いを諦めることが出来なかったのだと、そう思っておりましたから……」


「お互いの存在を知ってはいたが、私たちはほとんど会話もしたことがなかった。後から聞いた話だが、在学中に私を籠絡しろと父親に命令されていたものの、真面目な彼女はどうしても行動に移せなかったそうだ。そして、もう間もなく卒業するとなった頃、業を煮やしたインテンソ子爵が一か八かの賭けに打って出たということだった。父上には大目玉を食らったよ」


そりゃそうでしょうとも!

先王陛下も騙されやすい息子の尻拭いが大変だったことでしょう。

お察しいたします……。


「それでも、結局は先王陛下もお認めになられたのですね……」


「……最初は取り付く島もなかったが、父上も認めざるを得ない状況になったのだ。ーー二月ほどして、アドリアーノが出来たことがわかったからな」


お、おう。

それはもう引き返せないですね。


「……そうですか」


「父上は、アルビーナを側妃とすることは認めたが、アルビーナが今後一切実家と関わらないことを条件にした。目論見が外れたインテンソ子爵は激しく反発したが、伯爵位に陞爵させることと引き換えに黙らせたのだ」


くうー!

悪いやつだと分かっているのに罰するどころか陞爵させたの!?

先王陛下も腸が煮えくり返っただろうけど、ほんと腹立つ!


「……そうでしたの。陛下とあの方は、仲睦まじいご様子でしたから始まり方は意外でしたが……。側妃に迎えられてから愛を育まれたのですね」


「そうではない! そうではないのだ! 息子たちを産んでくれた女性として感謝の気持ちや情はあるが、かといって恋愛感情をもっているわけではない。ーー私が愛しているのは、クラウディア……。お前だけなのだ」


は!?

なにそれ白々しい!

とてもじゃないけど、そんな話信じられないし説得力ゼロなんだけど。


「……信じられませんわ」


だよね!

私も信じられない!


「信じてもらえないのも無理はないな……。私たちが婚約することになった経緯は聞いているか?」


「政略結婚で、わたくしが産まれる前から結婚することが決まっていたと聞いております」


「そうだな。王家とザフィーロ公爵家との縁談だったことは間違いない。しかし、ザフィーロ公爵家に産まれてきたのは3人続けて男ばかり。幼い私は、”もうすぐグラツィアーノ王子のお妃様になられる女の子が産まれてくるのですよ”と何度も聞かされ、そして男が産まれる度にひどく落胆したものだ」


「まあ……」


国王陛下と王妃様は9歳差って言ってたな。

そんなに長い間、もうすぐもうすぐって言われて待ってるなんて、子どもには辛いことだったに違いない。


「お前が産まれたときには本当に嬉しくて嬉しくて……。初めて会ったときには、お前のあまりの愛らしさに、辛抱強く待っていた自分の元に天使が舞い降りてくれたのだと感動したことを憶えている」


「ふふっ、大袈裟ですわ」


王妃様が微笑んだことに勇気付けられたように、国王陛下は言葉を続けた。


「クラウディアという名前は、私が名付けたのだ」


「ええ……。陛下が名を授けてくださったことは聞いておりました」


「グラツィアーノとクラウディア。似合いの名だろう? 生涯お前を愛し、大切にすると誓っていたのに……。お前をひどく傷つけてしまったな……」


「……そういえば、わたくしが幼い頃は、よく遊んでくださいましたわね……。とても可愛がっていただいたことを思い出しましたわ」


王妃様は昔を懐かしむような遠い目をした。


「クラウディア。どうか、私に償いをする機会を与えてはくれないだろうか? 私がお前を愛しているということを、証明させてほしい」


国王陛下は身を乗り出すと、王妃様の手を取って懇願した。


「陛下……」




コンコン、ガチャリ!


「大変お待たせいたしました。お茶のお代わりをお持ちいたしました」


甘い雰囲気をぶち壊すように、王妃様ご所望のチャイ風紅茶をトレイに載せた侍女がやってきた。

それと同時にクリス様に右手を引かれ、私たちは扉が閉ざされる前に王妃様の部屋を抜け出すことに成功した。


た、助かった……!

やっと帰れるよ!


「ふうー、やれやれ。両親のあんな場面を見せられるというのも辟易するな」


こっちのセリフだよ!

無理やり連れて行かれてあんなの見せられた上に、文句まで言われちゃたまらないからね!


「わざわざ見に行ったくせにっ」


「何か言ったか? はー、疲れたな。もう帰るか」


私も帰りたいけど、アントニーノ王子のことや国王陛下との昼食はいいのかな?


「帰れるんですか?」


「父上はあの様子だと母上と2人で食事を取るんじゃないか? トニーのところに少しだけ顔を出してさっさと帰ろう。……両親が仲直りして嬉しいような、胸焼けがするような、複雑な気持ちだよ」


胸焼けって!

本当は、胸が一杯って言いたいのかもしれないね。

素直じゃないんだから。


「ふふっ、そうですね。アントニーノ王子と少し遊んで帰りましょうか」


大人はともかく、小さな子どもとの約束を破るわけにはいかないしね。

そして私はクリス様の背をさすりながら、2人並んでアントニーノ王子の元へと向かった。






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