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第124話 尾行と不法侵入


国王陛下には想定外の話題だったようで、パチパチとせわしなく紫色の目を瞬かせている。


「クラウディアのことで? お前がそんなことを言うなんて、珍しいこともあるものだ。いったい何の話が?」


「はい。私も今日になって初めて知ったのですが、父上と母上の間には、どうも誤解があるようなのです。そして、そのせいで母上は長い間苦しみの中にいるのです」


クリス様は国王陛下の目をまっすぐに見つめて、静かに言った。


「誤解が……? クラウディアは何を誤解しているのだ?」


「父上が側妃を娶ることになった経緯についてです。母上は、アドリアーノ兄上が産まれるまで、誰からも何も聞かされていなかったと言っていました。父上も何も説明をしていないそうですね?」


「そのことか……」


国王陛下は一言だけ呟くと、ふーっと息を吐いて悔やむように目を閉じた。


「なぜ話して差し上げないのですか? 母上は、父上のお気持ちは側妃にあり、自分は捨て置かれていると感じているのです」


「……ッ! そうではない! 私はクラウディアを捨て置いてなどいないぞ!」


国王陛下は声を荒げて否定した。


私たちに向かってそんなに必死になって否定するくらいなら、なんで本人にそう言ってあげないの?

言うべき相手を間違えるから誤解を生むことになるんだよ、まったく!


「ではなぜ、説明もせず放っておくのですか?」


「それは……、言わずに済むなら言いたくなかった。あんな手に引っ掛かった自分が情けなくもあり、手段が手段だけにクラウディアに説明しにくかったのだ……。それに、側妃……アルビーナが実父にどんな目に合わされたのか、出来れば秘密にしておいてやりたかったということもある」


あんな手ってどんな手?

気になります!


それに、インテンソ伯爵は実の娘に何をしたんだろうか?

そっちも気になるな。


「父上。この際だからはっきり言わせていただきますが、父上のその自分勝手な考えのせいで、母上はずっと苦しんでいるのです。たとえ望んでいたことではなかったにしろ、結果的に裏切ることになってしまったのであれば、せめて誠心誠意説明するべきだったのではないでしょうか?」


「……」


クリス様のド正論に追い詰められ、国王陛下はガクリとうなだれてしまった。


まあ、反論のしようがないでしょうね。

少なくとも、王妃様に対して酷いことをしたという自覚はあるようで、そこだけは救いだ。


「父上」


「……そうだな。私には説明する義務がある。クラウディアと話し合うことにするよ。男らしく腹をくくるとしよう」


ああ、よかった!

これできっと王妃様の気持ちも救われる。


「母上は自室におられますよ」


クリス様はニコリと笑って促した。

国王陛下はクリス様の言葉にビクッと肩を揺らすと、恐る恐る尋ねた。


「まさか、今すぐに行けというのか?」


「少しでも早いほうがいいでしょう。既に26年以上待たせているのですから」


そうそう、すぐに行ってください!

私はクリス様の背後から顔を覗かせウンウンと頷き、国王陛下にプレッシャーを送った。


「……わかったよ。ではお前たち、昼食のときにまた会おう」


国王陛下は苦笑いを浮かべてそう言うと、すっと立ち上がって執務室を後にした。





「行ったな」


「そうですね」


「よし、俺たちもミエナインを着て後をつけるぞ。お前、今度こそ絶対にしゃべるなよ!?」


ええッ!

ま、まさか、国王陛下と王妃様の会話を盗み聞きする気ですかッ!?


「ク、クリス様……。恐ろしいことを考えているんじゃないですよね?」


「そんなことは考えていない」


な、なんだ。

私の勘違いか、びっくりしたな。


「はーっ、クラウディア様の部屋に忍び込むつもりかと思っちゃいましたよ!」


「それは考えている。別に恐ろしいことじゃないだろ。さあ、行くぞ!」


「ええっ! 止めてください!」


私はクリス様の腕を引っ張って引きとめようと試みた。


「なんだよ。お前、父上がどんな罠にかけられたのか気にならないのか? 俺もいつか同じ罠を仕掛けられるかもしれないんだぞ? そのとき手口を知っていれば、引っ掛からないように気を付けられるじゃないか。お前だって母上のような目に遭いたくはないだろう?」


「そ、それはそうですけど……、でも、いいのでしょうか……」


盗み聞きする相手が大物過ぎて腰が引けるよ!


「いいんだよ。早くしろ!」


ひええええ!

まったくもう……、おこりんぼで知りたがりなところは子どもの頃からちっとも変わらないんだから。


そんなに気になるなら、クリス様1人で聞いてきて、あとで私に教えてくれればいいのにさ。

私はしぶしぶポケットに入れておいたアイテム袋からミエナインを取り出した。


「ううー!」


「しっ、静かに! この部屋を出たらしゃべるなよ」


クリス様は音を立てないようにそっと扉を開けた。


顔だけ出して外の様子を窺うと、両端に立っていた護衛騎士たちは国王陛下に付いて行ったようで、外には誰もいない。

遠くに護衛騎士を引き連れた国王陛下の背中が見えた。


「追いつかないと母上の部屋に入れなくなる。急ぐぞ!」


「は、はいっ」


私には、クリス様に手を引かれながら、もたもたと後を付いていく選択肢しか残されていないようです……。





国王陛下とかなり距離が出来てしまったため、追いつけないかと思いきや、私たちは無事に追いつくことが出来た。

なぜなら……。


国王陛下が、王妃様の部屋の前で何事かを葛藤しているからです!

意を決したようにスッと手を上げてノックをしようとしたかと思えば、首を横に振って手を下ろす。


そしてまた手を上げるという動作を繰り返している。

いつまでやる気かな?


ーーガチャリ!


「マルチェリーナはまだ戻って……、へ、陛下?」


国王陛下の一挙手一投足を固唾を飲んで見守っていたところへ、いきなり内側から扉が開け放たれた。

どうやら、私の帰りが遅いことを心配した王妃様が、護衛騎士に尋ねるために扉を開けたようだ。


「ク、クラウディア……。少し、話を、したい」


驚いて一瞬あたふたした国王陛下だったけど、すぐに気を取り直して表情を取り繕った。

王妃様のほうは、私が国王陛下の元へ向かった時からこうなることを予想していたのか、不意の来訪に取り乱す様子は伺えなかった。


「陛下……。かしこまりました。どうぞ中へお入りくださいませ」


国王陛下!

がんばって説明してください!


私は心の中でエールを送った。

そのまま見送りたかったけど、ぐいぐい手を引っ張るクリス様に連行され、私も王妃様の部屋の扉が閉ざされる前にするりと体を滑り込ませる。


……ほんとにこんなこと大丈夫なの?

私、話し合いが終わるまで黙っていられるかな?





「クラウディア……。今から昔の話をするが、お前にとって気分のいい話ではないだろう。……それでも、聞いてくれるか?」


かなり話しにくいようで、国王陛下の歯切れは悪い。


「ええ……。わたくしは、真実を知り、そしてそれを乗り越えたいと……、願っているのです」


「そうか……」


王妃様の決意を聞いた国王陛下は、覚悟を決めたように語り始めた。


「ーーあれは、私が魔法学院を卒業する直前のことだった。私は閨事について学んでおくべき年頃になり、周囲からもいろいろ聞かされていたが、一方で、父上からは立場を考えて迂闊なことをするなと釘を刺されてもいた。厄介ごとに巻き込まれないように、自分がしかるべき相手を用意するからと……」


王妃様は話の先を促すように、コクリと頷いた。


あの……、こんな話聞いていいの……?

もう帰りたい……。


「しばらくして、仮面舞踏会に出席した夜、私に耳打ちする者がいた。”さる高貴なお方よりご伝言です。別室に女性をご用意したとのことです”と……。私は、それを父上の手配だと思い込んだ」


ぎゃー、これ以上聞きたくないッ!

お願いです、生々しい話は割愛してくださいっ!






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