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第123話 国王陛下の執務室で


それより、案内図もない王宮で道に迷って絶望していたけど、思いがけずクリス様が現れてくれて大助かりだ。


「クリス様! 私、国王陛下にお会いしたいんです!」


ついでに国王陛下のところへ連れて行ってください!


「ああ、そんなことを言っていたな。お前、前もって約束もせずに一国の王の元へ押しかけるなよ」


「そこでクリス様が華麗に活躍するんですよ! 血を分けた実の息子が会いに来てるんですから、国王陛下がいくらお忙しいとはいっても、少しくらいは時間を作ってくれると思います。ーー私、クラウディア様をお助けしたいんです!」


私はクリス様にぐいぐいと詰め寄った。


「わかった、わかった。わかったからそんなに押すなよ。……それにしても、母上があんな風に思っていたとは知らなかったな。てっきり母上には疎まれているとばかり思っていたが、俺を見ることで父上を思い出して苦しんでいたとは考えもしなかった……」


「クラウディア様はクリス様のことを疎んでなんかいませんよ! ちゃんと子どもへの愛情はたっぷりあります!」


私はクリス様の腕を掴んだ手に力を込めて全力で訴えた。

王妃様も気の毒だけど、母親に疎まれていると誤解していたんじゃクリス様もかわいそうだもん!


「痛いって。それにしても、父上もえげつない仕打ちをするよな」


「ほんとですよ! 国王陛下にはきっちり謝っていただきましょう!」


諸悪の根源である国王陛下にはちゃんと落とし前つけてもらわないとね。


「お前……、俺が話すからお前は口を開くなよ? 間違っても父上に”謝ってください!”なんていうんじゃないぞ? 誰かに聞かれたら冗談では済まないからな?」


それくらい分かってます!


国王陛下に向かって直接そんなこと言うわけないでしょ。

本音は何重にもオブラートに包みますからご心配なく!


でもさあ、交渉役はクリス様に任せてもいいけど、男の人っていまいち共感性に欠ける気がするよね。

ちゃんと国王陛下の心に響くように説明してくれるのか心配だよ……。


「ちゃんとお話してくださいね? 側妃様を召し上げることになった経緯や国王陛下のお気持ちを、クラウディア様にきちんと説明していただきたいんです」


「わかってるって。精一杯言葉を尽くすつもりだから心配するなよ。俺だって父上と母上には仲良くなってもらいたいと思っているしな」


そうだよね、クリス様だって両親が仲直りしたら嬉しいに決まってる。


うん。

ここはクリス様を信じて任せよう!


「はい! 一緒にがんばりましょう!」


「お前は失言しないようにがんばれ」


ひどい言いがかりだ!


いったい私がいつ失言したっていうんだろう?

私これでも弁は立つほうだと思うんだけど!


「私の記憶にある限り、産まれてこのかた失言なんてしたことがありません!」


「記憶にないだけだろ。お前はすぐに忘れるからな」


ええー、そうかなあ?

ほんとに言ってないと思うけどな。


「たとえば、学院の廊下でアルフォンソと二人きりで旅に出る話をしたり、母上が内緒にするようにと言ったことをすぐにバラしたのも失言だろう?」


私が納得できずに首を捻っていたせいか、クリス様はスラスラと過去の例をあげてくれた。


えー、そういうのも失言のうちだったの?


判定が厳しすぎるんじゃないかな。

命に関わる失言じゃなければ、ただの言い間違いってことでノーカウントでいいと思うな。


「わかりましたよ。私は国王陛下の前では口を閉ざしておきます」


「そうしろ。じゃあ、父上のところへ行くか。ーーこっちだぞ」


クリス様はそう言ってクルリと方向転換した。


えっ、そっちなの!?

私が歩いていた方向とは、まったくもって逆方向だったことが判明した瞬間です……。





そして私たちは、王妃様の部屋の前をまた通って国王陛下の執務室へと向かった。


王妃様の部屋の前に戻っていた護衛騎士たち、なにやってんだって言いたげな顔して私を見てたよね。

ちょっと恥ずかしかったよ……。


「着いたぞ。あそこの、護衛が立っている部屋が父上の執務室だ」


「へえー、あそこですかー」


王妃様の部屋があった辺りとは違って、こっちはちょっと殺風景だな。

廊下に来客を待たせるための椅子がところどころに置かれているくらいで、絵画や花などの飾りは何もない。


私たちが国王陛下の執務室に近づくと、クリス様の顔に気付いた護衛騎士たちが揃って敬礼をした。


「父上に話がある。取り次いでもらいたい」


「はっ、しばらくお待ちくださいませ」


クリス様に話しかけられた護衛騎士は、早速ノックをして執務室の中へと消えていった。


「国王陛下はお忙しいでしょうか」


たぶん今はお仕事中だよね。


「そりゃ忙しいに決まってるだろ」


「会っていただけるといいですね」


「そうだな」


でも、可愛い息子がここまで来てるんだからきっと会ってくれる筈だ。

どうしても今は無理ということなら、昼食の時間を狙って出直してもいい。


話が出来るまで私は諦めないよ!



「お待たせ致しました。お会いになられるそうですので、どうぞ中へ」


すぐに戻ってきた護衛騎士は、私たちを中へと招き入れてくれた。


「ありがとうございます! よかったですね、クリス様」


「ああ」


続き部屋の奥にある国王陛下の執務室へと通されると、大きな机に山のように積み上げられた書類にサインをしていた国王陛下が顔をあげた。

国王陛下のすぐ傍には、どうやらサイン待ちをしているらしい宰相も一緒にいる。


「お前が私を訪ねて来るのは初めてだな、クリスティアーノ。せっかくだから昼食を共にどうだ?」


「はい。ありがとうございます。仕事中に邪魔をしてしまい申し訳ありません」


「なに、滅多にないことなのだ。気にすることはない。マルチェリーナも相変わらず元気そうだな? 今日は二人揃ってどうしたのだ?」


用件を尋ねられた今が切り出すチャンスだ!


「お久しぶりでございます、国王陛下。実は、あやまっーー、モガモガモガッ」


もうっ、なに!?

クリス様、急に口をふさがないでください!


「あやま?」


変なところで言葉が途切れたせいで、国王陛下が首を傾げている。


「……お前、父上の前では黙ってるって言っただろ!」


クリス様は小声で私をたしなめた。


はっ、そうでした!

すっかり忘れてたわ。


私がコクコクと頷くと、クリス様はぱっと手を離してくれた。


「ゴホン。”ああ、山に帰りたい!”と。チェリーナは最近口癖のように言っているのです。生まれ育ったプリマヴェーラ辺境伯領が恋しいのでしょう」


なにそれ、どこのアルプスの少女?


その設定、ちょっと無理がないですか?

うちは別に山の中にあるわけじゃないですからね。


こんな言い訳で誤魔化される人なんていないと思うけど。


「そうか。王都とプリマヴェーラ辺境伯領では、いろいろ違いも大きいのだろう。故郷が懐かしくなるのも無理はない」


……ええと、国王陛下ってだいぶ素直というか、結構騙されやすい?

ファビアーノ殿下の性格は、きっと国王陛下に似たんだな。


「そうですね。ーーそれはそうと父上、少し個人的な話があるのですが……」


クリス様はチラリと宰相を見ながらそう言った。


「おお、これは失礼致しました。それでは、私は午後にでも改めて伺いましょう」


宰相は恭しくおじぎをして、改めて出直すと申し出てくれた。


「そうしてくれるか」


「ありがとう、バルトラ侯爵」


「ありがとうございます、宰相様」


宰相にお礼を言って退出するのを見届けると、クリス様は国王陛下の方に向き直って単刀直入に用件を切り出した。



「ーー実は、母上のことでお話したいことがあるのです」






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