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第121話 王妃様の胸の内


えっ、許したのねって!?

いきなりなんの話ですかっ?


王妃様が唐突に言った言葉が全く理解できない。


ええーっ、私が許す方なの?

許される方なら数え切れないほど心当たりがあるけど、許す方なんてまったく心当たりがないよ!


でもさすがに王妃様に向かって、「なんのことですかー?」なんて聞くわけにはいかない。

どうしよう、早く何か言わないと……っ!


「えっ、ええ……、はい……」


とりあえず当たり障りのないことを言って、相手から情報を引き出す作戦を展開してみようっ!


「どうしたらそんな気持ちになれるのかしら? あんなに手ひどい裏切りを受けたと言うのに……」


私、裏切られたんですか!?

誰に? 

誰なんだ?


私を裏切ったやつ、名を名乗れー!


「あの……、過去の出来事を恨み続けて相手を許さずにいると、結局は自分も苦しむことになるのではないでしょうか。許しを与えるということは、相手のためばかりではなく、自分が過去から解放されるためでもあるのではないかと……、私はそう思います」


なんについての話かわからないけど、もっともらしいことを言ってみる。

インチキ占い師になった気分だよ……。


「……苦しみ……。苦しいわ、いまでも……」


ふぁっ!?

私の話だった筈が、王妃様の話にすり変わった?


ダラダラダラ……。

ますます話が見えなくなって、変な汗が止まらない……ッ!


「ク、クラウディア様、どうか1人で苦しまないでください。誰かに胸の内を話すことで、気持ちが楽になることもあります」


「マルチェリーナ、あなたは優しい子ね……。あんなことをしたクリスティアーノの母であるわたくしにまで優しくしてくれるなんて」


おおっ、ついにヒントが出ました!

私を手ひどく裏切ったのはクリス様のようです!


「そんなこと……」


「いいえ、優しいわよ。ちょっと優しすぎるのではないかと心配になるほどだわ。”どうか俺を許し、国に戻ってきてほしい”だなんて、都合が良過ぎるわよ。謝罪もそこそこに自分の要求を通そうだなんて、いったいどういうつもりかしらと問い詰めたいくらいだわ! あの恐ろしい地下牢に閉じ込めたことさえ謝っていないじゃないの!」


……う、うん?

その話、どこかで聞いた覚えがあるな。

つい最近まで割とその話にかかりきりだった気がするよ。


って、全部映画の、『運命の輪』の中の設定じゃないですかッ!

許すも許さないも、クリス様は裏切ってないし、私も裏切られてませんから!


どうしよう?

あれは映画の中の設定ですよって言うべきか、それとも王妃様の勘違いを放置すべきか……。


ちょっとシミュレーションしてみよう。


『嫌ですわ、クラウディア様。あれは物語ですのよ、本当にあった話ではございませんわ。ホホホホホ』


『あ、あら。そうなの……』


……ダメだよ!

これじゃ王妃様が話を続けられないじゃない。


わざわざ私1人を王宮に呼んで、人払いしてまで話したかったことがあるに違いないのに。

とりあえず今は王妃様に話を合わせて様子を見るしかない。


「クラウディア様は、創立記念パーティにお越しになられたのですか? ご挨拶もせずに失礼いたしました」


「わたくしも魔法学院の卒業生ですもの。ぜひ出席したいとは思っていたのだけれど、あちらの方がご一緒かもしれないと思って、わたくしは変装していたのよ。……陛下とあちらの方は、魔法学院の同級生だったの」


あちらの方って、やっぱり側妃様のことなんだろうな……。

王妃様としては、出来るだけ会いたくない相手だよね。


「そうだったのですか」


「あなたとクリスティアーノはとても仲がいいのね。よく手をつないでいたものね」


そうだっけ?

ああ、舞台にあがるときなんかにクリス様の手を引っ張って行ったかもしれない。

恋人同士が手をつなぐような、甘い雰囲気ではなかったと思うけど。


「クラウディア様に見られていたなんて、恥ずかしいです」


「ふふっ、恥ずかしがることはないわ。ーー仲が良くて羨ましかったくらいよ」


王妃様は、もしかして国王陛下と仲直りしたいのかな……?


さっきは、今でも苦しいと言っていた。

国王陛下の裏切りを許したくても許せなくて、ずっと苦しみ続けているのかもしれない……。


「クラウディア様は、心の中では、許すことが出来たらと願っていらっしゃるのですね」


「……そうなのかもしれないわ」


王妃様は悲し気に目を伏せた。


国王陛下はちゃんと王妃様に側妃を娶ることになった経緯を説明して、王妃様が納得するまで謝罪するなり説得するなりしたのかな?


「側妃様のことについて、国王陛下と話し合いはされたのでしょうか? その時の対応に納得できなかったということはありませんか?」


「……っ! あなたは、わたくしの気持ちをわかってくれるの……?」


王妃様は声を詰まらせながらそう言うと、うっすらと浮かんだ涙をこらえるように目を閉じた。

そして大きく息を吐いてから、王妃様は再び私を見て話し始めた。


「陛下とわたくしは、9歳の年の差があるの。陛下が側妃を娶られた時は、わたくしはまだ9歳だったわ。周りの雰囲気がなんとなくおかしいことには気付いていたけれど、わたくしはそのことを何も聞かされていなかった……。ある日、母に連れられて王宮を訪ねた時に、見知らぬ貴族の男性が近づいて来てこう言ったの。”私の娘が産んだ王太子殿下のお子様は男の子でしたよ”と……。わたくしが側妃の存在を知ったのは、その後のことよ……」


ええっ!

国王陛下と話し合うどころか、子どもが産まれるまで誰も何も教えてくれなかったの?

ちょっといくらなんでも酷すぎないかな!


「そんな……! 国王陛下はなんの説明もなさらなかったのですか?」


「説明と言えるのかしら……。次の日に私の元を訪れた陛下は、”すまない。幼いクラウディアにはとても話せなかった”とだけおっしゃったわ。そう言ったきりずっと黙って……、そのままお帰りになられたわ」


はあっ!?

とんでもないな!


私がその状況になったら、無傷で帰らせるなんて絶対にさせない!

渾身の急所蹴りをお見舞いして、地獄を見せてやってから婚約破棄を言い渡すわ!


「ひどい! 王妃様のご両親は何もおっしゃらなかったのですか?」


うちのお父様なら、クリス様がよその女と子どもを作ったなんて聞いた日には、何が何でも婚約破棄させるに決まってる!

他の人と結婚した方が確実に幸せになれるもん。


「……政略結婚ですもの。わたくしは女性に産まれた瞬間から、王家へ嫁ぐことが決まっていたのよ。もし兄たちが女性に産まれていたら、兄たちの誰かが嫁いだでしょうね。両親から王家に対して何かを言うことはなかったわ。わたくしの父は、側妃の1人や2人は黙って受け入れるのも正妃の勤めだと言っていたわね。母は、父が決めたことに従うだけの人だったから……、何も……」


あまりのことに唖然としてしまう……。


アドリアーノ殿下が産まれたことを聞いた時って、王妃様は10歳になっていたんだろうか。

そんな年で、味方になってくれる人が誰もいないなんて。


かわいそうすぎて、泣けてくるよ……っ。


「ううっ、ひどい! ひどすぎます……!」


「……わたくしのために涙を流してくれるのね。優しい子……」


王妃様の目にもこぼれ落ちそうに涙がたまっている。


「いくらその時クラウディア様が幼かったとはいえ、大人になってからでも説明はできた筈です! 国王陛下がきちんと説明して、きちんと謝罪をしないから、クラウディア様がずっと苦しむことになっているのです!」


「そう……、そうかもしれないわ。わたくしは、陛下に説明していただきたかったのかも……」


こらえきれない涙が、王妃様の頬をつーっと流れた。






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