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第119話 驚きの変貌


「さあ、マルチェリーナ嬢、どうぞ中へ」


「はい」


最初に声をかけてくれた騎士さんの手を借りて、私は馬車に乗り込んだ。


窓から外の様子を窺うと、憮然としていた騎士さんが馬上からめっちゃこっちを見てる……。

なんだろう、私に言いたいことでもあるのかな?


「へんなの……」


でも、王妃様から派遣された近衛騎士なんだから身元は確かなんだよね。

考え込んだところで理由が分かるわけでもないし、とりあえず気にしなくていいか。


そして、時々窓から外の景色や挙動不審な騎士さんを眺めているうちに、あっという間に王宮に到着した。





魔法学院と王宮は、実は目と鼻の先にある。


まあ、そりゃ近いよね。

王宮から学院の火事が見えて、すぐに駆けつけられるくらいの距離だもんね。


先導する2人の近衛騎士の後を着いて歩き、5分ほどたったところでやっとクリス様が言っていた回廊に到着した。


と、遠いよ……。

もっと王妃様の部屋に近いところに馬車を止めてほしかったよね。


帰りも送ってもらわないと、1人じゃ確実に道にまよっーーー


「おねえちゃまー!」


ドーン!


油断していたところに、横から思い切り体当たりしてくる小さな物体があった。


「うおっと!」


よろめきながら下を見てみると、満面の笑みでドレスにしがみつくアントニーノ王子がいた。


「うおっと、だってー! うおっと! うおっと!」


えっと。

何がおかしいのかな?

よくわからないけど、アントニーノ王子にはツボだったらしく、何度も同じ言葉を繰り返してよろめくしぐさを真似ている。


「トニー。急に走ったら危ないぞ」


そこへ打合せどおりクリス様がやってきた。


ほんとに来たよ……。

ここでどれくらい待ってたんだろ。


「おねえちゃまとあそびたいー! ぼくがきしで、おねえちゃまがおひめさま、ファビーおじちゃまとクリスおじちゃまはわるものだよ!」


いきなりだな!


「え、ファビーおじちゃま?」


おじちゃまが増えてる?


「ファビーおじちゃまはわるもの! とおー!」


アントニーノ王子はそう言って近衛騎士の1人に斬りかかる真似をした。


「……うっ、やられた」


斬りかかられた近衛騎士は小さくうめき声をあげて胸を押さえた。


あの……、身長差から考えて斬られたのは足じゃない?

それに大根過ぎるから、もっと演技力を磨いてほしいな。


いや、そんなことより。


「ええっ! もしかして、ファビアーノ殿下ですかっ!?」


私が驚いてまじまじと近衛騎士の顔を見ると、確かに紫色の目をしている。

よく見たら顔にも見覚えがあるわ。


クリス様のアホな方のお兄さんじゃないですか!


「……」


「こんなところで何をっ!?」


「何をって仕事に決まってるだろう。これから義兄になる私の顔が分からないとはいったい何事だ。マルチェリーナ嬢を迎えに行く仕事だと聞いたから、わざわざ私が自ら出向いてやったというのに」


あっ、だからさっきから憮然としてたんですね!

失礼致しましたっ!


「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。あまりにご立派になられていらしたので見違えてしまいましたわ。近衛騎士の制服がよくお似合いで、とても素敵です」


「す、素敵。それほどでも……、まあ、あるかな! ハハハハハ!」


照れて高笑いをするファビアーノ殿下の様子からして、どうやら機嫌を直してもらえたようだ。


いやあ、それにしても、アホの子だとばかり思っていたファビアーノ殿下がこんなに立派になるとはねえ。

最初に会ったときはもちろんのこと、王太子殿下の結婚式で会ったときも、まだまだアホの子っぽさが色濃く残っていると思っていたのに。


お世辞を抜きにしてほんとにカッコよくなっててびっくりしたよ。


「兄上。そろそろ10時半になりますが、時間はよろしいのですか? 母上が待っているのでは?」


クリス様から冷静な指摘が入る。

そうだ、これ以上王妃様をお待たせしてはいけない!


「……そうだった。では先を急ごう」


「いやあー! もっとあそぶー!」


アントニーノ王子はドレスを掴んでもっと遊びたいと駄々をこねた。


「トニー。チェリーナは、まずは母上への挨拶を済ませないといけないんだよ。あとで遊んでもらおうな?」


クリス様はそういうと、アントニーノ王子を抱き上げて私から引き離そうと試みた。


「いやーーー!」


クリス様に抱き上げられたアントニーノ王子は、それでもドレスから手を離さない。

あの……、手を離してくれないおかげで、私のドレスがめくれてペチコートが丸見えなんですけど……。


しかたがない。

こうなったら奥の手だ。


「こちょこちょこちょ! ドレスを離さない悪い子はくすぐっちゃいますよー?」


私は手をワキワキさせてアントニーノ王子の脇の下をくすぐった。


「きゃあああ! くしゅぐったいー! きゃあー!」


大喜びのアントニーノ王子はパッと手を離した。


「クリス様! 今のうちです!」


「ああ。じゃ、あとでな!」


クリス様はそういうと、アントニーノ王子を片手に抱いて、もう片方の手でおなかをくすぐりながら足早に去っていった。


ふうー、まるで小さな台風だ。

私のドレスがシワッシワなんだけど……。


スカート部分をパパッとはらってみたけど、シワは伸びそうもない。


「着替えるか? 私の母上にドレスを貸してもらえるように頼んでやろう」


え、それはちょっと……。

これから王妃様にお会いするのに、側妃様のドレスを借りて着ていくなんて……!


どんな度胸!?

あいにく私は、そんな度胸の持ち合わせはございません。


「ご親切にありがとうございます。ですが、これ以上王妃様をお待たせするわけには参りませんわ」


「……そうか。では先へ進もう。それにしても、マルチェリーナ嬢はずいぶん外面を取り繕うのが上手くなったなあ。さっきの、トニーと遊んでたときのほうが素なんだろう?」


ファビアーノ殿下は先導せず、私の隣を歩きながらニヤニヤと笑っている。


「そんな、取り繕っているわけではありませんわ! 私も大人になったということです。そういうファビアーノ殿下も見た目は大人になりましたけど、中身は初めて会った頃と変わっていないのではないでしょうか?」


「はは、そうかもしれないな。子どもが産まれれば精神的にも大人になるんだろうがな」


「あらっ、お子様が産まれるご予定が?」


結婚式に呼ばれてないし、たしかまだ独身だった筈だけど。

まさかのデキ婚ですかっ?


「いや、結婚が先だろ。私はもうすぐ近衛連隊長に昇進する予定だから、それを待って結婚するつもりなんだ」


「まあ! ファビアーノ殿下が近衛連隊長に!」


大丈夫なのっ!?


「……いま、”この人に任せて大丈夫なの?”と思っただろう」


「いえ、そんなこと! ーー大丈夫なんですか?」


「やっぱりな!」


ファビアーノ殿下はくくくと笑い声をもらした。


「だって、ファビアーノ殿下はまだ24歳でいらっしゃいますよね? 隊長という階級には、もっとお年を召した方がなられるのかと思っていました」


「まあ、普通は実績を積んでから隊長になるから年も取るだろうな。私の場合は、身も蓋もない言い方をすれば王族特典だよ。爵位を賜って領地に引っ込むよりも、兄上の傍で兄上をお支えしたいと申し出たら、領地の代わりにこの地位を与えられることになったんだ。それに私の婚約者は跡取り娘だから、領地をもらっても困るしな」


なるほど!

大好きなおにいちゃんを守るための近衛連隊長ですか!


重度のブラコンは変わってないんだなあ。


「ファビアーノ殿下の婚約者は、たしかディリジェンテ侯爵家のご令嬢でいらっしゃいましたね?」


「そうだ。私はディリジェンテ侯爵家に婿入りすることになる。私の婚約者は魔法学院を首席で卒業するほどの才女でな。いまは財務大臣の下で仕事をしているんだ」


ええっ、まさかのキャリアウーマン!

ファビアーノ殿下がそういう女の人を結婚相手に選ぶとは意外だったな。


いやでも、そういうしっかり手綱を握ってくれそうな人がちょうどいいのかもしれないね。

取り返しのつかないアホなことをやらかす前に、ビシビシ鞭をふるって調教してもらえるもんね。


うん、ベストカップルだ。



「お話中失礼いたします。王妃様のお部屋に到着いたしました」






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