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第118話 迎えの騎士


「まあ、それはそれだ。今は黒馬車連続殺人事件の話だろ。誤魔化すなよな」


どっちが誤魔化してるんだか!


「誤魔化すわけではありませんが、詳しい話は私も聞いていないんです。アルフォンソが教えてくれなくて」


少しくらいヒントをくれてもいいのにね。


「そうか。アルフォンソは賢明だな。お前に秘密を漏らすべきじゃないと分かってるじゃないか」


「ひどい!」


クリス様が紛らわしい聞き方しなければ、私だって黙っていられたよ!


「しかし、2人だけで殺人事件の捜査をするなんて……、いや、まだ殺人とは決まっていないんだったか?」


こういう話はたいてい殺人が絡むと相場が決まってるから、もう殺人事件扱いでいいと思うな。


「ラヴィエータの反応からして、ラヴィエータの知り合いがすでに殺されているんじゃないでしょうか? ですからこれは、殺人事件の捜査で合ってますよ!」


「そうだな、次は自分が殺されると思っていそうな感じだったよな。実際に轢き殺されかけたわけだし」


クリス様はそう言って考え込むように腕を組んだ。


「ラヴィエータを殺そうとするなんて、一体誰なんでしょうね? あんなにいい子なのに……」


「犯人にとってラヴィエータがどんな人物かは関係ないんだろう。恨みがあるか、金が目当てかじゃないか?」


おおっ、クリス様が名探偵の助手らしくなってきた!

そうだよ、殺人事件はだいたい怨恨もしくは金銭トラブルのどっちかで間違いない!


「ええ、私もそう思います!」


「ラヴィエータは、兄弟はいるのかな? もしラヴィエータがエベラ男爵家の跡継ぎということなら、跡目を狙った親族の犯行という線も考えられる。ラヴィエータは控えめな性格だし、誰かの恨みを買うよりも財産目当ての方がありそうな話だよな」


すごい説得力ある!

すでに跡目争いに巻き込まれた経験者は語るってやつですね。


でも、もう一捻りほしいかなあ。

そのストーリーじゃ2時間ドラマ1本は厳しいと思います。


「兄弟がいるかは分からないですね。あまりラヴィエータの個人的な話は聞いたことがなかったです」


「いつもお前が一方的に延々としゃべってるもんな?」


クリス様はからかうように、にやりと口の端をあげた。


「むう! 一方的じゃありません! ちゃんと会話をしています! 今だってクリス様と会話してるじゃないですか」


「俺は長い時間をかけてお前の話に口を挟むタイミングを会得したんだ。お前もチェレスも、いや、お前の家族はみんな賑やかでよくしゃべるよ。ラヴィエータはまだ慣れてないから、どうしても聞き役に回ってしまうんだろう」


私の家族ってそんなによくしゃべるの?

普通だと思っていたけど。


きっとお兄様のおしゃべりが長いからそういう風に思われてしまうんだな。

ひどい風評被害だ。


「それはそうと、クリス様。明日のことで何かお話があったんじゃないですか?」


「ああ、そうだったな。ちょっと打合せをしておこうと思って」


打合せもなにも……。

私は王妃様に招待されてるんで、王宮に着いたら案内の人が付きっ切りで1人になんてなれないよ?


「変なことさせないでくださいね」


「変なことなんてさせるわけがないだろう。明日、俺はお前より先に王宮に行ってるから。それで、トニーと中庭で遊んでいるときに、偶然お前が中庭に面した回廊を歩いて来るんだよ。母上の部屋に行くには必ず通る回廊だからな。そこでトニーがお前を見つけてお前と遊びたいって騒いだら、お前を迎えに母上の部屋に行くしかなくなるだろ?」


なにその練りに練った計画。


わざわざ私が通りそうなところで待ち伏せですか。

幼いアントニーノ王子まで使うなんて、その手口にドン引きだよ。


「はあ。……えーと、なんで私と王妃様の2人じゃダメなんでしたっけ?」


「お前1人のときに、重大な決断を迫られたら困るからだ。例えば、王子の妻として相応しくないとかなんとか言われて、婚約を辞退するように強要されたらどうするんだよ」


ええー、いきなりそんなこと言わないと思うけどな。

以前王妃様にお会いしたときは、何も嫌なことされなかったし。


「考えすぎじゃないでしょうか。王妃様はそんなこと言わないと思います」


「だったらなんでお前と2人だけで会う必要があるんだよ? 俺が一緒じゃ駄目だなんて、なにか嫌な話をするつもりに違いない」


うーん、まあねえ。

そこは不思議だよねえ。


「嫌な話とは限りませんよ? 女同士の話があるのかもしれません。例えば最近流行のお菓子とか」


「お菓子の話なら俺を抜くことないだろう!」


駄々っ子ですか。


「ドレスの話かもしれません」


「お前とドレスの話なんかするかよ。お前は動きやすさ重視、母上は豪華さ重視で共通点が一切ないだろ」


ああ、そう……。

確かに私にドレスの話を振られても困るけど。

ちなみに私は、動きやすさだけじゃなくて、汚れの落としやすさも重視してますからね!


「なんの用事かわかりませんが、心配する必要はないと思いますよ? もし婚約を辞退するように言われても、その場で即答しないように気をつけます」


「……そうしろ」


「はい」


まだ完全に納得したわけではなさそうだったけど、夕食の時間になったので私はクリス様の腕を引っ張って食堂へと向かうことにした。


納得するまで話し合ってたら夕食を食べ損ねちゃうからね!





そして日が変わり、朝食を済ませた私は自室で1人ファッションショーを開催していた。


「困ったなあー」


手持ちのドレスを片っ端から試着してみたものの、王妃様に会うのに相応しい服がないことに今更ながら気付く。

ベッドの上に広げたドレスは、私の中ではよそいきだけど、どれもシンプルで飾り気がない。


「王宮で見たら、完全に普段着に見えるよね」


アドリアーノ殿下の結婚式に参列したときは、金糸の刺繍が入った豪華なドレスを新調してもらったよなあ。


でも、結婚式でもないのに、王宮に行くたびにドレスを新調するなんてやりすぎだし……。

それにまだ学生の身で、あまり豪華なドレスでもおかしい気もする。


「うーん、爽やかなペパーミント色のドレスにするか、明るいレモンイエローのドレスにするか。いやー、でもなー、レモンイエローだと虫にたかられるかもしれないなー」


まあいいか。

王妃様はインドア派だろうから、たぶん虫の心配は不要だ。


よしっ、今日は黄色の気分だから黄色にしよう!


赤い髪に黄色のドレスじゃ、王妃様の目がチカチカするかもしれないけど!

そこは気にしない方針だ。


トントン。


きっと寮母さんだ!

うわあ、早く着ないとっ!


「はーい!」


私は返事をしながら大急ぎでドレスを着て、ぱぱっと髪型を整えた。

そして扉を開けると、思ったとおり寮母さんが立っていた。


「マルチェリーナさん、王宮からお迎えの馬車がいらっしゃいましたよ」


「ありがとうございます!」


私は寮母さんの後について寮の玄関口へと向かった。


「マルチェリーナ・プリマヴェーラ嬢。お迎えにあがりました」


玄関口で待っていた、近衛隊の制服をまとった騎士が私に声をかけてきた。


おおっ、すごい!

私を迎えに来るだけなのに、御者さんだけじゃなくて近衛騎士さんが2人も来たの?


もしかして私、VIP扱い?

いやあ、まいっちゃうな!


豪華な赤い制服の片方の肩にマントをひっかけるように羽織り、帽子を目深にかぶっていて、なんかものすごくカッコイイんですけど!

そのマントの羽織り方、最近の流行なんですか?


「ありがとうございます! 私のためにわざわざ申し訳ありません。今日はよろしくお願いいたします」


私は2人の騎士さんと御者さんの顔を一人ひとり見ながらお礼を言った。


ーーあれ?


3人のうち2人は笑顔を返してくれたけど、1人は無表情だ。

というか、若干憮然としているようにも見える。


えっと……、どうしたのかな?






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