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第110話 宴の後に


パヴァロ君の名前が発表されると、わーっと歓声があがり、パチパチパチと盛大な拍手が鳴った。


「パヴァロ君、こちらへ」


私が近くに立っていたパヴァロ君を手招きすると、パヴァロ君は黒い目を生き生きと輝かせ、大きな体を弾ませるようにしてやって来た。


「マルチェリーナさん、ありがとうございます!」


「いやだわ、パヴァロ君。私ではなく、みなさんが投票してくれた結果よ」


「は、はいっ! みなさま、このような栄誉ある賞をいただけましたこと、心から嬉しく思っております。どうもありがとうございました!」


パヴァロ君は一番後ろの出入り口から、会場全体に届くようなよく通る声で感謝の意を伝えた。

そうだ、忘れずに賞品をあげないとね!


私はポケットから用意しておいた紙を取り出した。


「パヴァロ君には最優秀賞の賞品として、魔女の便利屋”ベンベン”の1回無料ご利用券を差し上げます! パヴァロ君、おめでとう!」


「ええっ、ベンベンのご利用券!? あっ、ありがとうございます!」


えへへ、いいってことよ!


「ベンベンの……?」

「ベンベンは……」

「実在するのか……」


ざわざわざわざわっ…………。


なぜかお客様たちがベンベンに異様に食いついてしまった。

え、そこ、食いつくところなんですか?


「あー、少し補足をさせてもらう。ベンベンは実在しない。したがって、マルチェリーナに仕事を頼むことは不可能だ。どのような立場の者であっても、マルチェリーナに直接何かを頼むことは控えてもらいたい。どうしても話がある場合は、婚約者である私を通すように。以上だ」


クリス様はにらみを利かせながら、ざわつくお客様に補足説明をした。


えーと……、私に話がある人はクリス様を通さないといけないの?

女優と話すにはマネージャーを通すものだからかな?


「チェリーナ……、なんでベンベンの無料ご利用券を賞品にするのさ……。そんなものがあるなら、他の人も欲しがるに決まってるじゃないか。ほんとに考えなしなんだから。賞品のことはパヴァロ君だけに言えばよかったんだよ」


お兄様に小声で叱られてしまった。


な、なるほど、そういう事でしたか……。

私はお金なんて持ってないから安易に魔法で出せる物をと思ってしまったけど、確かにお客様に言う必要はなかったな。




ざわめきが一段落した頃、国王陛下の一行が立ち上がり、出入り口付近にいた私たちの方に向かって歩いて来るのが見えた。


「クリスティアーノ、マルチェリーナ。私たちはそろそろ帰る。いつまでも私たちがいては、他の者が帰れないからな。予定していた時間よりも、ずいぶんと長居をしてしまった」


「父上、馬車までお送りいたします」


クリス様が国王陛下一行のお見送りをするなら、私も行かないといけないだろうな。

そう思ってクリス様の後に付いて行くと、いつの間にかアントニーノ王子が私の足元にいて、私の片手をぐいぐいと引っ張っていた。


「おねえちゃまー、ベンベンはしんじる人はいけるんだよね?」


うっ……、うーん……、何て言おうか……。


「そうだな、トニーが信じていればいつかは行けるよ」


私が返事に困っていると、代わりにクリス様がアントニーノ王子に答えてくれた。


「わあい! ぼく、しんじるもん! おねえちゃま、おうきゅうにあそびにきてくれる?」


「ええ、もちろんですわ」


「クリスおじちゃまもくる?」


ぷぷッ、おじちゃま……!


「……ああ。クリスおにいちゃまも一緒に遊びに行くよ」


「わあいわあい!」


アントニーノ王子は嬉しそうに笑うと、母親であるディアナ妃殿下の元へ走って行った。


「おじちゃま……、ぷぷ」


「なんだよ。お前だって結婚したらトニーのおばちゃまになるんだからな!」


そ、そうだった……。

まだ15歳なのにおばちゃま呼ばわりってあんまりだよ……。


「それじゃあ、二人とも。たまには王宮に顔を出せ」


「はい」


国王陛下の馬車が去って行くのを見送っていると、ぱらぱらと帰る人たちが出入り口から出てくるのが見えた。

手にはみんなお土産の四角い箱を持っている。


「あの……、おねえちゃん……」


「えっ?」


呼びかけられて振り向くと、そこにはお昼前に仕事を頼んだ孤児院の子どもたちがいた。

ごめん、みんなのこと忘れてたっ!


もしかして、私が配り終わったら帰っていいよって言わなかったからずっと待ってたんだろうか。


「みんなずっと待っていたの? ごめんね、もう帰っても大丈夫よ」


「あっ、ううん。そうじゃなくて、おねがいがあって待ってた」


最初に話をした7歳くらいの男の子が、緊張したようにごくんと唾を飲み込んだ。


「どうしたの? 何かあったの?」


「あの……、やたいを……」


「屋台がどうかした?」


「あの……、あの……」


男の子は言いにくそうで、なかなか言葉が続かない。


「……もしかして、あの屋台をこれからも使いたいんじゃないか? あれを見てみろ」


クリス様に言われて、屋台が置いてある方を見てみると、孤児院の年長組と思われる子どもたちが屋台で何かを販売しているのが見えた。


あれは、お茶かスープかな?

鍋からすくった液体をカップに入れてお客さんに渡し、代わりにお金を受け取っている。


「おねえちゃんがくれた食べ物はお金をとってないよ! あれは、こじいんから持ってきたお茶なんだ」


「そうなの」


いやー、たくましいな!

ほんのちょっとの間に商売を考え付くなんて感心しちゃうよ。


「……おこってる?」


「どうして怒るの? 全然怒ってないから心配しないで。そうだわ、あの屋台は孤児院に寄付するわね」


「えっ! いいの?」


男の子はびっくりして目を見開く。


「ふふっ、それをお願いしたかったんでしょう?」


「うっ、うん! おねえちゃん、ありがとう!」


「いいのよ! ノブレスは気前よくするものよ!」


「う? うん……」


クリス様が呆れた顔をしているけど、どうしたのかな?

いいことすると気分爽快だな!

お父様に報告して褒めてもらおうっと!





そして私たちは会場に戻り、お父様とお母様のテーブルへ行っておしゃべりを楽しんでいると、それほど時間が経たないうちに宰相からパーティの終わりの挨拶があった。


時間は4時を少し過ぎた辺りで、もうしばらくすると薄暗くなってくるということもあって、人々は続々と帰って行った。


「それじゃあ、お父様たちも帰るよ」


「今夜は王都の屋敷に泊まるのですか?」


「ああ、たまには王都の屋敷へも顔を出さないと忘れられそうだからな」


お父様を忘れる人なんていないと思うけど。


でも、他の貴族が構える王都の屋敷であれば、1年のうち半分ほど使われるのに対し、うちの屋敷は数年に1度滞在すればいい方なのだ。

お父様の場合はたとえ社交シーズンであっても、領地を離れるわけにはいかないからね。


「お父様もお母様もお元気で……。またすぐに会いに行きます」


「チェリーナ、あまり目立たないようにね……。誰かに無理を言われたら、1人で解決しようとせず、クリスティアーノ殿下にご相談するのよ」


お母様は心配そうに私を見て言った。

やっぱり、今日の劇はちょっとだけ目立ち過ぎだったかな……。

お母様、心配かけてごめんなさい。


「チェリーナは俺が守るのでご心配なく」


「よろしくお願いいたします、クリスティアーノ殿下」


そうしてお父様とお母様は、知り合いの貴族の馬車に同乗して学院を後にした。




「ずいぶんガランとしましたね」


あれほどひしめき合っていた馬車はほとんど帰路について、もう片手で数えられるほどしか残っていない。


「そうだな。ーーんっ!?」


ガラガラガラガラガラッ!


急に馬車が全力疾走する音が響いて来た。


それほど広いとは言えない校庭で馬車を全力疾走させるものなのだろうかと思いながら、慌てて音がする方に顔を向けると、自分に突撃してくる馬車に驚いて立ち竦むラヴィエータの姿が目に飛び込んできた。


早く逃げないと轢かれてしまう!



「危ないッ! ラヴィエータ! 逃げてーーーーっ!」






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