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第109話 結果発表


やっと静かになってくれたガルコス公爵にほっとしたところで、壇上から宰相の声が聞こえてきた。


「投票がお済みのみなさま、お茶のご用意が出来ました。今度は各テーブルに給仕が付きますので、お好きなものをお申し付けください」


もうお茶の時間だ!

ということは、もう3時か。


そろそろ失礼して投票結果を集計しないと!


「クリス様、そろそろーーー」


「せめてッ!」


またかよ!

ガルコス公爵、今度は何ですか?


「チェーザレ。せめて、明日遊びに来てくれ……」


なんだそりゃ!

どんだけお父様を大好きなんだか。


「仕方がないな。明日の午後にはプリマヴェーラに帰るから、午前中に少しだけ顔を出すよ」


……お父様も、そういう甘いところがガルコス公爵を付けあがらせる原因なんじゃないの!?


「そうか! それでは明日ゆっくり話をしよう」


一気に機嫌が上昇したらしいガルコス公爵は、満足げに頷いた。


「……父上、みなさま、それでは私たちはこれで失礼いたします。投票の集計がありますので」


「おお、そうだったな! ーートニーは誰に投票したのだ?」


国王陛下は、膝の上のアントニーノ王子の頭を撫でながら優しく尋ねた。


「ぼくはベンベンー。おかしもらったよ!」


……そうだ、アントニーノ王子にはベンベンと言われたので、私のところに付けるように誘導したんだった。

別にズルじゃないよ……。


ズルしてないけど、さっさと退散しよう。

私たちが国王陛下たちに一礼してその場を立ち去ると、お父様も便乗して一緒に付いてきていた。


「チェリーナ……、やってくれたな」


「えっ、何がですか? お父様、私の演技いかがでしたか?」


「はあ……、こんな大っぴらにお前の魔法を発表するなんて。おかげで一番知られたくなかった人物に知られてしまったじゃないか」


ああ、ガルコス公爵ね……。

あんなめんどくさい人がいるなんて知らなくて……。


「ダメでしたでしょうか……」


「今更言っても遅いがな。ーーところで、クリスティアーノ殿下。さっきの劇の内容は、全て演技なのでしょうか? あの女生徒とは何もないということで間違いはありませんか?」


気が付くと、お父様がクリス様に鋭い目を向けていた。


「言っておくが、あの劇はチェリーナが考えた話だぞ。やましいことなど何一つない」


「……チェリーナを地下牢に閉じ込めたことは? 実際に閉じ込めたのですよね?」


これはまずい。

私の台本のせいで、クリス様がお父様にチクチク責められている……。


「お父様、あのシーンは学院の食堂の地下室で撮影したんですよ! 食料保存室が石造りだったので、一角を借りたんです。鉄格子も私が魔法で出した偽物ですよ」


表から見ると鉄格子に見えたかもしれないけど、実際はハリボテなんですよ。


「そうか……。かわいいお前のあんな姿を見せられて、胸が張り裂けるかと思ったぞ。大体、チェレスはなんで地下牢に閉じ込められる前に助けにいかなかったんだ!」


お父様は今度はお兄様に向かって怒り出す。

そんなに感情移入していただけるなんて光栄ですけど、ぜんぶ演技ですからね?


「お父様、私がああいう演技をしてくださいとお兄様にお願いしたんです。お兄様を怒らないでください」


「ああ……、そうだな。今後もし本当に何かがあったら、必ずお父様に言うんだぞ? お父様は何があってもお前を助けるからな。たった一人で他国へ行こうなんて思うんじゃないぞ」


お父様っ!

やっぱり私のお父様は最高のお父様だ!


「はいっ! 必ず助けてくれると信じています、お父様!」


「チェリーナ!」


私たちがガバリと抱き合うと、クリス様の冷めた声が聞こえてきた。


「みんな見てるぞ。まったく、何の余興だよ。いい加減にしろ」


気が付くと、確かに周りの人たちの注目を浴びている。


「無事に帰ってこられてよかったわね」

「ご家族もさぞ心配していたことでしょう」

「クリスティアーノ殿下といつまでもお幸せに」


……もしかして、みんな現実と映画の中の設定を混同してない……?


遅ればせながら気付いたけど、”この話はフィクションです”と最初に言っておくべきだったのかもしれない。

つい前世の頃の感覚で、わざわざ言わなくても分かるだろうと思ってしまったけど、前世の常識はここの常識ではないのだ。


私はごまかし笑いを浮かべつつ、そそくさとその場を立ち去り出入り口へと向かった。





「みんな! 遅くなってごめんなさい。お土産は足りたかしら?」


宰相からお茶のアナウンスがあったせいか、もうほとんどのお客様は自席へと引き上げていた。


「チェリーナ。お土産は大丈夫よ。話は聞こえなかったけれど、何だか揉めていたようだったわね?」


私たちの様子を見ていたらしいカレンデュラが心配そうに尋ねた。 


「ええ、そうなのよ。ガブリエル様のお父様が……、あらっ? もしかして、クリス様とガブリエル様は親戚ってことかしら?」


父親がいとこ同士の子どもってどういう関係だったっけ。


「俺たちは、はとこに当たる」


はとこか。

見た目は似てないけど、言われてみるとわがまま坊ちゃまぶりが似てると言えば似てる。

遺伝かな。


「そうでしたの。知りませんでした」


「まあ、遠い親戚だからな。知らなくても特に問題はない」


クリス様がどうでもよさそうにそう言うと、ガブリエルが横から口を挟んできた。


「親戚特典で俺に魔法具をくれてもいいんだぞ」


親戚特典!?

ないわ、そんなの!


「ガブリエル様は、お父上によく似ていらっしゃいますね」


「……不本意ながらよく言われる。俺はあそこまで変人ではないと思っているが」


多少変わっていることは自覚があるようだ。

それに、これからの積み重ねで同等の変人になり得るポテンシャルを秘めていることも知っておいてほしいな。


「実はガルコス公爵に、卒業後は王宮魔術師になるようにと勧められてーーー」


「なにっ!? それはいい! さすが父上は見る目がある! 俺も卒業後は王宮魔術師になるのだ。お前は俺の部下になるがいい」


この言い草!

言い回しまでそっくり親子だ!


「いえ、もちろんお断りしましたよ。私は卒業後は結婚しますので」


「…………」


そんな恨みがましい目で見たってダメだよ!


「さあ、みんな! 集計を急ぎましょう!」


さっさと話題を変えるが吉だな。


「もう数えたわ。ここに書いてある数字が投票結果よ」


よく見ると、確かに数字が書いてある。

造花はホワイトボードの表側に付いていて、裏側を利用して集計した数字を書いたようだ。


私は花が付いている方に回り込むと、驚きに目を見開く羽目になった。


「なっ! 何これ!」


も、もしかして、マグネットの力が弱かった!?

ずるずると滑り落ちたのか、花が下に溜まってるじゃないですか!


「……パヴァロ君が圧倒的に支持を集めていたわ。2位はアルフォンソよ」


カレンデュラが気の毒そうに私に投票結果を告げた。

そんなっ、一人二役で頑張った私は……!?


「でも、チェリーナも3位だったわよ。演技した人の中では一番よかったということだわ。おめでとう、チェリーナ」


……なるほど。

アカデミー賞でもいろんな部門があるもんね。


さしずめ、パヴァロ君は歌曲賞、アルフォンソは作品・監督賞、私は主演女優・助演女優賞ってところだな。


「そうね! 受賞者があまり多いと価値が下がってしまうし、今日のところはパヴァロ君に勝ちを譲るわ」


そうと決まれば賞品も用意しないとね!


「……なんで自分が勝ってるけどあえて辞退します、みたいな言い方なんだ。大差で負けてるのに」

「クリス様、それがチェリーナですよ……」


なんか言った?

さあっ、気を取り直してお客様に発表しましょう!


「みなさま! 投票の結果が出ましたのでご報告いたします! 第1回ボロニア映画祭の最優秀賞の栄冠を勝ち取りましたのは、素晴らしい歌曲で盛り上げてくれました、パヴァロ……」


……苗字は何だっけ?


「ロッティ君よ」


カレンデュラがこっそり耳打ちしてくれる。


それだ!

ド忘れしていたけど、言われて思い出した。


「パヴァロ・ロッティ君が最優秀賞でございます! みなさま盛大な拍手をお願いいたします!」







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