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第108話 困った人と小さな救世主


「謹んでお断り申し上げる!」


お父様が間髪入れずに断ったけど、ガルコス公爵ってかなり相当だいぶ変な人じゃない?


この人が父親とは、ガブリエルも苦労するだろうな。

恵まれないガブリエルに、今度からはもう少し優しくしてあげてもいいかもしれないね……。


「なぜだ!」


「娘はクリスティアーノ殿下と婚約していることをお忘れでは」


「婚約? それがどうした。婚約していようと私の部下に迎えることに何の問題がある」


うん、ガルコス公爵は私にプロポーズしたつもりはないようだ。

そこは安心した。


だけど、このおじさんが上司になったら地獄だよ……。


「問題大ありかと。娘の夫となるクリスティアーノ殿下が承知しておられません」


そうだそうだ!

お父様がんばって!


「いまはまだ結婚していない! 父親である貴殿の言うことを聞くべきだろう!」


「言い聞かせるつもりはありませんので」


「おのれ……! チェーザレ、今こそ借りを返せ!」


借り!?

お父様、まさかこの人に借金してるの?


「ガルコス公爵に何かを借りた覚えなどない!」


「お前が放火して王都を焼き尽くそうとしたとき、私の魔法で助けてやったではないか! 忘れたとは言わせぬ!」


……放火って、まさか。


「人聞きの悪い言い方をしないでいただこう! あれは授業中に起こった事故だ! それに、国王陛下の水魔法の方が広範囲に消火していたではないか!」


えっ、国王陛下にまで尽力してもらってたの?

とんでもない……、とんでもないよ、お父様!


「2人とも、子ども達が驚くではないか。チェーザレは放火などしていないぞ。たまたま煙があがっているのが王宮から見えて、野次馬半分で見に行ったのだ。結果的に私たちも手助けすることにはなったがな」


国王陛下が野次馬!?

いや、20年以上前のことだし、当時は王太子だからセーフ……なのか?


一同が驚いている中、国王陛下は困ったように言葉を続けた。


「ーーガリアーノは、気に入った魔法使いを見つけると手に入れたくて仕方がなくなる性質なのだ……。子どもの頃からちっとも変わらない」


「子どもの頃からお知り合いだったのですか?」


それは気の毒に。


「ああ、ガリアーノは私の母方の従兄弟だからな。同い年ということもあって、私たちは兄弟のように育ったのだ」


ええっ、ガルコス公爵は国王陛下の従兄弟なのっ!

なるほど、産まれた時からの付き合いだから、平気で話に割って入ったりするのか。

他の人なら無礼打ちになってもおかしくないもんね……。


「クリスティアーノ殿下、なぜ王都にお住まいにならないのですか? 結婚後はどちらにお住まいになるおつもりで? いっそ王宮に住めば、魔術師塔は目と鼻の先だというのに。いつでも好きな時に立ち寄ることが可能になるのですよ。なんと素晴らしい!」


ガルコス公爵はお父様を説得することを諦めたのか、矛先をクリス様に向けてきた。


いや、寄りたくないから。

誘わないでください。


「……いまはまだ公表できる段階ではないが、結婚後は臣籍降下して、父上から賜った領地に住むつもりだ」


クリス様はもう将来のことを考えているのかぁ。

どの辺りが候補になってるのか、私にも教えてほしいな。


「おお! それならば、王都近くの領地を選べば済む話ですな! それなら何の問題もありますまい!」


「王都の近くには住まない。それは決めている。私が魔法学院を卒業して、マルチェリーナが在学中の2年間だけは王宮に戻るつもりだが、マルチェリーナの卒業と同時に結婚して自分の領地へ向かう。気軽に行き来できる距離ではないとだけ言っておこう」


……なんかこの話っぷりから察するに、クリス様の中では、もうどこに住むか具体的に決めてるんじゃないの?


「いったいどこに……!」


「おじいちゃまー、みてみてー」


ガルコス公爵がなおも言い募ろうとしたとき、どこからかあどけない声が聞こえてきた。


見て見てと、声はすれども姿は見えず……。

どこから聞こえたんだろ?


「あらっ! トニー、いたずらしてはダメよ!」


焦ったような声をあげて席を立ったのは、アドリアーノ王太子殿下の妃となったディアナ妃殿下だ。

トニーって、アドリアーノ殿下の第1王子のアントニーノ王子のことかな?


ディアナ妃殿下の視線の先を見ると、仁王立ちするお父様の足の間から3歳くらいの小さな男の子が手を振っているのが見えた。


あ、投票の時にベンベンに行きたいって言ってた子だ。

髪色が白金じゃなくて普通の金髪だったから、さっきはアドリアーノ殿下のお子様とは気付かなかったな。


「いたずらしてないもん。みてみてー、ぼく、ひとりでくぐれるよ! えいっ!」


きゃあきゃあと楽し気な笑い声をあげながら、お父様の足に掴まってぴょんと飛ぶようにくぐり抜け、そのまま国王陛下の膝にぽすんと抱き着いた。


「す、すまんな、チェーザレ」


「プリマヴェーラ辺境伯、アントニーノが失礼しました」


国王陛下とアドリアーノ殿下は、思いがけないアントニーノ王子の行動に苦笑いだ。


「プリマヴェーラ辺境伯、お話の邪魔をして申し訳ありません。いたずらっ子で手を焼いておりますのよ」


ディアナ妃殿下も続いて謝罪するけど、いたずらっ子っていうほどじゃないよね?


小さい子の目の前にお父様の足があったら、くぐりたくなるのも無理はないと思うな。

空き箱を見せられた猫が、無理やりにでも体をねじ込む習性に通じるものがある。


「ははは、男の子はこれくらい元気な方がいいですよ。それに、アントニーノ王子はいたずらっ子ではないでしょう。……本当のいたずらっ子はこんなものではありませんから……」


お父様、妙に実感がこもってるけど、どこかにいたずらっ子の知り合いでもいるのかな?

誰のことだろう。


「ふふっ。私たちも子どもの頃は、お父様の足に掴まって遊びましたね、クリス様?」


「ああ、そんなこともーー」


「フンッ! 足の長さ位で私に勝ったと思うなよ、チェーザレ!」


私たちが幼い頃の思い出話を披露しようと口を開きかけると、悔し気なガルコス公爵の声が割って入った。

さっきから、ほんと人の話にかぶせてくるよね……。


「足の長さに勝負も何もないだろう……」


お父様は呆れてガルコス公爵を見る。


「私はまだ諦めていないぞ! お前か、お前の娘のどちらでもいい! いやむしろ2人とも私の部下になれば良いではないか!」


んんっ!?

何で急にお父様が選択肢に入ったの?


「はあ……、まだ諦めてなかったのか……」


どういうこと!?


その場にいた人達が首を傾げたことに気付いたのか、膝にアントニーノ王子を乗せた国王陛下が説明してくれた。


「チェーザレは、例の火事の時にガリアーノに目を付けられてしまってな……。不幸にも、魔法学院にいた約3年の間、ずっとガリアーノに王宮魔術師になれと勧誘され続けたのだ」


な、なるほど。

どうもさっきから目上である筈のガルコス公爵に対して言葉遣いがぞんざいだと思っていたけど、そういう経緯があってのことだったのね……。


「父上、周りの目もありますから、そろそろ止めた方がよろしいかと」


「ああ、そうだな。ガリアーノ、せっかくの祝いの日を台無しにするな。マルチェリーナは、義理とは言え私の娘になる予定なのだ。無理強いすることは許さぬ。それに、チェーザレの肩にはフォルトゥーナ王国の安全がかかっているのを忘れたのか。チェーザレには魔の森のそばにいて、我が国を守ってもらわなくてはな」


アドリアーノ殿下に促された国王陛下がガルコス公爵を窘めると、ガルコス公爵は未練たっぷりの目でこちらを見たものの、それ以上口を開くことはなかった。


諦めてくれた……、と思っていいのかな?


私もこれから3年間もの間、しつこい勧誘を受けることになったらと思うと震えが来ます……。






あけましておめでとうございます。

今年もどうぞよろしくお願いいたします。

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