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第104話 もう一波乱


「どうやらお前が発案した料理だと説明があったらしいな」


ああ、それか!


やあやあ、どうもどうも。

私がご紹介にあずかりました発案者でございます!


「クリス様、手を振ったほうがいいでしょうか?」


「いや、振るなよ。とりあえずニコニコ笑っとけ」


クリス様が手を振るなというので仕方がない。

私はにっこり笑って、みんなの視線に応えることにした。


「クリス様。私、王宮料理長になってくれと言われたらどうしましょうか?」


学校辞めないといけないよね。


「いや、絶対に言われないから心配するなよ」

「なんでそんな風に思えるんだろう……」


あ、そう?

それならいいけど。


あれ、2人組みの男の人がこっちに歩いてくるな。

どこかで見たような……?


「クリスティアーノ殿下、マルチェリーナ嬢、チェレスティーノ殿、ご無沙汰しております。以前プリマヴェーラ辺境伯家のお屋敷でお目にかかったことがあるのですが、覚えておいででしょうか?」


やっぱり会ったことがあるんだ!

うーん、誰だっけ?


もう1人の男の人の方に目を向けると、パチンとウインクをしてきた。


「ああっ! 第一騎士団の! 二回お会いしてますわね?」


顔採用の騎士さん達だ!

懐かしいなあ。


7年経ってもイケメンだ。

やっぱり、見た目重視の騎士団だけあるな。


「はい。ジョルジオ・ベルティーニです」


「ロマーノ・トリスタンです。お美しくなられましたね、マルチェリーナ嬢」


やだっ、お美しくなられましたねだって!

もっと言って!


「そんな、美しいだなんてっ」


「兄上?」


ちょっと!

私いま有頂天だったのに、勝手に話に入ってこないでくれるかな!

あと5分はこの話題を続けたかったのに誰だ、まったく。


「ジュリオか。久しぶりだな」


「クリス様達と知り合いだったんですか?」


「ああ、昔仕事の関係でお会いしたことがあるんだ」


えっ?

あっ、ベルティーニって!


「あらっ、ジョルジオ様とジュリオ様はご兄弟だったのですか?」


「……名前が同じベルティーニじゃないか」


ジュリオが何を今更という顔をしているけど、正直、お兄さんの方は名前を覚えてなかったよ……。

通りすがりのイケメンとしか……。


「そう言われれば同じ家名ですね。それに、よく似ていらっしゃいます」


「ははは。それはそうと、陛下がお呼びです。余興の前では緊張するだろうから、余興が終わったらテーブルに来るようにと仰せでした」


緊張するも何も、親子なんだから別に今でもいいんじゃないの?

というか、クリス様も一緒にご馳走食べればいいんじゃないかな。


「ああ、わかった。今日は誰が来ている?」


「本日は、陛下と王太子殿下、それから王太子妃殿下がお見えです」


「母上は来ていないのか」


クリス様がテーブルの方を見ながら尋ねた。


「陛下とは別でお越しになられるかもしれませんが……、一緒にはいらっしゃいませんでした」


「そうか。父上には2時半過ぎに2人で挨拶に行くと伝えてくれ」


「かしこまりました。それでは、これにて失礼致します」


えっと……、2人って?

なんか嫌な予感がするな……。


「2人って、クリス様とお兄様のことですか?」


「チェリーナ……、なんで僕がクリス様と2人で国王陛下にご挨拶をするのさ? どう考えても、クリス様と婚約者であるチェリーナが行く方が自然だろ」


えええええ!


「そんな! 私、何か失礼なことを言ってしまいそうです!」


「いや、そこは言わないように気をつけろよ。まあ、チェリーナが変わった娘だということは父上も把握しているから問題ない」


なんか私に対してすごく失礼じゃないですか?


「私は変わってませんよ? どこにでもいるごく普通の可愛いだけが取り柄の娘です!」


「……変わっている本人は、自分が変わっているということを自覚できないものだよね」


お兄様、なんで私に味方してくれないのかな!

はあ、せっかくのパーティなのに、この後国王陛下に挨拶するなんて……。


なんだか憂鬱になってきたな。





大評判のうちに食事が粗方終わり、会場はまったりしたムードに包まれていた。

私たちにもご馳走が回ってくるのかちょっと心配していたけど、食事はまだまだたくさん残っている。


あれだけあれば、頑張って作ってくれた料理人たちの分も十分足りそうだ。

それでもまだ余るようなら、パーティの後に孤児院へ差し入れに行ってもいいしね。


「ふうー……、おなかいっぱい……」


自画自賛するわけじゃないけど、私が提案した料理が元になった各種ひき肉料理は、特に評判になっていたと思うな!

もう残りもほんのわずかだし、いろんな所からおいしいおいしいと聞こえて来たもんね。


それから、名物料理として売り出し中の例のものは、料理の前に”料理長のおすすめ! ボロニア魔法学院名物料理 ボロニア風パスタ”とポップをつけて宣伝したこともあって、ほとんどの人のお皿に載っていた。


「美味かったな」


「はい。こんなにたくさんのご馳走が並んでいるのは初めて見たので、あれもこれもと欲張って食べ過ぎてしまいました」


「はは、俺もだよ」


私たちが顔を見合わせてほのぼの笑い合っていると、緊張した面持ちのアルフォンソがやってきた。


「もうそろそろ上映する時間です。唐突に上映するのもなんですから、クリス様から一言挨拶をしていただいて、その後上映会を始めましょう」


「えっ……挨拶?」


「あらっ! 舞台挨拶は私の得意分野よ、アルフォンソ! ガッチリ観客の関心を引いてあげるから、私に任せてちょうだい! それに投票ルールの説明もあるしね」


投票した人にはお土産があることを最初に言っておけば注目度が変わってくる。


「チェリーナが挨拶って……、少し不安だけど、投票ルールの説明は事前にするべきだろうね」


「あっ、それからカーテンと出入り口を閉めて、暗くなるようにしないと! さあっ、みんなに声をかけて急いで準備しましょう!」


空いている椅子を探して座ったので、みんながどこにいるのか分からない。

とりあえずガブリエルを発見したから、ガブリエルにみんなを集めてもらおうっと。


「ガブリエル様! そろそろ上映の時間です。会場を暗くする必要がありますので、みんなに声をかけてカーテンや扉を閉めていただけますか?」


「任せろ。ーートータル・ダークネス」


ガブリエルが短く詠唱すると、いきなり会場が真っ暗になった。


「きゃあっ」

「こわい!」

「おかあさまー!」


突然襲ってきた暗闇にそこかしこから悲鳴があがる。


「ちょ、ガブリエル様!? まさか、魔法で? これじゃ真っ暗すぎて何も見えません!」


「なんだよ……」


ガブリエルが不服そうにパチンと指を鳴らすと、ふっと明るさが戻った。


ガブリエルめー!

余計な仕事を増やしやがったな!


「クリス様、急いで壇上に行きましょう! みんなに説明しないと!」


「あ、ああ」


私たちは小走りで壇上にあがると、注目を集めようと精一杯声を張り上げた。


「みなさま! 驚かせてしまい申し訳ありません! これから私たちの余興が始まるのですが、会場を暗くする必要がございます。危険なことは何もありませんので、どうぞご安心くださいませ。余興が始まると舞台が明るくなりますので、みなさまどうぞ舞台にご注目ください」


なんとか場を落ち着かせようと奮闘するも、あーんあーんと小さな子どもの泣き声が聞こえてくる。

こんな状況じゃゆっくり観劇どころではない。


なにか、子どもを泣きやませるいい手は……。


そうだ!

物理的に口をふさぐのはどうかな!?


私はいったん舞台袖に引っ込むと、ペンタブに保存しておいた箱シリーズの絵を呼び出し、急いで文字を書き換えた。


「ーーポチッとな! さあっ、クリス様、行きましょう!」


私はクリス様の手を引っ張ると、舞台から下りて泣いている子どもの元へと向かった。


「泣いてる子は誰かなー? こっちに手を振ってくれたらいいものをあげるよー」


いいもの、と聞いた子ども達はピタリと泣き止んだ。


「なにをくれるの?」

「いいものってなにー?」


子ども達は私が行くのを待ちきれず、自分の方からたたたと走ってやってきた。


「これだよ! いい子にはおいしい飴をあげる! いちごのミルフィーユと、チョコバナナ、ブルーベリーヨーグルトに、マンゴー味もあるよ。1人1つ、好きなものを取ってね」


わあっと歓声があがり、小さな手が一斉に伸びてくる。


「いちごのみるふぃってなに?」

「ちょこばななもわかんない」

「ぜんぶわかんないけど、なんとなくおいしそう!」


子ども達にはちょっと馴染みのない味だったようだけど、掴みはオッケーだ!


「どれもおいしいわよ! 包み紙を剥がして、この棒を持って舐めてね」


子ども達は早速包み紙をばりばり剥がすと、棒つきキャンディを口の中へ入れた。

よし……、なんとか大人しくさせられたぞ……、がんばった、私。


「……いちごのみるふぃーゆって何だ?」


クリス様!

今そんな場合じゃないから!


「そんなことより壇上へ戻りますよ!」


私はクリス様の手を引っ張って再び壇上へと戻った。


「みなさま、お待たせいたしました。お手元に、受付のときにお配りした造花があるかと思います。見終わった後、最もよかったと思う出演者にその造花を投票してください。投票のお礼に、ちょっとしたお土産をご用意しておりますので、奮ってご参加くださいませ。それでは、始まります!」


私の合図で、一斉にカーテンと扉が閉められた。

そして、私たちが舞台を下りるのと同時に、オープニングテーマが流れ、舞台奥の白い壁に風景の映像を背にした"運命の輪"というタイトルが映し出された。


「おおっ!」

「こ、これは!」


映像と音楽に驚いた人々はしばらくの間ザワザワとざわめいていたものの、やがて話に引き込まれたのか、オープニングテーマが終わる頃には会場は水を打ったように静まり返っていた。







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