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第103話 お祝いのおすそ分け


さてと、まさか校庭にお弁当を直置きするわけにはいかないな。

ここに食べ物があると分かりやすいように、屋台的なものを出そうか。


「ーーポチッとな! みなさーん! お待ちの間お腹が空くでしょうから、こちらに軽い食べ物を用意しました。どなたでも自由に食べてください!」


「えっ、私どもにも食事を!? それはお気遣いいただき、ありがとうございます」


建物の影でこっそり出した屋台を引きながら呼び込みをすると、御者たちがぞろぞろと屋台の方へと集まってきた。


「どうぞどうぞ! こっちの箱に入ったにんじんとりんごは馬にあげてください。ーーーん!?」


ふと気が付くと、どう見ても御者ではない人間が混ざっている。

キミたち……、どこからきた子どもかな?


「ボクたち、どうしたの? お母さんとはぐれちゃったのかしら?」


私は子ども達を怖がらせないようにしゃがんで話しかけた。


「お母さんはいない……」


妹らしき小さな女の子の手を握っていた7歳くらいの男の子がぽつりと答えた。


「えっ!? ご、ごめんなさい……」


「おそらく、この魔法学院近くの孤児院の子ではないでしょうか。こちらのパーティの賑わいが気になって見に来たのでしょう」


その場にいた御者の1人が教えてくれた。


「そうなの……、孤児院から……。騒いでごめんなさいね。そうだわ、よかったらみんなも食事を食べていって。甘い物もあった方がいいわね」


「お、お嬢様。孤児院の子ども達が集まってきてもよろしいのですか?」


御者が慌てて止めるけど、ちょっとくらい平気だってー。


「大丈夫よ、たぶん! 今日はお祝いの日ですもの! それにね、こういう言葉があるのよ。ーーージョブズ・オゴレージュ」


「ジョブズ・オゴレージュ?」


「そうよ。金持ちのジョブズはみんなに奢れという意味だったと思うわ。持てる者は持たざる者に分け与えなければね」


シーン……。


……あれ?

私いまいいこと言ったのになんで静まり返るかな?

ここは、おおっとどよめく所じゃない?


「それを言うならノブレス・オブリージュだろうが」

「聞いてるほうが赤面しそうだよ。あれが僕の妹だなんて」


ノブレスって誰?

名前はともかく、金持ちはケチケチしないで気前よくって意味だよ。


「いま私もそう言いました! ノブレスが奢るんでしょ!」


全く細かいんだから!

大体合ってるからいいんですよ!


「ジョブズはどこいった……」

「というか、人じゃないし……」


そんなことより、クリス様とお兄様、また私に付いて来てたの?

まったく、私は忙しいんだから邪魔しないでほしいよね。


「ーーポチッとな! さあ、みんな。こっちはお肉で、こっちはサンドイッチ、それからこっちはケーキよ。どんどん食べてちょうだい。飲み物は、紅茶とかジュースとかいろいろあるから好きなものを選んでね。そうだわ、みんなの中でお仕事したい子はいるかしら? 後からきた人に、ここに並べた箱の中身を教えてあげてくれたらお小遣いをあげるわ。それから、ケーキは1箱に9個入っているから、取り分けもお願いするわね」


「わあっ、やりたい!」

「ぼくも!」

「わたしも!」


うんうん、そうだよね。


「わかったわ。お兄様、お小遣いをください」


「はっ!? お金も持ってないのにお小遣いをあげるって言ったの?」


「そうですけど」


お兄様のお金は私のお金ですよね。


小銭でいいのでちょっと分けてくださいな。

1人100円くらいでいいんです。


「細かいのは銀貨しかないな」


文句を言いながらも、お兄様は財布の紐を緩めて中を確認してくれたけど、銅貨は持ってなかったようだ。

銀貨だと子どもにはちょっとあげすぎかな?


「もしよろしければ、私が銅貨に両替いたしましょう」


人のよさそうな、白い髭を生やした恰幅のいい御者がそう申し出てくれた。

赤い服と雪が似合いそうなおじさんだ。


「あら、それは助かるわ。お兄様、その方にお金を渡してください。みんな、このおじさんからお金を受け取ってね」


私はありがたくその提案を受け入れて、子どもたちに向かってにっこり微笑んだ。

子どもたちはきゃあきゃあと歓声をあげて大喜びしている。


「おい。そろそろ父上の挨拶が始まる。国王の挨拶をすっぽかすのはさすがにまずいぞ。早く戻ろう」


「そうですね! ではみなさん、ごきげんよう!」






「ーー続きまして、国王陛下にお言葉を賜りたく存じます。陛下、お願いいたします」


おおっと、ギリギリセーフだ!

ふー、危なかった!


宰相に促された国王陛下は、席を立つとゆっくりと壇上へあがった。


「みなも知ってのとおり、私もボロニア魔法学院の卒業生の1人だ。栄えある我が母校の創立1000周年という特別な年に、こうして立ち会えたことを嬉しく思う。みなも同じ思いだろう」


国王陛下の話を聞く人々は首を大きく縦に振った。


国王陛下は、クリス様と同じ白金の髪に紫色の目をしているけど、美人なクリス様とは違って男性的な外見の人だ。

クリス様は、顔立ちはお母さん似なんだよね。


4年前に行われたアドリアーノ殿下の結婚式にプリマヴェーラ辺境伯家も招待されたので、その時に1度だけ国王陛下にご挨拶させていただいたことがある。

クリス様の婚約者として紹介されて、ほんと緊張したよ……。


クリス様のお父さんである国王陛下と、お母さんである正妃様、それから国王陛下の側妃様にもお目にかかったんだけど……。

みなさん私たちの婚約に賛成してくれていて、私にも優しくしてくれたけど、いやに気疲れしたことが印象に残っている。


何しろ、旦那さんを真ん中に、右に奥さんその1、左に奥さんその2という状況には初めて遭遇したからね……。


「ーーーなにやら食欲をそそる匂いがしてきたな。みなも気になって話どころではないだろうから、そろそろ切り上げるとしよう。午後からは余興があると聞いている。楽しみにしているぞ、クリスティアーノ」


はっ!

いつのまにか国王陛下の話が終わりそうになっている!


「はい」


壇上から急に話を振られたクリス様は、落ち着いて一言だけ返事をした。


パチパチパチと拍手がなり、静まるのを待って宰相が再び話し始めた。


「陛下、ありがとうございました。さて、みなさん。陛下もお気づきになられたとおり、食事の用意が整ったようです。後ろをご覧ください」


後ろを振り向くと、たくさんの料理を載せた長テーブルがコの字型に設置され、長テーブルの内側には料理人たちが控えていた。


「今日は人数が多いため、席での給仕はいたしません。どうぞご自分で足を運んで料理を選び、そばにいる料理人に申し付けてください。何種類選んでも結構ですよ。それでは、どうぞお楽しみください」


わあー!

私もすっ飛んでいって料理を選びたい!


でも今日はお客様が先で、在校生は一段落してから行くようにと事前に言われているからここは我慢だ。

ああ、せめて綺麗なうちに一目だけでも見たい!


「まあ、なんて美しい料理なんでしょう」

「これは美味そうだ」

「珍しい料理がたくさんあるわね」


ふふふふふ、早くも料理が大評判になっている!


ふと国王陛下のテーブルに目を向けると、王宮料理長のゼイラムさんがワゴンで運んできた料理を並べているところだった。

さすがに国王陛下は自分で選びに行かないようだ。


ゼイラムさんがそれぞれの料理の説明をしているらしく、そのテーブルに座っている人たちが感心したように頷いていたと思ったら、なぜか一斉にこちらに顔を向けた。


ええっ、何事ですか!?






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