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第102話 パーティの始まり


私はくるりと後ろを向いて駆けだそうとしたところで足を止め、クリス様に報告をした。


「クリス様、ちょっとお父様とお母様を迎えに行ってきます!」


「ああ、俺も行く」

「チェリーナ、僕も行くよ」


えー、別に付いてこなくていいのに。

仕方がないな。


「あら、私もチェーザレおじさまたちにお会いしたいわ」

「私もご挨拶をしたいわ」

「俺もプリマヴェーラ辺境伯にお目にかかりたい」


なぜか我も我もと人が集まってくる。

気が付くと、そこかしこから「プリマヴェーラ辺境伯」「プリマヴェーラ辺境伯」と聞こえてくるんだけど……。


いくらなんでもそんなに付いてこないでほしいな!?

私はじりじりと後ずさると、スカートを翻してダッと駆けだした。


「あっ、待てっ!」


「みんなそこで待っててくださーいっ!」


はあはあはあ……、ふうふうふう……。


これくらい走れば、みんなを撒けたはず……。


「もう歩くのか」


「ふぎゃっ!? ク、クリス様、いつからそこに?」


全力疾走したのに撒けてなかったとは!


「最初からいたぞ。お前、足が遅いな」

「本当だよ、そんな鈍足で僕たちを撒こうだなんてずうずうしいよ。歩いても追いつけるくらいだ」


お兄様もいたのね……。

お兄様の一歩と私の一歩を一緒にしないでほしいな。

あなたとは足の長さが違うんですよ。


「おーい、チェリーナ! チェレス! こっちだぞー」


声が聞こえた方を見ると、お父様が大きく手を振って合図していた。


「お父様ー!」


私はお父様に走り寄ると、ぴょんと飛びついた。


「おっと。今日も元気そうだな」


「お父様! 会いたかったー!」


「プッ」


……誰の声?

お母様にしては低すぎるな。


「あっ! トゥリパーノお兄様! それにジェルソミーノおじさまも! わあ、お久しぶりです!」


カレンデュラのお兄さんとお父さんだ!


2人ともいつ見ても美人だなあ。

19歳という美しい盛りのトゥリパーノお兄様はともかく、ジェルソミーノおじさまはもう40歳を超えた男の人だというのに一体どういうことなんだろう。


「チェリーナは相変わらずチェーザレおじさまにべったりなんだね」


「子どもの頃からずっとだからね。羨ましいな。うちのカレンなんか、もうそんな風に飛びついてくれないよ」


いやあ、それほどでもー。


「えへへ。お父様たちと一緒に来たんですか? ビアンカおばさまは?」


「そうなんだ、チェーザレたちが迎えに来てくれてね。ビアンカはトブーンが苦手だから、今日は留守番をしているよ。高いところは怖いそうだ」


やっぱり、トブーンが苦手な人もいるよね。

見晴らしがよすぎるトブーンは、高所恐怖症の人は絶対乗れないだろうな。


「それは残念です。今日のパーティで余興をやるのですが、カレンも出るんですよ。おばさまにもぜひ見ていただきたかったわ」


「よ、余興……!?」


「はい! クリス様も出ますよ! もちろん私もです!」


私はエヘンと胸を反らした。


「……チェレス? チェリーナがおかしなことを始めたと聞いたが、阻止したんじゃなかったのか?」

「歌は阻止しましたが、余興は元々はクリス様の発案だったので……」

「俺はパーティで上映しろなんて一言も言ってないぞ」

「チェリーナが余興だなんて……、恐ろしいことが起こりそうだわ」


ちょっとお父様たち、何をコソコソ話してるの?

もっと聞こえるように言ってくれないと。


「どうかしましたか?」


「はあー……、いや……、そろそろ会場へ向かおう」


お父様は一気に疲れが出たかのような大きなため息をついた。

長旅だったからね、無理もないよ。


「はい! こっちですよ」





私がお父様たちを案内してパーティ会場の入口へ向かうと、そこにはカレンデュラや他のみんなが揃って私たちを待っていた。


「チェリーナ! 走って行ってしまうなんて酷いわ」


「えへへ、ごめんごめん。トゥリパーノお兄様とジェルソミーノおじさまも一緒だったわよ。ほらあそこ」


パーティ会場へ向かう途中に知り合いに呼び止められたジェルソミーノおじさまは、私たちから少し離れてしまったので指をさして方向を教えてあげた。


「あら、本当。お父様とお兄様だわ。チェーザレおじさま、ヴァイオラおばさま、父と兄がお世話になりました」


「久しぶりだな」

「元気そうね、カレンデュラ」


他のみんなも挨拶をするタイミングを計っているのか、やけにウズウズしたような顔をしている。


なんか変だよね?

よくわからないけど、両親に友人たちを紹介しておこうかな。


「お父様、お母様。こちらはお兄様と同学年のガブリエル・ガルコス様とジュリオ・ベルティーニ様、それからファエロ・バルトラ様です。こちらは私と同学年のラヴィエータ・エベラ嬢と、ルイーザはもうご存知ですね」


「お会いできて光栄です!」

「お初にお目にかかります!」

「ずっと以前からお会いできる日を楽しみにしておりました。以後お見知りおきを!」


……キラッキラの目をしてますね。

好きな芸能人に会えたみたいな感じなの?


「うちの子どもたちが面倒をかけていないかな? いろいろ大変だろうが、これからも仲良くしてやってくれ」


「「「「はいっ!」」」」


「それにしても、パーティ会場とは演習場のことだったのか。俺が1年生の時にうっかり丸焼きにしてしまったんだよな。懐かしいなあ」


うん……、その話、ついこの間校長先生に聞いたよ……。


演習場は外観は豪華だけど、中は体育館のようにガランとした造りになっているので、今回のパーティ会場として使用されることになったのだ。

お父様は懐かしそうにぐるりと演習場の建物を見回している。


「あ、あの。丸焼きとは……?」


デキ男のファエロが疑問を口にした。


「ああ、実践魔法の授業中にちょっと力の加減を間違えてな。おかげで父には散財させてしまったよ、ははは」


弁償したんですね、なるほど。


「授業で……! さすがはボロニア魔法学院の歴史上で最強のお方!」


おおー、という感嘆の声があちこちからあがる。

……学校の建物を焼いちゃったのに、感心するところなのかな?


「さあ、お父様。まずは受付を済ませてしまいましょう! あと15分くらいでパーティが始まりますよ」


「そうだな」


お父様の手を引っ張って受付へと案内する間にも、いろんな人に次々と声をかけられてなかなか進めない。

そうこうしている間に、壇上から男の人の声が響いてきた。


「お集まりのみなさま。ようこそボロニア魔法学院創立1000周年記念パーティにお越しくださいました。私は本日の司会を務めます、宰相のファツィオ・バルトラです」


みんなの注目が宰相に集まり、パチパチパチと拍手が起こった。


「お父様、始まっちゃいました! 早く席に着いてください」


お兄様がお父様の代わりに受付を済ませてくれていたので、私たちはお父様たちを急かしながら席へと案内した。


ちなみに、卒業生たちにはテーブル席が用意されているけど、在校生には席はありません。

足りないからね。


壁際に沿ってぐるりと椅子が置かれてはいるけど、とても全員は座れそうもない。


「それではまず、マーゴ・ミネルバ校長より開会の挨拶をお願いいたします」


そうだ、開会の挨拶が行われているうちに、御者さんとお馬さんたちのごはんを用意してあげよう。

この機会を逃すと忘れてしまいそうだ。


「ただいまご紹介にあずかりました、校長のマーゴ・ミネルバです。今年は本校創立1000周年という節目の年にあたりーーー」


そして私は、校長先生の挨拶を右から左に流しながら、こっそりパーティ会場を抜け出した。






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