第100話 パーティ準備
そうでしょう、そうでしょうとも!
自分でも感動巨編だと思ってたんだよね!
やっぱり、涙なしでは読めなーーー
「あーーーーっはっはっはっは! こんな方法で辻褄を合わせるとはな! 確かにこれなら、出演者が変に攻撃されることはなさそうだ。くっくっく、お前、意外と頭がいいな」
えっと……、爆笑シーンなんて入れてないんだけど……。
どういうことなんだろう。
クリス様って、ちょっと感性がおかしいんじゃないかな……?
「はあ。お褒めいただき、恐縮です……?」
「この結末、中々いいぞ。俺は気に入った」
クリス様、笑い過ぎてちょっと涙が浮かんでますね?
紫色の目がキラキラ光って宝石みたいだ。
こんなに爆笑するクリス様は珍しい。
「えへへ。よかったです」
クリス様の反応に若干腑に落ちない部分があるけど、褒められたことに間違いはなさそうだし、ここは素直に受け入れておこうっと。
「それはそうと、結構台詞が長いな。これを暗記するのは中々大変そうだぞ」
そうだよね……、暗記する時間も満足にないし、困ったな。
「そうだ、カンペだ!」
台詞を憶えられないなら書いておけばいいじゃない!
ホワイトボードとマーカーを出して、カメラに映らない角度に設置すればバッチリだ。
「かんぺとは何だ?」
「台詞を紙に書いておくことです。大きな紙に書いてカメラに映らないように置いておき、演者が台詞を忘れてしまった時はそれを見ればいいのです」
「なるほど。読めばいいなら楽だな」
よしっ、なんとか今週中に撮影を終えられる目途がたった。
撮影が終わったら編集もあるし、王宮料理人との打ち合わせもあるし、毎日目まぐるしいけど、あと2週間足らずで創立記念パーティ本番だ。
みんなで力を合わせて、がんばって乗り切らなくちゃね!
「お忙しいところお時間を作っていただき、ありがとうございます。私は王宮料理長を務めております、ゼイラムと申します」
「こちらこそ、お忙しいところをご足労いただき、ありがとうございます。マルチェリーナ・プリマヴェーラです」
ハードスケジュールを何とかこなし、撮影を完了した私たちは、王宮料理人の一行を食堂で出迎えた。
先方から厨房を使用したいとの要望があったため、まずは食堂で打ち合わせをして、その後厨房移って試作品を作ることになったのだ。
王宮からは料理人が3名、私たち側はパスタ試作のときの11名からアルフォンソを除いて、代わりにルイーザのところの料理人が参加している。
私たちは自分で料理を作れないので、私の提案する料理はラヴィエータと学院の料理長が、ルイーザの提案する料理は王都にあるアゴスト伯爵家の屋敷の料理人に助っ人を頼んだのだ。
アルフォンソは動画の編集があるから参加できないけど、料理の試作品が出来上がったら呼んでほしいそうだ。
1人で編集作業をがんばってくれているし、アルフォンソに限り試食会だけの参加もOKにしたよ。
ガブリエルも試食会だけ呼べとか何とか言っていたけど、食べに来るだけなんて基本的にはお断りですから!
「それで、お嬢様の提案されている料理についてですが、私どもには馴染みのない料理でして。作り方の手順などを事前に確認しておきたいのです」
「ええ、そうですわね。わかりますわ。私の提案する料理は、基本的にはとても簡単で、誰でも作れるんですのよ」
最終的に何を作ることにしたんだっけ?
確かボロネーゼのパスタとハンバーグだったよね。
「お嬢様がお作りに?」
「いいえ? 私は作れませんよ? 私は料理をしたことがありませんもの」
いやだな、貴族令嬢が料理なんてできるはずないでしょ?
「……誰でも作れるんじゃなかったのかよ」
「クリス様、何かおっしゃいましたか?」
「別に。話を続けろ」
独り言だったの?
それならもっと小声で言ってほしいよね。
「ええと、何の話だったかしら? そうそう、料理の作り方でしたわね。小麦粉を練って細く切ったものに、お肉のソースをたっぷりかけて、その上にチーズをかける料理でーー」
「あ、あの。マルチェリーナ様。その作り方は手間がかかるので、簡単な方法で作るとおっしゃっていたのではないでしょうか……」
あっ、そうだ!
パスタは切るのが大変だから、ラザニアにしようって言ってたんだった!
「そうだったわね! みなさん、私の提案する料理は、このラヴィエータと学院の料理長が実演してくれるんですの。私は作るよりも応援する方が得意なんですのよ、おほほほ」
「……応援?」
王宮料理人のみなさんが揃って首を傾げる。
応援は言わなくてもよかったみたいだ。
「ゴホン。ルイーザの提案する料理は、アゴスト伯爵領の名物料理です。ルイーザから説明して差し上げたら?」
「ええ。私の提案する料理は、うちの料理人のピアが実演いたしますわ」
そして早々に話し合いを切り上げ厨房に移動すると、ラヴィエータたちに実際に料理を作りながら手順を説明してもらうことにした。
「あの……。マルチェリーナ様、私はパスタではない方のお料理は、作ったことも食べたこともないのですが……」
なんと!
そうでしたっけ?
「あら、そうだったかしら。でも大丈夫よ。ここには料理人が大勢いるのですもの。どなたか、私の言うとおりに作ってください」
「では、私が」
王宮料理長のゼイラムさんが名乗りをあげてくれた。
「チェリーナ、実物を食べてもらったほうが分かりやすいと思うよ。チェリーナの説明は独特だし……」
お兄様が小声で私に耳打ちする。
あ、そう?
まあ、説明するのもめんどくさいし、それでもいいよ。
「ーーポチッとな! ゼイラムさん、ここに出来上がりがありますので、味見をしてみてください」
「はっ!? どこから料理がっ!?」
「まあまあ、細かいことはお気になさらず。食べたことがない方は、一口ずつ味見をどうぞ」
気が利くラヴィエータがナイフとフォークを持ってきて、ハンバーグを一口サイズに切り分けてくれた。
私が王宮料理人のみなさんにハンバーグをお勧めしていると、なぜかガブリエルやジュリオまでもがフォークを片手に混ざりにくる。
あなた達は試食会まで待ちなさいよ!?
まったく、しょうがないお坊ちゃまどもめ。
「こ、これは! なんと柔らかい肉なのだ! この厚みでこの柔らかさとはいったい……!」
この国では、肉料理は基本的に塊肉になるので、ひき肉料理は普及していないのだ。
だから、ひき肉をたっぷり使ったラザニアもハンバーグもきっと大注目だし、絶賛されること間違いなしだよ!
「もぐ……、うまい……」
「うん、うまいよ」
「おいしいです」
思ったとおり、つまみ食い組のみんなも大絶賛だ。
「塊肉を細かく切って、そこへ炒めた玉ねぎと、少量の溶き卵とパン粉を入れて、塩コショウで味を調えます。よく捏ねて楕円形に成形したら、真ん中を窪ませて両面を焼けば出来上がりですよ。お肉は牛と豚を半々くらいがいいですね。ソースは……、ええーと、ソースは……?」
し、しまった!
デミグラスソースってどう作るんだろ!?
……今からいろいろ試すのもめんどくさいし、もうトマトソースでいいか。
チーズを上に乗せるか、中に入れるかして、イタリアンハンバーグでいこう!
「チーズを乗せて、上からトマトソースをかけるのがいいんじゃないでしょうか!」
「フフフ……、チーズとトマトか、それもいい。だがしかし、このソースも捨てきれないな。それからクリーム系のソースも合いそうだ。うおおおおおお、これはすごい、面白いほどどんなソースにでも合うぞッ! おいっ、お前らもボサッとしてないでさっさと手を動かせ!」
ゼイラムさんは先ほどまでの柔和な顔とはガラリと雰囲気を変え、うちの騎士たちさながらの荒っぽさを現した。
……いまから戦うのかな?
料理って格闘技なの?
お読みいただきありがとうございます!
今日で100話になりました。
本当はパーティ回にしたかったのですが、ちょっと長くなってしまったので、パーティは101話目からにしました。
続きもお読みいただけると大変嬉しいです!
これまでブックマーク、評価、感想をくださった皆様、本当にありがとうございました。