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第10話 待ち望んだ帰り


そうだ、「お父様経由、カレンデュラ行き」って書けばバッチリだよ!

わあい、わあい!


私は興奮して思わずぴょんぴょんと飛び上がった。


「お前、なんで一人で飛び上がってるんだよ」


クリス様が呆れた顔で私を見ている。


「いいことを思いついたのです! あれにめだつ布をつけて、おとうさまけいゆ、カレンあてに飛ばすのです。そうすれば、おとうさまがカレンを見つける手がかりになるはず!」


「まあっ、それはいい考えだわ! 早速目立つ布を探してみましょう!」


「……確かにいい考えだ。お前、すごいな」


クリス様が何か言っていたようだけど、私はタケトンボの行き先を書き換えないといけないんだから邪魔しないでください。


いっぱい字を書かないといけないから拡大してと。

行先と、自動で戻ってくるようにとを書き込んだ。


あっ、「お父様を見つけたあとはゆっくり飛ぶ」も追加しよう。

馬が追い付けないスピードで飛ばれちゃ困るもんね。


「ーーポチッとな! できました! このハヤメールがおとうさまをカレンの元へつれていってくれます!」


名前は早く届くメールを略して、早メールに決めました!


「ハヤメール? それがその魔法具の名前なのか?」


「そうです!」


意気揚々とハヤメールを頭上に掲げていると、お母様が赤い布を手にして足早に戻って来た。


「チェリーナからだと分かるように、M・Pと頭文字を書いておいたわ」


お母様は、頭文字の部分が見えるように輪っかに布の端を結んでくれた。


「では、飛ばします! おとうさまと、カレンの元へとんでゆけー!」


私は天に向かって思い切り投げあげた。

ハヤメールはブーンと音を立てて飛んで行く。

やっぱり青い空に赤い布がひらめいているのは結構目立つな。

あれならきっとお父様の目にも留まると思う。


私たちはハヤメールの姿が確認できなくなるまで、そのまま空をじっと見つめ続けた。




ケケケケケー…、ケケケケケー…


空が茜色に染まり、日暮前に鳴く鳥の声があちこちから聞こえて来た。

この鳥が鳴き始めると、30分ほどで暗くなってしまう。


ハヤメールを飛ばしてから既に数時間が経つが、お父様たちも、フィオーレ伯爵家へ行ったミケーレもまだ戻ってこない。

ハヤメール本体も戻ってこないところを見ると、残念だけど配達は失敗してしまったらしい……。


私はクリス様と一緒に玄関前が見える窓に張り付き、お父様たちの帰りを今か今かと待ちわびていた。


「クリス様、もう日がくれてしまいます……」


「……そうだな」


「カレンはまだ見つかっていないのでしょうか。暗くなってしまっては、おとうさまたちがきけんです」


盗賊が隠れられる場所と言えば、やはり森の中だろう。

暗い森の中は、ただ歩くだけですら危険が伴う。

ましてや、戦うとなったら、きっと誰かしら怪我をしてしまうだろう。

いや、怪我で済めばいいけど、もしかしたら……。


私は不吉な考えを振り払うように、勢いよくブルブルと頭を横に振った。


「……なんだよ。また何か考えてるのか?」


「いいえ、ただしんぱいなだけです……」


ーーードドド…ドドッ…


その時、遠くから馬の蹄のような音が聞こえた気がした。


「クリス様! いまなにか聞こえました!」


「蹄の音だ! 行ってみよう!」


クリス様に手を引かれて玄関を飛び出すと、さっきよりも大きな蹄の音が聞こえてきた。

逸る気持ちを抑えて正門の方向をじっと見つめていると、ドドドという大きな音と共にたくさんの馬が次々と姿を現した。


「おとうさまー! おにいさまー!」


私は大きな声で二人を呼んだ。


「チェリーナ!」


お兄様の声が聞こえるけど、たくさんの馬がいて、どれがお兄様の乗る馬かわからない。

キョロキョロとせわしなく頭を動かしているうちに、馬の一団はそこかしこで歩みを止めた。

一人、また一人と馬から下りてくる。


あれっ、馬が多い?

どう見ても30頭より増えてない!?


「チェリーナ! カレンは無事だよ!」


気が付くと、私の目の前にお兄様が立っていた。


「おにいさま! ぶじでよかったです! カレンはどこにいるのですか?」


「ほら、あそこ! カレンはお父様の馬に乗っているよ」


お兄様の指さす方向を見ると、先に馬を下りたお父様が、カレンデュラを抱き上げて馬から下ろすところだった。


「カレンーーーーー!」


私の声が聞こえて、ハッとした表情になったカレンは、私と目が合ったとたんにクシャリと顔を歪めて泣き出した。


「ううっ……、チェリーナーーー! うわーん!」


私たちはパタパタと駆け寄って、ぎゅっと抱きしめ合った。


「カレン! 無事でよかった! し、しんぱい……した……っ!」


「チェリーナ! ううっ、こわかったーーー!」


抱き合ったまま二人でわんわん泣いていると、お父様が私たちに声をかけて来た。


「さあ二人とも、とりあえず中に入ったらどうだ? みんな腹が減っただろうから食事にしよう」


ぽんぽんと私たちの頭に手を置き、屋敷へ入るようにと言った。


「あなた! よくご無事で! ああ、カレンデュラ、無事で本当に良かったわ!」


お母様も蹄の音に気付いて外に出てきた。

みんなの無事の帰りにほっと一安心している。


「ヴァイオラ、フィオーレ伯爵家の騎士たちと合流したんだ。今夜は屋敷に泊まるから、部屋と食事の手配を頼む。あちらは16名…いや、伝令のために一人は帰ったから15名だな。それと、カレンデュラと侍女で17名だ」


「あらっ、フィオーレ伯爵家の方たちが? ミケーレの知らせで合流することになったのかしら」


「いや、ミケーレよりも早く手紙が届いたと言っていたぞ。ミケーレにはうちの領に向かう途中で会ったそうだ」


えっ、手紙届いたのっ?

ハヤメールがちっとも戻ってこないから、てっきり失敗したのかと思っていた。

フィオーレ伯爵家に送ったのも、カレンデュラに送ったのも戻ってきてないよ?


「おとうさま。ハヤメールはとどいたのですか?」


「はやめーる? あの空飛ぶ魔法具のことか? あれは助かったぞ! あの赤い布のあとを追っていったら盗賊のアジトが見つかったんだよ。やっぱりチェリーナの魔法具だったんだな、後を追って良かったよ」


えー!

届いてるじゃーん、大活躍じゃん!

じゃあ、ハヤメールはいったいどこへ行ったの?


「おとうさま、ハヤメールは、とどけると送りぬしのもとへもどってくる魔法がかかっているのですが……、どこにいってしまったのでしょうか……」


私が尋ねると、カレンデュラが思い出したようにポケットを探りだした。


「チェリーナ、これを探しているの?」


カレンデュラが取り出したのは、赤い布が結ばれたままのハヤメールだった。

赤い布、取らないと配達完了したことにならないよね……ハハハ……。

でも、フィオーレ伯爵家に飛ばした方は、ちゃんと手紙を外して読んだからこそこうしてここにいる訳だし。

いったい、どうなってるの?


「あの……、お話し中失礼いたします。私はフィオーレ伯爵家の筆頭騎士、マキシマスと申します。お嬢様は、手紙を運んで来た魔法具を探していらっしゃるようですが、あれはまだフィオーレ伯爵家にございます。室内で手紙を外したのですが、外し終えるとそのまま飛び上がって天井につかえてしまいました」


ああ……なるほど……。

ハヤメールは自力で窓を開けたり扉を開けたり出来ないもんね。

今度からは、受け取る方にも使い方を説明しないといけないな。


でも、何はともあれ大成功と言っていいでしょう!

やった、やったよ!





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