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第1話 いきなりの婚約


前世の私、桜井ちえりは漫画やアニメ、そして乙女ゲームが大好きな半オタ女子高生だった。


大ヒットした乙女ゲーム『ウィール オブ フォーチュン ~回り始めた運命の輪~』にはまってしまい、自分でも登場人物のイラストを描くことを思いついた。

最初は手書きで書いていたのだが、高校の入学祝いに祖父母がパソコンを買ってくれたのを機に、デジタル画に挑戦することにしたのが運のつき。


数ヵ月分のお小遣いをためて、電気店で念願のペンタブを買った帰り道、私は事故にあってしまったらしい。

ブレーキ音が聞こえたから後ろから車に撥ねられたんだと思うけど、どんな事故だったかはあまり覚えていない。


気が付くと真っ白い空間に一人きり。

あーあ、せっかくお小遣いはたいて買ったのになあー、一度も使わずに死ぬなんてさー。

ペンタブのことを心残りに思っていると、手元にスッと半透明のペンタブが現れた。

それを眺めたりひっくり返したりしているうちに側面の起動ボタンを押したらしく、今度は目の前にも半透明のプレートが現れる。


PC画面のようなプレートには『シリアルナンバーを入力してください』と書いてある。

ペンタブをひっくり返すと、裏に番号が書いてあったので付属のペンで数字を書いていく。

画面が変わり、今度は『承認しました。設定を開始します』の文字の下に、ずらりと質問が並んでいる。


なになに『あなたの想像をインターフェースしますか?』、なんじゃそりゃ? 

よくわからないけど『はい』でいいや。

意味が分からない質問もあったけど、とりあえずフィーリングで答えてどんどん画面の指示通りにしていくと、最後に『この設定で生まれ変わりますか?』との質問が現れた。


答えは二択。


『はい。生まれ変わります』

『いいえ。目覚めていまの人生を生きます』


ん? 

いいえを選択すると今までの設定が無駄じゃない?

そう思って、『はい。生まれ変わります』を選択した。


次の瞬間白い空間はパッと消え去り、病室で機械に繋がれている自分の姿が目に入った。

ベッドを取り囲んで、家族が必死に私の名前を呼ぶ声が聞こえる。


「あれっ? 私まだ死んでなかった!? ええっ、今から死ぬのーーー? お、お母さんっ! お姉ちゃんっ! お父さーんっ!」


桜井ちえりの記憶はそこまでだった。





どうも。マルチェリーナ・プリマヴェーラ、8歳です。

お気軽にチェリーナと呼んでください。


私はここ、フォルトゥーナ王国の東の外れにある、プリマヴェーラ辺境伯領の領主の娘として生まれ変わった。

流行り病にかかって何日も生死の境を彷徨っていたけど、夢うつつの中にいるうちに前世の記憶が鮮明に蘇ってきたのだ。


「うう……」


私はゆっくり目を開いて、ベッドの中からぐるりと部屋を見回した。

あちこちにたくさんのフリルがあしらわれた、白を基調とした女の子らしいかわいい部屋だ。

目が覚めたけど、誰もいない。


こわばった手足をぐぐっと動かしてみる。

どうやら熱は下がって体の痛みもなくなったようだ。

ぼやけた頭であの白い空間のことを思い出す。


「そういえば、あの時急にペンタブが現れて……」


ペンタブと呟いた途端、手元にスッと半透明のペンタブが現れた。


「ふぁっ!?」


驚いて思わず間抜けな声が出た。

勢いよくガバリと身を起こすとめまいがしたが、そんなことには構っていられなかった。


「ええ!? なんでペンタブ? まあ、確かに心残りにしてたし、お絵かきできたら暇つぶしにはなるけどさあ。でも、どうせもらえるならチート魔法的なのがよかったよ……」


ブツブツ文句を言いつつも、試しに使ってみることにした。

確か横に起動ボタンがあるんだったな。

起動ボタンを押すと、思ったとおり目の前に半透明のプレートが現れた。

手元のペンタブの上に付属のペンで絵を描いていくと、目の前のプレートに下手な絵が浮かび上がる。


「うわー、難しい! 手で書くのとペンタブで書くのってぜんぜん違うんだなー。こんなんで本当にウィール オブ フォーチュンのキャラクター描けるようになるの? ううー、せめてディスプレイ画面に直接描き込めればなぁ」


四苦八苦しながらしばらく描いていたが、トイレに行きたくなったのでベッドを下りることにした。

よろよろと扉に向かって歩く途中、鏡に映った自分の姿に驚いて思わず足が止まる。


「な、な、な、なんじゃこりゃーーーーー!?」


目の錯覚と思いたい。

顔がおさるさんのように真っ赤っか……、とんでもなく腫れあがってますけど!?

ところどころに水ぶくれみたいなのもあって、ホラー過ぎる!


「お嬢様っ!? ああっ、目が覚めたんですね! ただいま旦那様と奥様を呼んでまいります!」


悲鳴を聞きつけて部屋にやって来た侍女のカーラは、大慌てで踵を返した。

しばらくしてバタバタと大勢の足音が聞こえてきたかと思うと、バタンと音を立てて力いっぱい扉が開かれた。


「チェリーナ! 目が覚めたのか!」


「チェリーナ! ああ、よかったわ!」


「チェリーナ! このまま死んじゃうのかと思ったよぉー、ううっ……、うわーん!」


扉口に立っているのは父のチェーザレと母のヴァイオラ、そして兄のチェレスティーノだ。

お父様とお母様は抱き合って喜び、2歳年上のお兄様は号泣している。


お父様は赤毛に琥珀色の目をした身長2メートル越えのゴリマッチョ、お母様は金髪碧眼の儚げな美人という美女と野獣夫婦だ。

ちなみにお兄様はお母様に瓜二つと評判の美人、私は……どっちに似たと思います?


そう、女の子が父親に似るのはどこの世界でも共通なようです、本当にありがとうございました。

いやでも、お父様だって髭を剃ってきちんとした服を着れば男前なんですよ?


ただ、魔の森に隣接したこの辺境伯領では、おしゃれよりも魔物退治のほうが重要なんで、お父様は山賊さながらの風貌でいることの方が多いんですけどね。

そんなお父様に似ていると言われる私って……。

あはは……ふふふ……。


そうだ、そんなことよりみんなに私の顔のこと訴えなきゃ!


「おとうさま、おかあさま、おにいさま……。チェリーナの顔が……、顔が!」


「チェリーナ……、医者はいずれ赤みは消えると言っていた」


「ああ……っ、かわいそうなチェリーナ! 少しでも痕が消えるように、ジルベルト先生の言うことを聞きましょうね」


「チェリーナ! 心配しないで。チェリーナのことは僕が守るからね」


家族が口々に慰めてくれるけど、え、もしかして治らない感じなんですか?


そこへお兄様と同じ年くらいの男の子がやって来て、遠慮もなくぐいぐいとお兄様を押しのけた。

白金の髪に紫色の目をした綺麗な男の子だ。

あれは……、誰だっけ?


「おい。目が覚めたのか」


「え……、どちらさまでしたでしょうか?」


「ふざけるな! 俺はクリスだろ!」


怒り心頭といった様子ながらも、男の子はクリスと名乗った。


「クリス……さま?」


おうむ返しに呼び捨てにしかけて、ギロリと睨まれる。


「お前みたいなブス、貰い手がないだろうから仕方なく俺が貰ってやる! ありがたく思え! フンッ!」


そういうと、男の子はドスドスと派手に足音を立てて去っていった。


ぽっかーん。

残されたプリマヴェーラ辺境伯家の一同はあんぐりと口を開け、目をぱちくりと瞬かせた。


えええっ、いま何が起こったのーーー!?





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