202、アバシ王国(11)
黒竜と
「ありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ」
早朝にもかかわらず国軍司令官やムララ子爵が見送りに来ている。
深夜の盗賊捕縛は報告されており、それに対しての感謝が述べられた。
あの盗賊は隣国であるヒハ国を拠点にしてヒハ国と往来していたようだ。
狙うのはムサシノ王国内だけだったようだ。
どうやらヒハ国の貴族と繋がっているらしい。
ムサシノ王国に被害を出すのが目的というところか。
これから国際問題になりそうだな。
住宅などを片付けて急いで出発する。
飛行船は離陸すると東に向かい海上に出る。
そして海岸から20km以上離れて北を目指す。
まずは黒竜大河の河口沖合だ。
「これは?」
「黒竜と戦っているときに空中に投げ出されたときのためのものです」
今、全員は戦闘服とでもいえる装備を付けている。
その上に付けるベストを配布した。
パラシュートの機能と救命胴衣の機能を持っているベストだ。
さらにパラシュートが破損しても風魔法で着地の衝撃を緩和してくれる。
防御の機能も少しはある。
このベストが壊れたら困るからね。
飛行船にも落下した時には着地の衝撃を緩和してくれる機能はあるのだが個人にも安全のためにこのベストの装備を渡した。
「それで黒竜対策についておさらいします。兎にも角にも逃げることを優先します。黒竜を倒すのは最後の手段です」
飛行船は昼前には黒竜大河の河口付近の沖合を通過した。
速度を上げる。
ここからの操縦はミドリさんとクレナイさんに任せた。
黒竜大河の北側20kmを西に進む。
「やはりいたか」
シホ国の北にあたる地点に黒竜が5体いた。
まだアバシ王国の北までは距離がある。
さらに北に行くか。
南のシホ国に入るのはまずい。
黒竜もこちらに気が付いて接近してきた。
それなら・・・・・。
黒竜の集団の中央に退竜銃を打ち込む。
効いているようだ。
中央に空間ができた。
飛行船の結界を強めながら全速力で黒竜の間の空間を通過する。
そして後ろに向かっても退竜銃を使った。
逃げ切れるぞ。
その時、
「賢者様、3時の方向上です」
油断した。
死角から黒竜が1体近づいてきた。
近距離からブレスが放たれた。
慌てて障壁を張ったが近距離で威力が大きかった。
飛行船のところどころに損傷がある。
仕方がない。
まだすぐ近くにいる黒竜に対魔銃を使用した。
一瞬で消えた1体の黒竜。
その様子に他の黒竜も警戒したようだ。
よし、距離を取り始めたぞ。
急いで進む。
しかし飛行船の損傷を考えると全速では無理だよ。
早くアバシ王国に入り南に行きたい。
焦る気持ち。
掌には汗が。
自分だけなら何とかなるのだが同行者もいる。
そしてやっとシホ国とアバシ王国の国境にあたる山は見えてきた。
山を左に見て進む。
ここまで来れば南下してアバシ王国だ。
左に進路を向ける。
黒竜大河を越えた時それがあった。
違和感を感じたよ。
結界?
これがアスカ神様が言っていたものか?
今までになく不快の感じだ。
同行者は感じていないのか。
黒竜たちは結界を越えてこようとしない。
やはり結界は異常なものなのかな。
飛行船の損傷を魔法で修復する。
うまくできないな。
時間がかかり効果が少ない。
こちらの消耗も激しいな。
邪神相手に大丈夫か。
これから大変なことになりそうな不安を感じながら飛行船は南に向かった。
お読みいただきありがとうございます。




