11 貴族
新しい朝だ。
頭が痛い。
二日酔いだ。
爽やかでない朝。
毒消し・回復魔法で。。。。
ああ『魔法のパン』の効果が切れたか。
確かに鑑定もできない。
一口『魔法のパン』を食べる。
二日酔いが吹っ飛んだ。
鑑定能力も復活。
村長宅へ行くとホールには沢山の屍が。
生きているけど。
どのくらい飲んだ?
ルンさんに誘われて食堂で朝食。
今朝はパンとジャムと目玉焼き。
温野菜とウインナソーセージと紅茶。
「今日はいかがなさいますか?」
「村の中を見学したいと思います。特に工房に興味があります」
「では私が案内しましょう」
「村長の仕事は忙しくありませんか?」
「大丈夫です。おかげさまで昨日、大きな懸案が片付きましたから。今日から鉱山も平常作業に入っています」
食事を終え、寛いでいると村長宅の使用人が入って来た。
「失礼します。ドタ伯爵が来ています」
ドタ伯爵は『錬金と錬成の腕輪』を手に入れたがっている貴族だそうだ。
適合者でなければ使えないのに欲しがっているようだ。
嫌な予感がプンプンする。
応接室で村長・村の幹部とともに偉そうな態度の伯爵と会う。
「村長、何をのんびりしている。坑道が崩落して大変なのではないか?救助活動はどうした。私たちが手伝ってやるぞ。鉱山の専門家もいる。魔術師もいる」
「もう終わりましたから必要ありません」
「終わった?遺体の収容をあきらめたのか?薄情なものだな」
「勝手に村人を殺さないでください。誰も死んでおりません。全員無事救出しました」
「・・・そんなはず・・。では治療を手伝おう。部下には優秀な治療師がおる」
「それも終了しています。重傷者も完治しています」
「そんはずなかろう。重傷者が完治させられ治癒魔法士は少ない」
「いいえ、事実です。救助も治癒もこちらのタカシ様の協力で終わっています」
「そうなのか。なら鉱山の復旧を手伝ってやろう。いつまでも復旧しなければ大きな損失であろう。村にとっても王国にとっても。」
「そちらもすでに終了しております。すでに本日朝より採掘を再開しております」
「馬鹿な安全対策も施さずに採掘を再開するなどあってはならない。とんでもないことだいつまた崩落するかわからいぞ」
「安全も確認しました。お疑いなら見てみますか」
「よし見てみよう」
門で待つ伯爵配下の技術者や兵と合流して鉱山に向かう。
伯爵一行30名の中に現場から見つかった崩落の魔法道具の製作者・使用者と同じ名前の男がいるのを鑑定で確認した。
こちらは村に駐在の衛士、村の警備兵、村長と村の幹部。
鉱山関係者はすでに鉱山に行っている。
ロク様は結界で姿を隠しながらついて来ている。
鉱山に着いた伯爵一行は驚きを表した。
自分の領土で経営している鉱山と比べたのか、以前視察した時と比べたのか。
様々な設備に目を奪われている。
中に入り天井や壁の強固な状態にも驚愕している。
再びの破壊活動を心配したが、そのような道具は持っていないようだ。
まあ、今度はそのくらいでは破壊できない。
これでは安全のことで文句をつけることはできない。
崩落地点付近に着くと何人かが不審な行動をとり始めた。
そう、魔法道具の製作者の男たちが何かを探している。
おそらく証拠になりえる魔法道具を探しているのだろう。
救助活動や復旧活動の中で証拠隠滅を行うつもりだったのか。
目論見は外れたな。
「崩落の土砂はどうしたのかな」
「もう運び出して片付けましたよ」
外の広場に戻って来た。
伯爵一行は何もできなかった。
まあさせなかった。
広場には村長のルン様は待っていた。
鉱山では女性が坑道に入るのを嫌うからだ。
「納得していただけましたか?」
「こんなに早く復旧するなど考えられん。我が配下が総出でも昼夜かけても三日はかかる」
昼夜働かせるのかブラックだな。
うちの職場より。
せいぜいうちは朝7時から夜10時までだよ。
「タカシ様が来てから救助と治療に3時間、休憩後復旧に3時間でした」
「まさか伝説の鉱山魔法」
伯爵はタカシの腕輪を見た。
「『錬金と錬成の腕輪』。それを使ったのか」
「タカシ様は適合者です。腕輪が受け入れてくれました。もうタカシ様だけしか使うことができません。但し、腕輪の力を使われたのは復旧だけ。救助はタカシ様の結界と障壁、治癒は治癒魔法によって行われました」
「タカシとやらは指南書も理解できたということか」
「ええ、できましたよ」
「それでは、タカシとやら我が伯爵領で召し抱えてやろう」
「お断りします」
「なんだと、伯爵当主の言うことが聞けないのか。ヒカワ村など事故を起こしてその責任を取らなくてはならない。そのような所に固執するのは得策ではないぞ。王国の財産に被害を与えた村などすぐなくなる」
「伯爵、事故といいましたが今回の事は、不審者による破壊工作です。目撃者も多数います」
「鉱山で働く者のそのような証言など役には立たないは。儂の証言なら有効だろうけどな。身分を知れ」
この貴族に対してイラっときた。
「証拠はありますよ。坑道の復旧の時に崩落の魔法道具を見つけてあります」
「それはどこにある部下に鑑定させよう」
こちらが鑑定できないと思っているようだ。
証拠隠滅するつもりだな。
ルン様が答えた。
「すでに王都に運んでおります」
「ここで鑑定すれば犯人が分かるものを。この中に犯人がいるのではないか。そのタカシなどは怪しいな」
「タカシ様は関係ありません。事故の時、カタクラ村におられました」
「カタクラ村だと」
おや、反応がおかしいな。
この伯爵はカタクラ村の事件にもかかわっているのか?
「ところで伯爵様、事故に対してお早い対応でしたね、どこでお知りになったのですか?」
「う、こちらに向かう途中、商人からから聞いて急いでやって来た」
「そうですか。それにしてはこの陣容まるで事故が起きることが分かっていたような。それから事故が崩落ということをよくご存じでしたね。商人がその時点で知っているとしたら事故ということだけだと思います。崩落という情報は王宮にしか知らせておりませんでした」
「王宮からも知った」
「王宮には救出終了、全員無事、復旧完了ということもお伝えしてあるのですが、王宮から情報を得たというのなら何故崩落ということしかご存知なかったのでしょう?崩落という事実だけを知っているのは崩落を起こしてすぐ逃げた犯人だけですよね」
「部下から聞いた内容だ。まるで我々が犯人だと言われているようだ。失礼ではないか。不愉快だ」
自分の部下が犯人だと言ってるようなものだよ。
「私は事実を申し上げているのです」
「貴族を愚弄するのもたいがいにしろ。成敗しくれる」
「自治領の村の幹部は貴族と同等の立場ということをお忘れですか」
「うるさい、こ奴らを捕らえよ。殺してもよい。この鉱山は私が経営してやろう」
あら、本音が出たようだ。
兵が剣を抜いた。
『結界と障壁で防御しろ。村人と衛士を守るぞ。すぐに援軍が来る』
ロク様が姿を現した。
カキーン、カキーン。
障壁が剣を弾く。
今までより広範囲に強い障壁と結界を張れるようになってきた。
救助活動や復旧活動で魔法を使った影響か?
結界のコントロールも細かくできるようになってきた。
『結界拘束で鎮圧しては駄目なの?』
『権限がないだろ。すぐ近衛衛士が来るから任せればよい』
武装した一団が近づいてきた。
先頭クレン隊長だ。
「剣を引け」
クレン隊長が一喝する。
「伯爵、これはどういうことですか」
「身の程を知らない者に天罰を加えたのだ」
「身の程を知らいないのはそちらのようだな。副隊長が崩壊の魔法道具を鑑定して製作者と使用者を特定している。犯人は伯爵の一行にいるようだ」
青くなっている男が前に引きずり出された。
「お前の犯行で間違いがないな」
男が崩れ落ちると伯爵が叫び始めた。
「私は知らない。私には責任はない。この男が勝手にやったことだ」
「知らなくても伯爵にも監督責任はありますよ」
部下は伯爵を裏切らないように魔法で拘束されているのが鑑定で分かった。
黒幕はそのままということになりそうだ。
伯爵一行は武装を解除され、連行されて行った。
護送は副隊長が行うそうだ。
今回の状況の報告は村から同行していた衛士が行ってくれる。
ルンさんが記録の魔法道具で音声を記録していたらしい。
ボイスレコーダか?
隊長と数人の近衛衛士が残った。
「タカシ様、カタクラ村のコン様から伝言があります」
「コンさんから?」
「報酬を受け取りがてらカタクラ村へのおいでをお待ちしています。とのことです」
「早めにいかないといえないかな」
「む~」
「うん、ルン様どうしたの?」
「コンとはどんな関係?」
「え、知り合い?友人?」
「コンにはコンさんで私には様付け、私にもさん付けにしてください」
「わかりましたルンさん。ならば私に対しても様付けは止めてください」
「はい、タカシさん」
「ルンさんとコンさんはご友人ですか?」
「・・・まあ、悪友かな」
「悪友ねえ。姫様を入れて王都名物『お転婆三人娘』だよな」とクレン隊長が呟いたのは聞かなかったことにした。




