第9話 魔獣狩り 後編
「彩音!ったく、ああ、俺も行くぞ!」
覚悟を俺も決め、あのオルガベスという獣の群れに走り出した。すると向こうも気づき、3頭がこちらに向かって襲い掛かってきた。
「獣だろうが何だろうが!」
俺はあの時のことを思い出しながら、無我夢中で姿勢を低くしながら、真っ先に突っ込んできたオルガベス一頭の首元を槍で思いっきり突き刺した。するとそのオルガベスは後ろに後ずさり、その場に倒れた。
「はああ!」
その時彩音の掛け声も聞こえ、その方向を見ると彩音も無事にオルガベスを一頭、薙刀の一撃で打ち取っていた。
「戻っていいぞ。お疲れさま。そこまで脅威じゃないにしろ、勇気があるのはわかった。あの群れに挑むのに腰が引けるやつも少なくなかったのでな。」
「そ、そうだったのですか。しかし、あれよりも強いのがたくさん、いるんですよね?」
俺は少しだけ不安になりそう尋ねた。しかしハーネイトさんは俺の言葉を聞いても余裕の笑みを崩さず、俺と彩音に質問をした。
「そうだが、筋はいい。何か武道か何かしていたな二人とも。」
「た、確かに。剣道や空手はしていましたが。」
「わ、私も薙刀をずっとしていましたので。でも怖かったです。」
俺はハーネイトさんにそう伝え、彩音は少し怖がりつつも、そうアピールしていた。それを聞いたハーネイトさんはなるほどといった表情をした後こう言った。
「道理でな。まあいい。まずは初戦、合格としよう。」
「そ、そうですか。はい。」
「これからも、今のような感じで戦っていくのですか?」
「まあそうなるな。ただそれだけだと霊量子の運用技術が上がらない。私もリリエットに鍛えられたものだ。」
「つまり、どういうことですか?」
ほかに何かするべきことがあるのだろうかと俺は考え、そう尋ねた。するとハーネイトさんは驚くべきことを言い出した。
「早いが話、対人戦も行ってもらう。」
「それは、マジですか?」
「ああ。だがけがをしても私がすぐに治してあげるから気にするな。回復魔法も得意でな。」
それは少し違うのではないかと思いつつも、話を聞くとどうしてもあの魂食獣を倒すにはその力の強化が不可欠であり、魔獣などの戦闘よりもそちらを優先した方がいいという彼のアドバイスであった。
つまり、戦う基礎は一応俺も、彩音もできているということであり、その先にすでに進む準備はできているという誉め言葉であったという。
しかしあの猛者たちと戦わないといけないのかと思うと正直気が引けていたのは確かであった。
誰もがあの人たちを見れば、迂闊に挑むことなどしないだろう。そりゃ、あの時は俺も必死で街を守るために戦おうとしたし無茶なことをしたなと思っていた。だからこそ少々抵抗があった。
「本気で言っているのですか?」
「そうだ。基本的にこれからは魔獣の退治と対人戦を交互に行い、内なる力を呼び覚まさせる必要がある。」
どうもその霊界人たちと戦うことで、霊界に存在する霊を従える力を手にするか、己の中にある魂が霊となり形となるという。どちらになるかはわからないが、ハーネイトさん曰く元から霊的能力がある場合後者になる確率があり、そちらの方で身に着けた力はオリジナルのものになるという。
「そうなのですね、分かりました。それであの化け物を倒せるならば。やります!」
正直嘘だろうと思ったが、同時に彼女の意思の強さに改めて感服していた。
「俺も、やります。是非とも、ご指導のほどよろしくお願いします。」
俺も彩音の姿を見て、腹を括った。今はただ前を見てやるしかないと。
そうして俺らはハーネイトさんの事務所に戻った。それと俺らが仕留めたオルガベスという獣はハーネイトさんが鮮やかに解体し、肉とそれ以外のものに分けると不思議な力で転送したみたいであった。
彼には多くの秘密が存在するというが、この自在に物を召喚したり消したりする力は、魔法とは違う能力により運用されていると彼自身から話を聞いた。
一つ言えることは、とにかくハーネイトさんはあらゆる面において規格外であるということであった。その後部屋に戻ると、ハーネイトさんからいくつか本を渡された。これを明日までに一通り、目を通しておけと言われ、彩音と共に読書をすることになった。
「魔獣全書」「霊量子についての報告書・1~5」「人理消滅の危機に関する報告書」というどれも分厚い、まるで辞典か何かのような本であった。
正直このような本を読むのは彩音はともかく俺は少々苦手だったが、まずは魔獣全書から読むことにした。