第7話 英雄に仕える3人のメイド
「ハーネイト様から命を受け、あなた方の当面の支援をさせていただく召使です。」
「そう硬くならなくともよい。」
「困ったことがあれば、私たちに聞くとよい。」
今俺たちの目の前にいるこの3人は、ハーネイトさんが正式に雇っているメイドと執事だという。しかしその異様な姿に、思わず俺も彩音も息を飲んでいた。
最初に俺らに声をかけたミレイシアという、青銀色の美しい長髪の女性メイドは落ち着いていて、クールビューティーな印象に見えるが、その中からは溢れ出るほどの邪気というか、殺気が外に出ていた。まずこの人はただものではない。まるで鬼か悪魔のような印象に見えた。それでも格好自体はよくいるメイドらしく、しかも綺麗に着ておりその厳格さとまじめさが伝わってきていた。
次に声をかけ、力を抜いてくれといった老人もその顔に似合わないほどの若くみなぎる闘気がひしひしと伝わってきており、年季の入った、しわの多い顔が厳しかった俺の父方の祖父のことを思い出させた。その祖父に剣道を学び、多くの大会で優勝したのである。まさに目の前にいるこの男、ミロクという人物はそれであった。
最後に、一際大きいというか、ユミロさんの次くらいに大きい、厳つい男。よく読んでいる、世紀末的なあの有名漫画、それに出てくる覇王のような恐ろしい風貌に、これまた恐ろしいほどその体と長く伸びる金髪、そして顔に似合わないゴスロリの黒と白のメイド服。名前をシャムロックというらしいが、恐ろしくて声をかけるのも躊躇してしまうほどであった。
つまり、この3人はハーネイトさんの部下に相応する、相当な実力と存在感を持っているのであった。
「明日から早速霊量子の扱い方に関する特訓と、基礎的な修練を行います。また実際に魔物狩りを見て、敵をよく観察してください。あなた方を襲った獣たちにも、明確な弱点があります。」
「冷静に、よく物を見るのだ。二人とも。勝機はそこにあるのだよ。」
「言っておくが、我らが仲間は全員が猛者である。心して挑むがいい。」
そういい、その後ミレイシアさんたち3人は、町の施設や周辺に何があるかを説明してくれた。その後彼らは部屋を後にした。
「なんか、今まで見たこともない、力強さを感じる人ばかりですね。響はどう思う?」
「あ、ああ。確かに全員が只者ではないことは、よく分かる。だからこそ、学ぶものもたくさんあるんじゃないのか、彩音。」
「そうね、響もたまにはいいこと言うわね。フフフ。」
「たまにはって、いつもいいこと言っているだろうが。」
こうして俺はしばらく彩音と話をし続けた。異世界に来ているのに、全くそう感じることなく、地球にいた時と同じように話ができていることを互いに不思議だなと思いつつ、感謝をしていた。あの女神に。そうして話をしていた時、音もなく目の前に、一組の男女が部屋の中に立っていたのを見た。それに俺も彩音も身構えた。
「あなたたち、ハーネイト様の目の前で不謹慎なことを言ったみたいですね。」
「まあまあ、マスターも注意しただろうし落ち着こうぜ風魔。っていててっ!」
「南雲?下手すると危なかったのよ?緊張感、持ちなさい。」
「ふ、ふへえい。」
この男女は恐らく、先ほどのレストランの件で来たのだろう。そう俺は思った。そして二人とも、どことなく日本の忍者に非常によく似ている。いや、その者であった。
「ふう、まあ気を付けてよね。新入りさん?事情を知らないとはいえ、ハーネイト様はそういった話は嫌うのです。」
「出会う前から、女性が苦手なんですよマスターは。そこだけ気を付けていただければ、何の問題はないでござる。」
金髪のはねた髪が美しく、目つきは鋭くも美しい水色の忍び装束を着た女性。彼女は風魔と言い、どうもこの世界において存在する忍の中で最も優秀な存在だという。
そして、天然パーマがひどい茶髪の、緑色の忍装束と腰に幾つも武器や薬品を入れているような入れ物を身につけた男は南雲といい、各地で広報活動や忍者本来の業務を行っている忙しい男であるという。
「分かり、ました。以後気を付けます。」
「分かったならいいわよ。それと、明日のために早く寝るといいわ。時間も、私たちの先祖の故郷、地球とここは何ら変わらないわ。朝も夜もしっかりあるから。明日の朝9時より、鍛錬を開始すると、ハーネイト様から伝えるように命じられたので来ました。」
「ということだ、驚かせて済まないな!んじゃ失礼するぜ。」
そうして二人は瞬時にその場から姿を消した。
この世界はどこかあべこべというか、一定の法則は成り立ってはいるものの、やはりファンタジー感がどこかで感じられる世界だと俺は率直にそう思った。微生物でできた魔人に只者ではない気を放つ人たち、霊の力を使う者たち、そして数々の偉業を成し遂げた英雄、ハーネイト。個人個人がそれぞれ持ちうる力を最大限に生かして、この時と場所を過ごしているのだなと感じて単純に、すごいとしか思えなかった。
また、ハーネイトさんの元に集う人たちは多種多様で、人種と職業のるつぼともいえるようなものであった。それだけ、彼の器が大きいのか、心が広いのか。本当にすごい人たちに出会ってしまったなと俺は感じていた。
しかし、ハーネイトさんはあれだけの力を持ちながらなぜ謙虚なのだろう。それだけがどうしても気になっていた。
「本当に、不思議な人たちね。」
「そうだな。しかし見ていて、飽きないかもな彩音。」
「そうね、響。じゃあ、そろそろ寝ましょうか。」
そうして、俺が部屋の明かりを消して、二人とも眠りに入ることにした。