第6話 力の目覚めと歓迎会
「ここでいいのか。入ります。」
俺と彩音は部屋を出た後、一回の応接間に入るためのドアをノックし、中に入った。するとそこにはまだ顔を合わせていない多くの人がそこでくつろいだり、互いに議論を行っていたりと自由に過ごしているのを確認した。奥行も広く、奥には巨大なモニターがあった。そして数人の白衣を着た人たちが熱い討論を行っていた。
その中にはユミロさんもおり、先ほどの服装とは違い彼の背格好や体格に合った白衣を着ていた。
後で聞いた話だが、ユミロさんは大学の教授クラスの知識と知能を持っているらしく得意分野の人体強化や薬品の開発においては特に秀でていたという。
本当に見た目だけで判断してはいけないなと思っていたら、リリエットさんがこちらに来て声をかけてくれた。
「来たわね。ほら、これでいいかしら。響は槍と刀。彩音ちゃんはこのリーチの薙刀でいいかしら?」
「あ、ありがとうございます。」
「は、はい。ちょうどよい長さ、ですね。」
俺と彩音は共に、リリエットさんに礼をした。そして手に武器を持つと、その見た目に反して異常に軽いことに気づいた。見た目こそ銀色で、重量感があるように見えるが、持った感覚だと1kgもないことが分かる。一体どういった技術を用いればこの武器を作れるのだろうと俺も、彩音も同じく不思議な顔をしながら武器を見ていた。
「軽さが気になる?それはハーネイトが生み出したイジェネート能力と霊量子で作り上げた専用武器よ。なくさないでね?」
そしてリリエットはさらに説明を加えた。霊界人は物質の最小単位であり、すべての物体を構築する元になる霊量子の扱いに長け、慣れれば一から武器をあらゆるところに存在する霊量子で構築できると説明をしてくれた。
さらにイジェネートという、金属を生成、抽出、再構築できる能力で基本となる武器の骨格を作り出し、それに霊量子で強化したものが、手渡された武器であることを説明してくれた。
「どう? ハーネイトに感謝なさいな。さあ、それと私が力の解放を行うから二人とも、そのまま力を抜いていなさい。」
俺も彩音も、体の力をその場で抜き、立ったままでいた。するとリリエットさんは、俺らの胸に手を当てた。すると急に体が光だし、次の瞬間、体から溢れ出る何かを感じ取っていた。それはリリエットさんたち霊界人が時折放つそれと、同じものであった。
「さあ、目覚めるのよ。」
「うわわあああ!」
「きゃああああ!」
そしてリリエットさんが手を離すと、手にしていた武器の表面が青白く見えるのが分かった。
「二人とも、手にした武器が青白く輝いて見えるはずよ。」
「は、はい。よく見えますが。」
「私もです。綺麗ですね。」
その言葉に彼女はにこっとしながらシャックスたちを呼んだ。
「よかったわ、二人とも目覚めたわよ。おめでとう。後はひたすら戦って、霊量子を更に感じ取るのよ。」
「は、はい!」
「分かりました。」
思わず元気よく俺は返事をした。そしてこれからが大切だとシャックスさんたちは話してくれた。
その後夜になり、俺と彩音を歓迎する会が開かれた。その時に初めて建物の外に出たのだが、その町はまるで地球のヨーロッパ、それも地中海にありそうな、学校の教科書で見たような街並みと、その中央部に立つとても似つかわしくない、例を挙げるなら東京の中心部にありそうな巨大高層ビルが建っていた。空気も温度も、風もまるで地球と変わらない。むしろ呼吸が楽なように感じる。しかし月は2つ夜空に浮かんでぼんやりと光っていた。
そうして建物の近くにあるレストランに戻ってきたハーネイトさんたちに案内され、豪華な食事が振る舞われた。どれも地球のものよりもおいしそうで、豪快な料理の数々。俺も彩音も、普段以上に食べていた。肉も野菜も、パンもスープもある。本当に異世界なのかと疑うほどに、その味は地球で食べられるものと変わらない、いやそれ以上においしいと感じていた。
「いい食べっぷりですね。しっかり食べて、しっかり修行しないと。」
「そうですね、シャックスさん。あの、あそこにいるのは…。」
「ああ、あれは見ない方がいいですよ。彼女、相当な大食らいでして。」
俺はやたら激しく爆食している、見慣れた人の姿を見ていた。そこにハーネイトさんがやってきた。
「ふふ、相変わらずだなエレクトリールは。桁違いに食べる。」
「大丈夫なのですか?お金とか食材とか。」
彩音がハーネイトさんにそう尋ねた。
「それは私がお金持ちだから気にするな。まあ、彼女の健康が気になるが、彼女の発電能力には多大な食糧が要求される。必要経費だ。」
それを聞いて俺は再度驚いた。この人物がいかに恐ろしく、すごい存在であるか。そしてエレクトリールが電気を自在に操れ、その発電量は恐らく、住んでいた日本でいうならば原子力発電所数十基分に相当するほどの発電能力を持つということを聞き、強者ばかりが揃っているのだと感じていた。
「そ、そうなんですね。ハーネイトさんは食べないのですか?」
「あ、ああ。私はそこまで食べなくても持つので。それと食費とかは気にしないでくれ。必要なものがあれば経理のジュラルミンに話をつけてくれれば、大体はお金出してくれるから。」
そういいつつも、ハーネイトさんは上品に肉を口に運び食べていた。その後も聞けるだけ質問をして、話を聞いた。この世界の通貨や技術、どんな人種がいるのかを。
どうも通貨は独特のものを使用しているが、レート自体はドルのようなものであり、すぐに理解できた。また魔法工学という、魔法使いが考案した二つの技術を合わせた結晶と呼べるものが存在すること、またサッカーとハンドボール、ラグビーを合わせたような球技、「ブラッドル」という競技が盛んであること、人種も古代より住んでいる古代人や、地球人との混血、悪魔と人の混血に地球人の人種など多種多様なものが存在していることが理解できた。
それについて話を一通り聞いた俺は、かなり不思議な世界だなと思いつつも、この世界に興味がわいていた。今までそういった文明や歴史、技術などさほど興味もなく、学校の授業でもそこまで熱心に話を聞くことはなかった。しかし今は違っていた。そしてもともとそういうものに関心があり、成績優秀な彩音はさらに深い質問をハーネイトさんにぶつけていた。
「では、大気中にマナという魔力があり、それを効率よく回収して無限機関とも呼べる装置を作り出したのがあなたなのですね?」
「あ、ああ。おかげで失われた文明の数々も少しづつ息を吹き返しているよ。」
「それはすごいですね。ではその魔法使いってのはどういった人たちなのでしょうか?」
「ああ。それは…。」
二人の会話を聞いているとだんだんついていくのがしんどくなってきた。しかし彩音のそう言ったところは本当に助かっていた。おかげで俺も聞けなかったことが分かり安心していた。ハーネイトという男はこの世界においては特に有名人であり、まさに英雄と呼べる存在であった。
しかしそれに反して見た目はそこまで派手でなく、どことなく質素であった。また性格も、その偉業を傘に偉そうな態度は決して取らず、しかし余裕のある安心感を与える振る舞いをするものであった。もしこの人が上司なら、社会人になったならどれだけ仕事をしやすいだろうかとふと将来のことを思っていた。
そして俺はつい気になって、ハーネイトさんにある質問をした。
「そういえば、ハーネイトさんは彼女とか入るのですか?」
その時、レストランの中の空気が一瞬凍ったようになり、すさまじい殺気が俺の全身を駆け巡るように襲ってきたのだった。」
「いないけれど、あまりそのような質問は、しないでね?」
女性のような声でそう彼は言い、放たれていた殺気は収まった。まずいことを口にした。そう理解し、少し黙って食事を続けた。
そのあと元の建物に案内され、最初に寝ていた部屋まで来た。しばらくはこの部屋が俺らの物になるという。そしてその案内を行ってくれたのが、ハーネイトさんに仕えるという3人のメイドであった。