第5話 霊界人という5人の先生たち
「失礼します。」
「失礼するわね。」
今度は5人組の男女が入ってきた。正確には一人は人にしては大きすぎる巨人にも見えたが、彼らの仲間だろう。俺は5人をよく観察してみた。なぜならば、この人たちからもあの街を襲った獣と似たような気を感じていたからである。
まずひときわ巨大な、黒褐色の肌の巨人。髪はいくつかをワックスか何かで固めつんつんに伸ばし、時折眼光が光っていた。威圧感を感じるが、危害を加えるようなことはなさそうな雰囲気であった。
2人目は俺らとさほど年が変わらなそうな、藤色のふんわりした短髪の少女であった。黒と白で上下をまとめた現代的な服装に銀色の半袖の上着、背中には剣らしきものを背負っていた。とても美人であったが、その目つきは幾多の戦場を掻い潜ってきた猛者そのものであった。
3人目は赤銀色の長髪で右目を隠しており、全体的に肌が白く、人形か何かに見えた糸目の男であった。背中には、巨大な三日月形の剣のような武器を背負っていた。
4人目は狩人がかぶりそうな帽子に、黒地に幾多に花やモミジの葉っぱが描かれた不思議な上着を羽織っており、その下にはワイシャツと袴という現代にしてはかなり謎の着こなしをしている30代くらいの男だった。
そして5人目は黒紫色の燕尾服を着た、左目だけにレンズをかけたオールバックの男だった。その両隣には、二人の少女がかすかに見えた。
「あなたたちは一体。」
「明日からあなたたちの先生として、また同胞のものとして共に戦う者です。ハーネイトから話は聞いたでしょ?霊界についての話を。」
そして藤色の髪の少女が霊界についてさらに話をしてくれた。そして俺らは互いに自己紹介することにした
「俺の名は、結月 響。17歳、だ。」
「私は如月彩音と申します。響君と同じ17歳です。」
俺たちの名を聞き、彼らも自己紹介を始めた。
「そうか、伸びしろが期待できそうだな。んじゃ俺からか。俺の名はボガーノード・シュヴェルアイディック・イローデッドだ。」
「俺、は。ユミロ。ユミロ・ネルエモ・アレクサス。ユミロ、でよい。」
「私はリリエットよ。長いからリリエットさんでいいわ。」
「私の名前はシャックス・ファイオイネン・ヴァリエットと申します。以後お見知りおきを。」
「私はシノブレードという。今後君たちの、教官にあたる人物でございます。」
全員の名前と顔を一致させ、伯爵たちとは違った個性的集団であることは理解した。
全員が一目見ただけで二度と忘れられないような姿、特にユミロという巨人とシャックスという麗人、ボガーノードという変な着こなしをした男は何があっても忘れないだろう。俺はそう感じていた。そして先ほどの言葉が気になり、話の続きを聞こうとした。
「そういうことは、あなた方が霊界人というわけですか。そして同胞、俺らにも力があるのですか、あなた方と同じ力が。」
「それは、今後の修行と潜在能力次第ですなあ。」
「まあ、俺らの指示に従って修練すりゃ、素質があればどこまでも強くなれるさ。ハーネイトに霊界人の技を教えたのは俺らだしな。」
俺の言葉にシノブレードとボガーノードがそれぞれこう答えた。つまり、女神の言った通り努力次第だと。しかしそれならわかりやすい。昔から武術や音楽でも努力を重ね続けてきた俺は心の中で興奮していた。そして彩音はまたこちらが気になっていたことを先に口に出した。
「ハーネイトさんにも同じ力を感じていましたが、彼は最初からその力を持っているわけではなかったのですか?」
「何か、裏のある話に聞こえる。」
その答えはリリエットさんとボガーノードさんが答えてくれた。
「ああ、ハーネイトはとっても特殊でね。説明には時間がかなりかかるわ。しかし私たちとは別次元で強いのは明らかよ。通常、霊界人は1つ、ないし3つの霊的な存在を従える、または友にできるの。だけど彼は……。」
「ハーネイトはそれをはるかに超える、243もの悪魔や天使、魔人などに変身できるのだ。その成り立ちも特殊過ぎて、理解に時間がかかったぜ。おかげで指導には手を焼いたぜハハハ。」
そういいながら、二人は互いに顔を合わせながら少し困った顔をしつつも、すぐに笑顔に変えてそう説明してくれた。そしてユミロさんが俺たちに話しかけてきた。
「二人とも、後で俺が作った薬を飲むといい。身体能力の強化、できる。傷もすぐに治るようになる。」
「あの見るからに飲むのを躊躇するあの液体ですか、確かに効果は期待できますがねえ。」
ユミロが俺たちに何か薬を飲むとよいと提案してきた。しかしシノブレードという男の口調から、嫌な予感がしていた。
「はは、そ、そうですか。」
流石の俺も苦笑いするしかなかったが、話をしてこの人たちは楽しそうに生きているなと感じていた。この世界も、地球とよく似ているがそれ以上に過酷な面があるというのに、全員が生き生きとしていた。
「まあ、それは置いといて。後で準備ができたら、リリーとかいう小悪魔の言うとおりに動いてちょうだい。それと戦うための武器を準備しておくけど、何がいい?」
「そう、ですね。槍とか刀とかありますか?」
「薙刀、というのはわかりますか?」
俺は音楽舞闘でよく使っていた槍や刀を、彩音は薙刀が得意でそれを選択していた。
「二人とも近接がお得意ですか、勇気がありますね。では後で、霊界人仕様の武器を用意しておきましょう。ええ、ちゃんとそのような武器はありますよ。」
「てっきり後衛職用の武器を選ぶかと思えば、なかなか根性あるじゃねえか。おもしれえ。しっかり鍛えてやるからな。覚悟しとけよしとけよ? 」
シャックスとボガーノードの話を聞いて、どうやら気に入られたことだけはわかった。特にボガーノードは背中に巨大な槍を背負っており、同じく槍を使うものとして、師範としては申し分なさそうだと俺は感じていた。それに彼の雰囲気がよく頼っていた従兄弟のようで、どこか懐かしかった。
「では私たちも一旦失礼するわね。」
「待ってるぜ、響と彩音。」
そういいながら彼らは部屋を出て行った。不思議な人たちだなと思いつつも、なぜか安心していた。彩音もあまり普段は笑わないのに、いつになく笑っていたのを見て安心していた。
そして俺は彩音と目を合わせ、ベッドから降りると用意されていた服を身につけた。実にサイズがよく合っている。事前に調べたのかと思うほどにその服は柔軟に、よく体にフィットしていた。デザインも落ち着いた色柄ながら、装飾などが地味に凝っていて、作った人のセンスの高さが伝わってきていた。この地球とは違う世界の技術も流石だなと感心しつつ、俺は彩音とともに部屋を出た。