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第3話 目覚めた所は異世界だった


「はあ、はあ。ここは、一体。」


 ようやく目覚めると、白い天井が見え、俺ははっと上体を起こした。そして左となりを向くと、彩音も同じように起きていたのを確認し、思わず声を上げた。よかった、本当に女神の言うとおり、彼女も無事だったと。


「彩音!」

「良かった、響くん。」

「助かったのだな、俺たち。」

「そうね。」


俺はそう言いながら今いる部屋を見渡した。どこかの事務所のような、しかし個人の家にも感じる部屋の雰囲気。少しだけ殺風景と言うか、余り物がおかれていない白地の壁の部屋だ。そして非常に、綺麗に管理されている部屋だと気づいた。

 誰かの家なのだろうとは思いつつも、それにしては違和感を感じていた。そして正面を向いたとき、一人の男と目が合った。


「目が覚めたか。」

「あなたは、あのときの!」

「なんだ、姿が見えていたのか。まあいい。」


男はこちらに気がつくと、組んでいた足を戻し椅子から立ち上がり、俺らのいるベッドの方まで向かってきた。


「私は、ハーネイト。ハーネイトと呼んでくれ。君たちの名は?」

「結月 響だ。」

「如月彩音です。」


 その男は俺らの名前を聞くとにこっとした表情をし、さらに傍に来た。


「響くんと彩音さんね。分かった。」

「……ハーネイトさん、ですか。ここはいったいどこなんですか。」


俺は目の前にいる男、ハーネイトに声をかけた。そしてよく顔を見た。髪はほぼ黒に近い濃い緑色で、両側に伸ばし、また後ろ髪もかなり長く伸ばしてリボンかなにかでひとつにまとめていた。

そして顔立ちは、非常に美しく女性のようにも見えるが、目付きや他の部分から一応男性であることはわかった。

そして俺の質問にハーネイトという人物は驚く言葉を穏やかな声で放ってきた。


「少なくとも、君たちの故郷ではないな。」


それを聞き、俺は動揺を隠せなかったが、あの女神の話は本当だったのだと改めて理解できた。


「あなたが、俺と彩音のことを助けてくださったのですか?」

「そうだ。危なかったよ本当に。あと少し遅れていたら、魂ごとあれに食べられていた。」


俺はその事について彼に質問した。街を襲った化物の正体についてを。


「ああ、あれは霊界からきた獣というべきか、魂食獣というやつだ。」


それに関してハーネイトは詳しく丁寧に説明をしてくれた。

 その魂食獣というのは、霊界というさらにこことは違う別の世界から来た、あらゆる魂を霊界に運ぶ存在であり、時に強大な力を持つ獣が別の世界を荒らすことがあるという。

 それはこの世界でも例外ではないという。そういった存在や、また別の世界から来た侵略者たちを討伐しているのが、この男が率いる組織なのだということは説明の中で理解できた。


「そんな化け物が、俺たちの世界にもいたのか。」

「そういうことになるな。」

「ハーネイトさん、ですか。それはいつ頃から地球に来ていたかわかりますか?」


 今度は彩音がハーネイトに質問をした。彼女も不安がっていた。そしてそのバケモノ、魂食獣がいつごろから存在していたのか、俺も気になっていたことを彼女は質問してくれた。


「正確にはわからない。だが昔から、ごく稀にそういう案件があったのは事実だ。活発になった理由は、詳しくは不明で調査中だ。」

「そう、ですか。あの、私たちの街に他に、生存者はいましたか?」


彩音が彼に訪ねた。お互い、親や友達があのあとどうなったのかがどうしても気になり、頭から離れなかった。

だがハーネイトさんは残念そうに首を横に振った。つまり、あの街で生き残ったのは俺と彩音の二人だけということが確定した。


「そうですか。」

「母さんも、友達も守れなかったのかよ、畜生…っ!」



俺はその事実を聞き、無性に涙が込み上げた。彩音も同じように涙をうっすらと流していた。幼いときに警察官だった父さんが住民を守るために、果敢にあの化け物に立ち向かおうとして命を落とした。それを俺はただ見ることしかできなかった。だから代わりに母さんと妹のことは、父さんの代わりに全力で守ろうと、あれだけ武道に打ち込んできたのに、なぜだ!己の無力さが悔しい、っ。

そんな俺に、ハーネイトさんは優しく声をかけてきた。


「強く、なりたいか?修行次第で、二人ともあの獣を容易に倒せる存在に、なれる。そういう素質を感じるのだ。」


一体何をいっているのだ。俺たちが強くなる素質があるだと?だがこの人の言うことは嘘をいっていない、そう俺は感じていた。


「私も、友達のことを助けられなかった。悔しいよ。おばあちゃんをあのとき助けられなかった自分が、今の自分が嫌だよ。」


彩音も同様に、過去の事を悔やんでいた。同じ気持ちなのだなと思いながらも、どうすればよいのかをハーネイトさんに質問した。


「ならばしばらく、私のもとで働くといい。この世界は地球と非常によく似た環境でな、文化や単位、暦も地球の物を採用しているところが多い。だが暮らすには、ここは厳しいところだ。」


そうして彼はしばらくのあいだ、この世界のことについて話続けた。昔ある文明がまるごと消えたこと、そのあとから同じような化け物や悪魔等がよく来襲するようになったこと、そして最近まで世界のために彼とその仲間が命を懸け戦っていたこと。

その中で驚いたのが、もし彼らがその戦いで負けていれば、あらゆる世界の生命が終わりを迎えるところだったと言うことだった。


「何ということだ、ハーネイトさんは本当に、あらゆる世界を救う守護者、なんですね。それと、同じように侵略したり、飛ばされてきた存在、魔獣を倒す力を身に付ければいいわけ、ですよね?」

「その通りだ。君たちはあの獣の攻撃を食らった影響で霊的なものが非常によく見える状態にある。いや、それ以前から素質はあったのではないか?」


ハーネイトさん曰く、昔から異様なものや霊的なものが見えていたのではないかと指摘された。確かに、そういわれれば思い当たる節はたくさんあった。彩音も昔から霊感が強いことは俺も把握していた。


「確かに、その通りかもな、彩音。」

「ええ、あの事件も幻だとか言われてお蔵入りになったけれど、私たちだけにしかみえなかったとしたら。」


その話を聞いたハーネイトさんは少し間を置いてから話を続けた。


「そうなると、やはり魂食獣の可能性が高いな。実はそれの被害を受け、抗うために力を身に付けたものが私の部下、いや仲間に10名いる。よかったらあとで話を聞くといい。」


他にも、同じ被害にあった人たちが、しかも地球人でいるのか。その事実を聴いた俺と彩音は早くその人たちと話をしたいと申し出た。ハーネイトさんが紹介しようといったその瞬間、彼のズボンから何かの着信音が聞こえ、彼はそれを耳に当て応対する。どうも電話やテレビなど、確かにそれなりの文明が存在することは部屋の中を見ても、彼の行動を見ても理解できた。


「すまない、急ぎの用事だ。あとはエレクトリールや伯爵に任せるか。帰ってきたら紹介しよう。彼らが君たちの先生にもなるからね。」


彼が携帯らしきものをズボンのポケットにいれると、彼は軽くため息をついた。いまからなにをしに行くのかと尋ねた。


「魔獣退治にさ。またデカブツが来やがった。」


その言葉にすぐ言葉を返そうとしたが、次の瞬間ハーネイトさんは姿を消していた。



「行っちゃったわね。」

「まだ頭の整理が追い付かねえ。しかしあの人たちはなにかを知っている。」

「というより、あの化け物のことをよく知っているみたいね。どうする?」

「どうするったって、選択肢は他にない。あの事件のこともわかるかもしれない。後悔、したくねえよ。」


 俺は彩音にそう伝え、背伸びをする。もうすでに、俺も彩音も女神の声を聞いている。そして真実を知ってしまった。だったら、前へ進むしかない。そう考えたその時、新たな人が部屋の中に入ってきた。


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