第12話 恩人である人たちの過去と2人の決意
午前の修行も終わり、昼食の後ハーネイトさんからリリエットさんが帰ってくるまで自由にしていてよいと言われたので、俺と彩音は引き続き本を読んでいた。俺はどうしても彼の使う魔法というものが気になっていた。それに関する書籍もあり、俺はそれから読み始めた。彩音は引き続きこの星の歴史についての本をじっくりと読みこんでいた。
この世界では地球とは違い、魔法というものを行使できるという。大気中に存在するマナ(魔粒子)を元に自然現象やそれに匹敵するものを再現させられるといい、その中にはけた外れに威力のある魔法も存在しているという。それがおそらく、あの戦いで使用した魔法なのだろうと俺は感じていた。大魔法、それは霊界人にとっては習得が非常に難しく、かつての戦いでハーネイトさんが霊界人と戦った際に優位に立てた理由の一つでもあったらしい。
つまり、俺らはその技術の習得は当分やめておいた方がいいと感じていた。しかしそうなると、ハーネイトさんは同じ霊界人の力、霊量子という力を発し続けているのに、なぜ相反するような魔法を放てるのか、その点についてすごく疑問に感じていた。
そう感じたことを彩音に話すと、彩音も同様のことを思いつつも言葉を返した。
「だから、あのハーネイトさんという存在は特別なのでしょう。剣技も魔法も、それ以外にも幾つかまだ見せていない力がありそうね。」
それを聞いて、やはり規格外の存在だと俺は感じていた。そんな時また伯爵が、今度は一人で部屋の中に入ってきた。
「よう、楽しんでるかい?」
「え、ええ。まあ。」
俺はそう言葉を返す、すると伯爵はすっと俺の傍に近寄るとベッドに腰かけてきた。
「相棒と手合わせしたそうだな、どうだったか?」
「は、はい。やはり手も足も出ませんでした。少しだけ優勢になったかと思えば、大技で吹き飛ばされて……。」
伯爵の質問に先に彩音が答えた。まさにその通りだった。
「しかしお前らの戦い方、なかなか楽しかったと嬉しそうな顔してたぜ。あいつ、そういった表情見せなくてな。」
「そうなんです、ね。」
「あの、伯爵さん。」
「なんだ、響。」
「あなたもハーネイトさんと同じく、あの女神様の息子さんなんですよね。昨日の話の続きを聞きたいです。」
俺はどうしてもこのもう一人の存在、伯爵という恐怖の存在について知りたかった。ハーネイトさんとは別の意味で違う規格外の存在と本に書いてあったのがどうしても頭から離れられなかった。それに関して、伯爵は話をしてくれた。
「俺たちができた経緯はかなり複雑なんだがな。話すと長いんだぜこれ。」
そうして彼が話してくれたこと。それは彼らが女神さまにより本気で人類を滅ぼすための存在として作られたこと、しかし運命のいたずらのおかげでハーネイトと運よく出会い、死闘の果てに縁を結んだということ。そして彼自身も過酷な人生を送ってきたこと。その微生物の世界の王になるはずが継承権の関係で慣れず、グれていたところある少女と出会い恋に落ちたこと。そしてその彼女が王族の関係者の手にかかったこと。そして彼の故郷が焼け野原になり、実の父と母は実は偽物で、伯爵の実の父がその微生物の世界をめちゃくちゃにしたこと、そして壮絶な戦いの果てに父を倒し、王になったこと。そして死んだ最愛の彼女がどこかで生きているのではないかと信じ続け旅を続けたことを聞いたのだ。
一見不真面目そうな、どこかあのシャックスさんと似ている節のあるこの男にも、壮絶な人生があったのだと理解した。しかもそれについて彼は気にすることもなく、ただ前を見て楽しんでいた。その前向きな生き方に、何故か力をもらった。
「まあ、こんなものだ。ここに集うものはみんな、つらい人生を送ってきたものばかりさ。響と彩音もそうみたいだな。」
昨日の夜、伯爵とリリーに対して俺と彩音は地球で起きたことと過去に起きた事件の話をしていた。
「だからこそ、俺たちは惹かれ合うのかもしれない。運命の糸で手繰り寄せられ、導かれた選ばれたもの。それが何をもたらすのか、それは誰にも予測のつかないものだとな。星と星を結ぶ光のように、星座のように。フフ、らしくない言葉だな。」
真剣な表情で伯爵がそう言ってきた。惹かれ合うか、確かに彼の言うことはそうかもしれない。俺はそう思った。何か繋がりがあるのだろうと。
「伯爵さんは、どこにでも行ける力を持っているのですよね?」
「そうだが。」
「もしすべてが終わっても、また会えますか?」
彩音が伯爵にそう尋ねた。彼女もつながりについて意識をしていたのかもしれない。
「ああ、会えるとも!」
彩音の言葉に伯爵はにかっと笑って即答した。ああ、それなら俺たちも心置きなく、全力でやろうと。そして自由に俺たちも今いる世界と、地球を行き来できたらいいなと考えていた。
そして3か月後には、この生活も終わりを迎えるのかと思い、無性に寂しくなった。そして俺は、涙を流していた。
「どうした、響。いきなり泣き出して。」
「ぐっ、いや、また元の世界に戻っても、俺たちはここに来れますか?」
「そうだな……。また事件があったときは会えるだろうし、人理の守護者の一員として活動するならば、その行き来する力も与えられよう。」
その言葉を聞き、俺は迷わず伯爵に意思を伝えた。
「俺も、その守護者になる。」
その言葉を聞いた伯爵は、少しだけ動揺していたが、俺の覚悟を感じ取ってくれてこう答えた。
「終わりのない戦いかもしれないが、それでもか?」
「それでも、だ。あなたたちは俺たちの話を、あの事件の話を真摯に聞いて受け止めてくれた。知らなかったことを教えてくれた。そして戦う術を身につけさせてくれようとしている。この繋がりを、俺は切りたくない。」
「それは、私もです。私はもっと知りたいことがたくさんあります。そしてずっと人のいる世界が成り立つように、少しでも協力したいのです。知ってしまった以上、見過ごすわけにはいきません。」
正義感の強い彼女らしい言葉。そして俺も本音を彼にぶつけた。
「分かったぜ、俺も嬉しい。助けた甲斐があったとな。俺とお前らは、ズっ友だぜ。ハハハ。」
そういい、伯爵は拳を突き出した。それに彩音も俺も、同じく拳を突き出してぶつけ合った。
「その話、ハーネイトが暇なときにしてやれよ。きっと喜んでそうなるようにしてくれるはずさ。ああ、済まないがリリーと約束をしている。」
「あ、あの。伯爵さんはリリーさんのこと、ずっと愛しているのですか?」
「ああ、そうだ。未来永劫な。」
彩音の質問に伯爵はかっこよく答えると、部屋を後にした。魔王のような出で立ちなのに、すごく俺には格好よく見えた。それこそがあの微生物の魔王の本性であることを理解し、もうすでに彼に対する恐れは完全になくなっていたのであった。
そしてハーネイトさんが仕事を終え俺たちの部屋まで来た。
「どうだ二人とも。少しはわかってきたこともあるだろう。」
「ええ、はい。今まで何があったのか、この星の不思議とか。」
「そうです、ね。あの、ハーネイトさんのことはこの本に書いていたのですが、すべて事実なのですか?」
俺はどうしても本人から彼の今までの生い立ちのことが聞きたかった。それにハーネイトさんはすべてを話してくれた。
彼は生後すぐに別の世界から連れてこられ、この星で育ってきたという。そして 魔法の師匠に6歳まで育てられ、その後は剣士の家で魔法と剣の修行をしていたという。そしてある事件により孤独になり、出生や力の秘密を探るために一人旅に出たという。
その中でハーネイトさんは多くの人に触れあい成長し、磨かれた戦闘センスにより幾つもの戦争を止め、巨大な魔獣を一人で打ち取り数えきれないほどの命を助けてきたという。そして戦いだけでなく経済、文明を多くの国で発展させ知らない人がほとんどいないほどの有名人になったという。
その中で起きた宇宙人の襲来。霊界人が、戦争屋がこの星を襲おうとしたという。それを彼は仲間と力を合わせ星を守り抜き、戦いの中で自身の出生と力。そして女神ソラの恐るべき計画に気づいたという。
そして女神からの試練を乗り越えるためにすべてを仲間にし、壮絶な戦いの果てに、ハーネイトさんはサルモネラ伯爵と力を合わせ人理の盾剣という技で女神を倒し改心させたと。
これほどの辛い戦い、呪われた人生。それを乗り越えたのが今の彼であった。
そうしてすべての話を聞き終わり、俺も彩音も少しの間言葉が出なかった。
「そして、俺と伯爵は人理の守護者というのに永久就職したわけだ。最初は戸惑いもあったがな。」
「そ、そうなのですね。いやなこと、今までたくさんありましたか?」
「まあ、それはね。うんざりするぐらい。だけどそれでも、やらなきゃいけない時がある。その時は腹を括って、ただ全力で前を見て、成し遂げるまでさ。」
彩音の質問にハーネイトさんはそう答え、本当に彼の精神力は大したものだと思っていた。自身ならもし同じ境遇にあってもそこまでできるかどうかわからなかった。
「ハーネイトさん。この戦いが終わったらお願いがあります。」
「お願いか。いいでしょう。それは、すべてが終わってから内容を聞くことにするか。」
「ありがとうございます。残りの期間、ご指導のほどよろしくお願いいたします。」
俺はハーネイトさんに思っていたことをきっちり伝え、残りの期間を精一杯修練に励むことを誓った。
「ああ。すべてを取り戻すためにはそうするしかない。さあ、明日からは少しづつ段階を上げていくからね。」
「はい!」
俺と彩音は同時に返事をし、ハーネイトさんは部屋を去った。
「きっと、俺たちは強くなる。辛くても、諦めない。」
「彼も最後まで諦めなかったから今があるのね。みんなを取り戻すために、負けられない! 」
俺らはそう決意し、眠りについた。そして約3か月にも及ぶ修行が始まるのであった。




