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第10話 過去に起きた事件 集団衰弱死事件


「こういった本を読むのは苦手なんだが、しかし、この獣、見た目に反して意外な弱点があるな。あれに似ているし、もしかすると。」

「私たちが来る前に、こんなことがあったなんて。ハーネイトさんは本当にすべてを救った存在なのね。」

「どういうことだ、あのリリエットさんたち、最初ハーネイトさんたちと敵同士だった人たちだったのか。」


 最初は面倒だと思ってはいたが、分かりやすい図解と文章。更に興味を引く内容に次第にのめりこみ、あっという間に二人ですべての文章を目に通してしまったのであった。


「はあ、いつの間にか日が暮れていたぞ。彩音、俺たちは相当すごい人たちのもとにいるみたいだな」

「そ、そのようね。だけど、私たちの知らない場所で恐ろしいことが起きていた。知らないうちにある日突然、世界が終わるなんて、怖すぎるわ。」


 俺は彩音の話を聞いてその通りだと感じた。そしてあの時出会った女神、ソラが相当な悪人というか、恐ろしく過激な存在であることを理解した。しかしあの小麦畑の中であった彼女にはそこまでそのような恐ろしさは感じられなかった。これも息子たちであるハーネイトと伯爵による活躍で、彼女が改心したという理由があったことで納得がいった。そう、その報告書には書かれていたからだ。真実は定かではないが、彼らの奮戦があるから今がある。ということは確かだと思った。


「しかし、この事実を知っている人は俺たちのいる地球には……。」

「いない、でしょうね。もう女神さまはそんなことはしなさそうだけど、今度は別の事件が起きているわ。魂食獣。幾らハーネイトさんが元に戻す力を持っていても、また別の場所で同じようなことが起きないとは、限らないわ。」

「そう、だな。しかしこの事実を話したとしても誰が信用するか。」


 彩音の言うことはどれもがあり得ることだと俺も思った。そうなんだ、脅威は一時的に退けることはできる、しかし二度と襲ってこない保証なんてどこにもない。そして、その事実を誰かに話したところで信じる人なんていないと。それは昔父さんや彩音の祖母を襲った幽霊のような獣の事件もそうだった。だからこそ歯がゆかった。


 あれは俺も彩音も9歳の時だった。まだその当時俺たちは、ある田舎町に住んでいた。自然豊かで、水もきれい。空気もきれいで本当に誰もが田舎といえばこのイメージだと言わんばかりの場所だった。しかし俺たちはもうそこには行けない。

 

 事件が起きたのは夏だったことを覚えている。その当時村の人間がどんどん謎の病で倒れ、倒れたものは一月で命尽きるという不気味な現象が起きていた。そして俺も、彩音もその事件の裏にある者が関わっていることを感じ取った。


  昔からどうも俺たちは、普通の人には見えない存在が見えていた。しかしそのことをだれにも言おうとしなかった。言えば奇妙な目で見られる。互いにつらい思いをしながら毎日を生きてきた。そして俺の父親も同じ力を持っていた。そして父は俺にある言葉を言い残し姿を消した。


「村に起こっている元凶を倒してくる」と。


 俺は行くなと止めたが、無駄だった。そして3日後、俺の父親は魂を吸い取られたかのように森の中で息絶えていた、そう母親から話を聞いた。その後も事件は絶えず、ついに彩音の祖母までその牙にかかり、治療の甲斐もむなしく天に旅立っていったのだ。そして村は放棄され、俺らは親と妹、彩音たちとともに別の町に移動せざるを得なくなった。そういう過去が俺たちにはあったのだ。


「孤独な、戦いになりそうね。」

「…いや、俺と彩音。そしてハーネイトさんたちがいる。孤独、じゃないはずだ。」

「そ、そうよね。弱気になっていたらいけないね。ありがとう、響。」

「それはこっちのセリフだ彩音。ありがとう、お前の言葉で俺も勇気を奮い立たせられる。」


 そう、確かに地球においてはこの事実を知る者は他にいない。きっと話しても事件を目の当たりにしない限り誰も信じないだろう。人間なんてそんなものだ。だからこそ、今あるこの繋がりを大切にすれば、きっとこの先もどうにかなるんじゃないかと俺は思った。そして二度と、あんな思いはしないと。


 だから俺は強くなる。あんな奴らをぶっ飛ばして、平穏な生活を自らの手で取り戻してやると。


 ミレイシアさんたちが食事を持ってきて、食べた後にもう一度俺らは本を手に取り読んでいた。やはりこの世界は調べがいのある事ばかりだと。

 

 これだけの、地球をはるかに上回る大きさの星なのに人の数が極端に少ない2つの理由、伝説の龍の話、見えないオベリスクという不思議な巨塔の話。そしてこの星をかつて襲った未曽有の人工的災害、「大消滅」という悲劇。

 

 数えきれないほどの秘密に、まるで幼少期に読んだ冒険物の話や複雑に設定が盛り込まれたファンタジー小説を読んだ後の時の感覚を覚えていた。


「響君、もしすべてが終わってまたここに来れることがあったら、調べつくしてみない?何もかもを。」


 彩音は突然そう言いだし、俺は驚いた。しかし戸惑いとは裏腹に俺も同じことをどこかで思っていたようで意図せぬ言葉が口から飛び出てきた。


「ああ。そうしよう、彩音。」


 そうしているうちに、伯爵とリリーさんが部屋を訪れ、いくつか話をしてくれた。そのあと俺たちは寝間着に着替え、ベッドに入り目を閉じた。

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