チートなスキルをもらって異世界で勇者になる…予定だったのに
いわゆる異世界転移もの…ではありません。
車に跳ねられた。
次の瞬間、辺りが真っ白になった。
きっと、女神様が出てきて、異世界に転生するから、その代償から好きなスキルがもらえるに違いない。
そうすれば、異世界でチートな生活ができるはず。
すぐに出てくると思ったけど、いつまで経っても真っ白の世界には、自分だけ。
時間がどれくらい経過したかわからない。
結構長くいるような気もするし、意外と短いのかもしれない。
とりあえず、ヒマなので、いろいろ考えていよう。
もらうスキルは何にしようか。
１つしかもらえないのかな。
いくつももらえるのかな。
１つしかもらえないのなら、他人のスキルを追加取得できるようなスキルなら、後々に勇者として有名になれるかもしれない。
夢が広がるね。
あれこれ想像をしていたけど、真っ白な世界のまま。
いや、感覚的に上の方にひび割れがあった。少しずつ、割れている部分が広がっていくような気がする。
向こう側は、闇だ。
もしかして、真っ白な空間が闇に喰われるのだろうか。
出てくるのは、女神様ではなく、悪魔なのか。
逃げようと思っても、この世界から離れることはできないようで、少しずつ真っ白な世界が侵食されて暗くなっていく。
自分自身の感覚としては、あっという間に真っ白な世界は闇の世界に変わってしまった。
それとともに、周囲から視線を感じる。
最初はなんともなかったのに、視線が強くなるにつれて、痛みが出てきた。
何が起こっているのだろう。
夢が消えていく。
スキルをもらって、異世界で勇者になる夢が。
そのうち、自分自身が闇に喰われた。
すごい痛みが身体に感じて、気を失ってしまったようだ。
ふと気が付く。
周囲はまた真っ白い世界。
よかった、闇に喰われる前の世界に戻ってきたんだ。
しかし、この世界はなんとなく、異世界ではなく、車に跳ねられる前の世界のように見える。
横を見れば、自分の心拍を監視しているように、定期的な電子音を出す装置があったり、腕にも点滴の針が刺さっていたり…。
頭も、周囲の気温に敏感になっているようで、少しの空気の揺らぎも分かる感じ。
足元の方にあった自動ドアがスライドして開く。
入ってきたのは、白衣を着た医者と白衣を着た見知らぬ女性。
天涯孤独だから、家族というものは持たず、だれが来たのか分からないのだけど。
医者とその女性は、少し話をすると医者がこちらに５分だけお話ができるようにしましたので、重要な事項があったら、短いですが、その際に話してください。と言って、自動ドアの向こうに去っていった。
女性が枕元に来て、開口一番に言った言葉。
「私は、新米女神です。ごめんなさい。間違えて、蘇生させちゃいました。本当は、私の管理する世界へ来てもらい、そこにいる悪神を倒してもらおうと思ったのですが。まだ、なりたての神様なので、ついうっかり。」
どうやら、間違いで蘇生され、夢の世界は本当に夢になってしまったらしい。
口にも人工呼吸器の管が差し込まれているので、声を出すことができない。
そのうちに、女神様はとんでもないことを言い始めた。
「蘇生しちゃったのですが、ぜひ、あなたに私が管理する世界に来ていただきたいので、しばらくあなたのお世話をします。家族にならないと色々面倒なので、勝手かと思いましたが、婚姻届を出しておきました。夫婦になったのですから、遠慮せずになんでも言ってくださいね。」
女神と結婚。戸籍はどうした。
そもそも、あの今にも崩れそうなアパートに２人で住むのは無理だろう。
その後も、女神が一方的に話していく。
「あのアパートから出て、この病院に近いところに、ちょっと広いお部屋を借りました。
荷物は全部まとめて、引っ越しを終わらせましたので、一緒に帰宅したら驚きますよ。
もちろん、アパートの家主には、夫婦になったことや今までのお礼なども済ませました。
私も初婚なので、至らない点があるかと思いますが、これからよろしくお願いします。」
ちょっと顔が赤く見えるような気がするのは、なぜだろうか。
「少し早いような気もしますが、子供は何人ほしいですか。私はたくさんほしいです。私から生まれる子供は、全員、将来神様になると思います。あなたの寿命が短いと私は未亡人になってしまうのですけど、それは困りますので、今の身体よりも頑丈な身体に作り替えますね。大丈夫、痛くないですから。」
弾丸トークだ。
女神と結婚だけでも驚いたのに、もう子供の話か。
身体に作り替えるとは、何をするつもりなのだろう。
一瞬、光が弾けたように見えた。
さっきまで、あちこち痛いし、動きずらかった身体が今は異常がない。
弾けた光に驚いたのか、医者が駆け込んできた。
身体のあちこちを見て一言。
「さっきまで瀕死の重傷だったのに、今は外傷が全部消えている。一体何が？」
妻？女神さま？は、その医者に、
「もう元気になりましたので、退院しますね。」
と言って、身体についていた管などを取って、手を取って、いささか強引に恋人繋ぎをして病院を出てしまった。お見舞いと思ったけど、早く、愛の巣に連れて行きたくなったと言われ、複雑な気分。
超高層マンション、101階建ての最上階で、１フロア丸ごと１部屋に案内され、なし崩し的に同居。
女神と共に結婚生活へ突入。
いろいろとんでもないことになってしまった。
異世界に行って、勇者になるというのはどうするの？と聞いたとき、女神はこう答えた。
「あなたをあんな危ないところに行かせるなんて、私にはできない。だから、どこへ行くのもいつも一緒がいい。どんな状況でも絶対傷つかないように、私が守ってあげる。もう、あなたの魂の格も上げたから、これから老いもしないし、死ぬこともない。このままずっと一緒にいられるね。」
と笑顔で言われた。
その笑顔に一目惚れをしてしまった
短時間で怒涛のような状況に押し流されていた所に、ふっと間が開いたときに、笑顔がかわいいなと思った。こんな表情もできるんだ…と。
それから、幾年たってもおしどり夫婦と呼ばれる。
近所からは、何十年経っても、姿形が変わらない不思議な夫婦とか、出生届からかなりの人数の子供がいるはずなのに、成長した子供を見たことがある人がほとんどいない。とか、ある意味不審者だったけど、それで、警察などが来ることはなかった。
*****
結婚式は、この部屋で挙げた。
結婚の宣誓で神父の位置にいたのは、神々しい父親だという神様。
列席した中には、管理していた世界の悪神まで来たというおまけつき。
悪神と言うものの、実際は孤独で、構ってくれる人を求めていたらしく、そのやり方が間違えていたらしい。すっかり打ち解けてしまい、異世界に行く理由がなくなってしまった。
最近は、お土産を持って遊びに来ることが多い。
うちの女神が、仕事を忘れることが多いので、サポートに回っているらしく、忙しいけどやりがいがあるとか言っていた。
チートなスキルをもらって異世界で勇者になる…予定が、ひょんなことから、現実世界で異世界体験をすることになるとは。
ちなみに、
結婚して妻となった”うっかり新米女神”は、蘇生時の顔を見て、かわいいと思ったらしく一目惚れ。他の誰かに取られる前に、既成事実を作ってしまえという強硬手段であれこれしたらしい。既成事実を作るように誘導したのは、父親らしいが。
これは、真っ赤になりながら、結構あとになって話してくれたこと。
ジャンルは、現実世界の恋愛ですが、ローファンタジーにしようか迷って、キーワードの内容から、恋愛…としました。
今後、ジャンルを変更する可能性もあります。
