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第一章 英雄の誕生 第三節 ぱっと言った一言が思ったよりも重視されてて焦る

外交編です。

久々の故郷への帰還。

第三節 ぱっと言った一言が思ったよりも重視されてて焦る4


久々の故郷の空気を胸いっぱいに吸う。コルットは部族集落に帰ってきた。と、言っても今いるところはコルットも来たことはない。部族の首都タイダイの一級宿屋だ。


「汚らわしい場所だ」


 メリッサが窓から外を見てそう吐き捨てる。記憶喪失という設定なので、道に迷ったりすると困るということもあり、付き添いとしてメリッサが同行することになったのだ。もう一人ネネチもコルットの手足として追従しているが、今は用に出している。


「この世に男などいらないとは思わないか」


 メリッサがコルットに問う。内面は男であるために、なんとも答え辛い問いだ。自分一人が男でその他全員が女という設定なら大いに受け入れるが、今や自分も女になっているその上性欲も感じないため、メリッサの言う通り必要ないと言えば必要ない。


「まあ、な。だが人間の繁栄には男も必要であろう」


 コルットは中身が男であるという意地のようなものを見せる。まだまだ女と言う事実を素直に受け入れている訳ではない。


「ではお前は男と所帯を持つというのか」


 メリッサが明らかに不快な色を見せる。よほど男に対して悪い印象を持っているようだ。何かあったのだろうか。


「いや、それとこれとは別だ。メリッサ、男と何かあったのか」


 コルットは理由を聞いてみる。


「そうか、何も覚えていないんだったな」


 メリッサは顔を背け、独り言のようにそう言った。そのまま気まずい時間が流れたが、メリッサは一息つくとコルットの方によってきて近くに座った。


「私とお前の出会いを話そう。何か思い出すかもしれん」


 メリッサはベッドに座っているコルットの横に座るも、コルットには向かずに前を見て話し出す。どうやら辛い思い出の様だ。


「アマゾネスにはエンジェル隊と言われるものがあるのはわかるか」


 メリッサはいくらか明るくそう言った。エンジェル隊。コルットはネネチから聞いたことがある。迫害されていたり奴隷商に捕まっている女性を救い出し、保護する人達をたしかエンジェル隊と言っていた。サリーは昔エンジェル隊で活躍していたのだとネネチが言っていた。


「ああ、少しネネチから聞いた。私が昔いた隊だったな」


 コルットはメリッサを見ながらそう言った。すると、メリッサは少しだけコルットを見てそうだと短く言う。そして大きく息を吐き、話を続けた。


「私はお前に救われたんだ」


 メリッサはそう言って天井を仰ぎ見た。


「あれは十五年前。私がまだ九歳だった頃だ。野原で駆け回っていた私は二人組の男に連れ去られてしまい、奴隷商に渡されたのだ。それからは地獄のような日々だった。アマゾネスの奴隷はかなり高値で取引されるのとかで、徹底的に調教された。加護の力も魔法でかき消され、私はただの女子として奴隷教育を叩き込まれた。思い出すだけでも吐き気がする。

 

 私が十二なった頃には売られて、そこでは男の相手ばかりさせられた。だがいつしかそういう生活にも慣れ、私は半ば廃人とかしていた。


 そこから二年。十四の頃に現れたのがサリーお前だ。エンジェル隊として奴隷商を潰し、売り渡された女達を救い出していた。そして私の所にも来て救い出そうとしてくれた。


 だが、私はそれを拒んでしまった。私は知っていたのだ。奴らに逆らったらどうなるかを。それが怖くてついて行けなかった。ついて行くのが怖かった。


 しかしそんな私をサリー、お前は気絶させたのだ。気絶させてそのまま運んだ。


 目が覚めて、館を離れた私は半狂乱になっていた。恐怖が全身を蝕み、帰るために脱走すら企てた。だがその度にサリーは私を連れ帰り、怒るでもなく優しく笑いかけてくれたのだ。いつしか私は正常に戻り、サリーのようになりたいと自らを鍛え始めた。五年前に兵士になり、今や将軍と呼ばれるほどになった。全てお前のお陰だ」


 メリッサは一頻り話し終えると、そのまま仰向けに寝転がる。


「どうだ、何か思い出したか」


 メリッサは少し伸びるような声でそう聴いた。


「いや、すまない」


 コルットは申し訳ない気持ちになる。思い出せないからではなく、今までのエロい思考に対してだ。少なからずコルットは女の子を開発したいだの、洗脳したいだのと考えたことがある。だが、こんな話を聞くとそんな自分の思考が恥ずかしい。自分の思いのままにするということがどんなに身勝手なことか。エロも相手の同意がなければ成立しないのだ。当たり前のことだが、つくづくそれを感じるのだった。


「だが私がどういう人だったかは分かった気がする。ありがとう」


 辛い思い出を話したのに成果がないのじゃメリッサも救われない。そう思って、コルットなりに気を利かせてみる。何か記憶喪失の設定と言うのも申し訳ないように思えてくる。


「そうか、それならよかった」


 メリッサは目を閉じてそう言った。少し寝たいのだろう。コルットは静かに移動しようとする。すると、コンコンコンとドアの叩かれる音がした。


「どうぞ」


「失礼します。面会の手筈が整いました。案内します」


 タイオ―軍の兵士が呼びに来た。兵士はアマゾネスを相手にするということで、女性であった。メリッサは跳ね起きて準備をする。コルットは既に身支度ができていたので、メリッサを待った。ただ剣類を持っていこうとしたら兵士に止められた。


「玉座の間では帯刀は禁止になります。おちらで置いておいて貰うか、直前の間でお預けなることになりますが、こちらに置いていくことをお勧めします。敵軍が武器を持っている姿は刺激が強いもので」


 曲がりなりにも敵国の人間ということだ。こちらの身を守る手段がないが、それは致し方ないのだろう。コルットは部屋に武器を置いておくことにした。


「サリー、それくらい常識だろう。外交の基本だ」


 メリッサが注意する。お国柄地区同士は険悪だが、外交というのは一応ある。地区をまたぐ犯罪の取り締まりのための情報交換であったり、特産物の取引を取り決める話し合いであったり、一定の交流はあるのだ。ただし、こういった同盟の話し合いなどは特殊で、滅多に行われることはなく、基本的に成功したという話も聞いたことはない。どちらかが従属するという形を取らなければ話が纏まらないのだ。よって、今回の交渉はかなり難しいものとなると予想される。


「ここでお待ち下さい」


 兵士がそう言って、先に玉座の間に入る。玉座の間の扉は外敵を威嚇するためか、巨人が大きな口を開けて飲み込むような絵が描かれている。


「下品だな」


 メリッサが一言そう漏らす。アマゾネスの玉座の間の扉は二人の女神が中央に手を伸ばし、いかにもドアを開けるような形で描かれている。たしかにまるで対照的なイメージがある。


 吸い込まれそうな口の奥を見つめていると、先ほどの兵士がこちらですと扉を開けて招いてくる。コルットとメリッサは目配せをし、少し気を引き締めてから中へと入って行った。


 玉座に入ると、長い通路の奥に階段がありその奥に玉座があった。これはアマゾネスの玉座の間と同じである。ただし、階段の数が違う。こちらの方が倍以上多い。玉座にはもちろんタイオーが座っている。歩きながら近づくがその大柄な身体が浮き立ってくる。戦場でも数度見かけたことあるが、タイオー王は大きい。聞くところによると二メートルは優に超えているとのことだ。ちょっとした巨人である。


「アマゾネスから来たサリー並びにメリッサでございます。この度はお目通り有難く存じます」


 コルット達はタイオー王の威圧に負けぬように堂々と立つ。


「これはこれは誉れ高いアマゾネスの大将軍サリー殿と同じく将軍のメリッサ殿ですか。そのような軍の中枢たる貴女方が今日は何をしにおいでですかな。よもや先の戦で大敗を期したアマゾネスが降伏勧告をしに来たとい訳ではありますまい」


 タイオー王並びに通路に侍っている者達は笑う。


「降伏勧告など誇り高き部族の方々にできる訳はありません。私共はタイオー王を、部族の方々を恐れています」


 コルットは練習通りに話を進める。毅然とした態度は崩さず、堂々とそして相手を油断させるための少しの恐怖を持って。


「ほう、恐れていると。ではでは降伏でもしに来たのか。アマゾネスは美女揃い。嗜むにはちょうど良いのう」


 また通路の者達が笑い出す。コルットは幾ばくか不快感が募ってきた。母国の行動とは言え、こんなにも印象の悪いものなのかと少し幻滅する。


「まさか、例え部族の戦士が強者と言えども、我らアマゾネスは果敢に挑戦しドラグナーの地位を勝ち取ります」


 コルットは恭しくかつ胸を張って高らかに言う。メリッサは少しイラついてきているようだ。呼吸が荒い。


「ドラグナーの地位を得るは我タイオーだ」


 タイオー王が強い圧で言う。コルットは全身に鳥肌が立った。どちらがドラグナーになるという話は水掛け論のようなものだ。これ以上タイオー王を不機嫌にするのも憚られるため、コルットは黙ることにした。


「そなたらは何をしに来たのだ。宣戦布告にでも来たのか。よもや世間話をしに来た訳ではあるまい」


 タイオー王が口を開く。だいぶ不機嫌にそうだ。周りの者達も鼻を鳴らしている。


「単刀直入に言いますと、同盟の申し入れに来ました」


 コルットはタイオー王を真っ直ぐ見つめてそう言った。


「同盟」


 タイオー王はその不慣れな言葉を濁して口にする。その言葉の意味をまるで理解できていないようだ。周りの者達も騒いでいる。


「共闘をしろということか」


 タイオー王は自分なりの解釈を口にする。しかし、腑に落ちてはいないようだ。


「いえ、同盟でございます。勿論共闘する機会もあると思います」


 コルットは堂々と違いを指摘する。タイオー王は目を見張り、そして思案する。ぶつぶつと何かを呟き始めた。


「同盟、同盟。ふはははははは、面白いことを言う小童だ。そのようなものに何の利がある」


 タイオー王は豪快に笑った後、冷静になって利の有無を聞いた。冷静な言葉には物凄い圧がかけられている。


「タイオー軍は国随一の大軍を率いてます。そこに我らが屈強なアマゾネスが加われば、大戦を平定するのもたやすい事かと思います」


 コルットはあくまで核心は話さずに、ゆっくりと焦らして話す。これは元から決めていた作戦で、同盟という破天荒な言葉を口にしただけで相手が理解することはないため、相手の理解に合わせて話すことにしている。一方的に話過ぎると優位に話を持っていけそうだが、逆に警戒心を煽ってしまう可能性があるからだ。


「だからそれのどこに利がある。アマゾネスとしては我らの力を無くしては大戦を勝ち抜くことができないのはわかる。人数が少ないからな。だが、我が軍は違う。貴殿らの力なくてもその大軍でもって勝ち抜く事ができる。現に先の大戦では最後まで争っていたのは我が軍とコスカのでくの坊だ。時間があれば我らが勝っていた」


 この言い分は想定済みである。コルットは怯まなかった。


「ですが、結局のところ勝者とはなれなかった。そうではありませんか。タイオー王、ここで大切なのは勝者となることです。同盟を組めばそれが確実なものとして約束されるのです。我が軍の話し合いでは、如何に勝者となりドラグナーを輩出し、国を安定させるか。それを話し合い、今回部族軍との同盟に行きついたのです。戦乱が続けば国は疲弊する。国が憎しみに溢れる。そこを魔族に狙われたらこれは惨禍となります。今までと同じやり方では一向に決着が着かない。なれば同盟という事です」


 コルットは謳い上げるように口上を述べた。


「ドラグナーを輩出と言うたが、同盟でどうやってドラグナーを輩出する。同盟を組めば例え勝ち残ったとしても二勢力が残り、一人しか輩出できないドラグナーを決められないではないか。ドラグナーの地位を我らに譲るのか。それとも譲れと言うのか」


 これも想定済みである。というか、会議で話したことだ。


「一騎打ちにて決着を決めればよろしいかと思います。大戦はそこで終結させ、後々に一騎打ちで決めましょう。大戦規定にも背きません」


 コルットはタイオー王からは視線を外さない。タイオー王もコルットをしっかり据えている。品を量るような眼差しだ。


「先程貴公は確実な勝ちをと言うたが、一騎打ちとなれば五分ではないか。話が違う」


「しかし、五分でございます。幾度と繰り返しても終わらぬ大戦を鑑みれば、随分と高い確率かと思います。そして、一つそちらに有利な条件を約束しましょう。一騎打ちの場所と時はそちらで決めて構いません。これで五分以上になったのではありませんか」


 コルットは不敵な面持ちでそう言った。


「ミータ女王はその条件で私に勝つつもりであるということか、私も見くびられたものだな」


 タイオー王は立ち上がり歩き出した。タイオーにとっては正直不快である。内容もそうだが、目の前の女が鼻持ちならない態度というのも不快だ。


「なるほど、確かに有利な条件と勝算のありそうな話だが、我らがアマゾネスと組む利がどれほどある。勝算だけならラニッチと組んだ方がよっぽどありそうだが」


 タイオー王は顔を少し上げ、元々高い所から見下ろしていたが更に見下ろすようにコルットを見る。しかし、これも想定通りの言い分でありコルットはたじろがない。


「ほぅ、それはタイオー王からラニッチ軍に同盟を持ち掛けるということでしょうか。なれば一騎打ちはラニッチ殿が場所と時を決めることになるのでしょうか。タイオー王はそちらの方がドラグナーになりやすいとお考えか。あの策士のラニッチに身を委ねた方が安心できると。それとも我が王ミータを恐れておいでか」


 タイオー王はいきり立って鞘に手を掛け、抜刀の構えをとる。すると周りの者達がざわつき始めた。コルットとメリッサは身じろぎもせずタイオー王を見続けた。するとタイオー王はその様子を見て鼻を鳴らし、構えを解いた。


「我は何人も恐れはせぬ、女狐め。ほどほどにせぬと今ここで貴様達を血祭りにあげるぞ」


 静かな奥に怒気を含んだ声だった。コルットは大きく息を吸い、息を吐く。これが王の威圧か。よもや斬ることはないとはわかっていても、冷や汗が出る。動悸が高鳴る。元我が地区の王がこれほどの人かとどこかで感心する。


「これは失礼しました。しかしながら私とてタイオー王ともあろう人が他者に恐れを抱くとは思いませぬ。故に、我らの提案に乗ってくれることだと考えております」


 タイオー王は玉座に腰を下ろして天を仰ぎ見る。


「断る」


 そして天を見つめたままそう言った。コルットは予想だにしない答えで内心焦る。何を言い出せばよいかわからずに、ただただタイオー王を見つめていた。


「同盟を断るということでしょうか」


 見かねたメリッサがタイオー王に聞いた。


「いや、その条件では飲まない」


 タイオー王はコルット達を見て応える。


「条件。何が不服でしょうか」


 コルットはすかさずタイオー王に聞く。


「一騎打ちに勝利した暁にミータ女王は我が伴侶になるというのはどうだ」


 タイオー王が不敵に笑う。


「ミータ女王との結婚」


 コルットは完全に面食らった。予想していない提案が来た。何かしら条件を増やすことは予想していたが、まさかそれがミータ女王との結婚とは。どう答えていいかわからずに反射的にメリッサの方を見る。メリッサも困惑した表情をしていた。そして、一息つきメリッサが口を開いた。


「それは如何なものでしょう」


 コルットは心臓が飛び跳ねる。否定するのは良いが、それはもう同盟の提案を破棄するようなもの。メリッサが何を考えているかわからない。


「確かにミータ女王は強き者を好みます。ですが、色恋をそのような蛮行で決めるのは女性としていささか抵抗があります。それにタイオー王は、もちろんミータ女王もですが、まだ会ったことが無いように思います。そのような者と一戦交えて勝ったというだけで婚約をするというのは軽率に思います。結婚するというのであれば愛を育み、確かめてからが宜しいかと思います」


 コルットはとても女性らしい意見だと思った。今でこそ身体は女だが、心は男であるコルットはどちらかと言うとタイオー王の言い分の側である。元々の地域柄というのもあるのかもしれない。


「これは色恋ではなく政治ぞ。貴殿らは何をしに来たのだ」


 つまりは政略結婚ということだろうか。コルットは考える。タイオー王からしてみれば強く美しい女子が伴侶であれば子孫繁栄ばんばいざいということだろう。地域柄それはわかる。それに政略結婚なら愛だのどうのは関係ないものである。であればコルットが言えるのは一つだ。


「タイオー王は強く美しい女性をお求めだということでしょうか。なれば確かにミータ女王に勝る人はいないでしょう。ですが、我が地区では愛知らぬ者との婚約はできぬこととなっております。そもそも結婚自体があまり推奨されておりません。その王たるミータ女王がその禁を破ることは他の者への示しがつきません。故に我々がお約束できるのはせいぜいがお茶会に二人を引き合わせる程度でございます。どうぞご配慮を」


 正直アマゾネスの禁止事項など知ったことではなかったが、口から出まかせにそういうことにしておいた。でまかせとは言ったが、一応そんな気がしたのだ。メリッサの発言しかり短いがアマゾネスで過ごした時間を思い返すと、たぶんそう間違ってはいないように思う。


「ではこの話はなかったことにしよう」


 ゴロゴロと雷が鳴りだしそうな声でタイオー王は言った。コルットは話の流れ的にそうなるかと思っていたが、タイオー王の態度に違和感を覚える。


「お戯れを。容認するの間違いでは」


 少し強きに言ってみる。


「何を」


 タイオー王があからさまに不機嫌な声を出す。


「タイオー王。王はこの案件を呑むつもりでいらっしゃる。そうではありませんか」


 根拠はない。ただタイオー王は本心で断ったようには思えない。


「戯けたことを言う。わしは断ると言うた」


「断ると言うて〝みた〟のでしょう」


 部族の集落の者は嘘を見抜くのが上手いとされている。特に女性だが{因みにゼーケはことさらに鋭くコルットの嘘をよく見破ってている}、男性にもその傾向がみられる。ほぼ直観なのだが、コルットはそれが働いた気がした。


「何をもってそう思う」


「いえ。タイオー王が断る訳がないと思っているからです。王にとって不利益と言えるほどの内容ではなかったはずです。王は何かを待っておいでだ」


「わしが何を待っておるという。言うてみい」


「私達の言葉でしょうか。そんな気がします」


「なれば言うてみよ、その言葉を」


 コルットは考える。何かを待っている、言葉を待っているのは間違ってないようだ。だが、一体どんな言葉か。


「力ある者我が友なりて

 力ある者我妻ならん。

 力とは肉体に宿るもの

 力とは心に宿るもの

 さあその腕を広げよ

 大地を踏みしめよ

 我が魂よ

 我が肉体よ

 我が意志よ

 我が同志よ」


 ふと出てきたのは部族の集落に伝わる詩であった。小さい時から学んでいた、自らを鼓舞し他者と共に研鑽する為の詩だ。よく歌われる詩で、集落中の者が知っている。


「ふはっはっはっはっは。どこでその詩を覚えた」


 タイオー王は豪快に笑い出した。急に笑い出したので周りの者達はびっくりする。いくらか顔も朗らかになっている。今までとはまるで雰囲気が違う。


「いえ、道中たまたま聞く機会があって。折角来たのだから覚えてみようと、教わったのです」


 コルットはそれっぽい嘘をつく。こういう嘘は見破られたことはない。


「そうか。よくぞいらした客人よ。貴殿らの提案、受け入れることにしよう」


 ついにコルット達はタイオー王の快諾を得た。コルットはメリッサと顔を合わせて頷き合う。


「して、具体的にどうするつもりなのだ」


「それに関してはーー」


 コルットは粛々と、そして活き活きと説明を始めた。コルットの声は室内を響き渡り、時折タイオー王の感心する声や疑問の声が繰り出される。響きは次第に高らかに鳴り始め、宴の前奏となってその場にいた者に心地よく染み渡った。


一先ずコルット編終了。

次回からはサリー編です。

ご感想頂けたら幸いです。

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