第三章 均衡の終焉 第四節 資格
絶不調
第四節 資格7
「意外と早かったじゃないですこと」
と、突然声がしたかと思うと、空とミーシャの間に黒い影が現れる。
ミーシャは驚いて跳ね起きるが、その声と口調には聞き覚えがあった。
そう、ネイルだ。
「ネイルさん。なんで」
ミーシャは疑問すぐに頭を支配し、それが口を突いて出た。
意味が分からない。もう先に行っているだろうもうここにはいないはずのネイルが今ここにいる。
一体どういう了見なのだろう。
「なんでとはなんですの。つれないですこと」
ネイルは腕を組んで不機嫌になる。
「いえ、もう先に行っているものかと思って」
ミーシャは起き上がりながらそれとなく姿勢を正す。
「旅は道連れ世は情け、ですことよ」
「は、はあ」
「何を腑抜けた声を出しているのですこと。嫌だと言うんですこと」
ネイルが圧を掛けてくるので、ミーシャは少し慌てて取り繕う。
「い、いえ、そういうわけでは」
「それならさっさと行くですことよ」
そう言ってネイルは歩き出してしまう。ミーシャとしてはまだ疲れが取れていないのでかなり身体がだるかったが、これ以上ネイルを不機嫌にさせるわけにもいかない。重い腰を上げてすぐについていった。
「あの、まだ疲れてて」
「何を甘えてるんですの。行くと言ったら行くのです」
一応の抗議もこの始末である。ミーシャは諦めて、息もゼイゼイについていった。
と、しばらくすると明らかに歩が遅くなったミーシャを見兼ねて、ネイルも歩くスピードを落とすのだった。
案外寂しがり屋なのだろうか。ミーシャはふとそんなことを考える。結局理由は聞き出せずにいた。まあ、ミーシャとしては自分より優秀な人がいることでいろいろ学ぶことが多く得はしているのでそんなに困ってはないが、ネイルとしてはどうなのだろうか。
相手の情報を知れば知るほどいざ対立した時に攻略する方法ができるものだ。つまりはそれは本来の実力差を覆す力にもなるのだ。ネイルとミーシャの力関係は完全にネイルが上である。つまり、ミーシャとしてはつけ込む隙があるということだ。
もちろん、寝込みを襲うなどの卑怯なことをしようというのではない。単純に対立した時の攻略法が思いつきやすいという事だ。
上位者としてのネイルはそこをあまり考えていないのだろうか。だとするならミーシャの事を舐め過ぎである。
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