第三章 均衡の終焉 第四節 資格
ですますキャラって難しい。
第四節 資格5
なるほど、非常に明瞭になった。つまりは食料を得るためだ。どうやらまだ手を付けていないらしい。持ってきた食料は減っていない。まあ、皇族として本人が意識を失っている間に手を出すのは気が引けたのだろう。
「ありがとうございます。そういうことなら」
ミーシャはまだ手を付けていない方の食料を差し出した。
「ありがとう。ただ、食料が欲しいだけではありませんことよ。わざわざ助けたのは」
「食料のありかですよね」
「ええ」
「空間収納術が使えるとは考えなかったのですか」
一応、すぐには答えずに一度様子を見る。答えなくていいならそれに越したことはない。
「空間収納術が使えるなら、食料を袋に入れて運ばないはずです」
鋭い、確かに携帯食料は袋に詰めてある。
「実は……」
ミーシャは観念して事情を話した。まあ、助けてくれた恩もあるので、正直なところ話すことに抵抗はなかった。
「なるほどね。さすがに見逃していましたわ。これは貴重な情報ですわね」
ネイルは顎に手を当てて少し考え込んでいる。食料を得る事で進行の算段を練り直しているのだろう。
「もう一つ聞きたいことがありますわ」
ネイルは目をミーシャに向けてから話し出す。
「はい」
「試練の方はどんなものだったのですか。結界の外からじゃ中の様子が見えませんでしたので」
「ああ、それはですね……」
ミーシャはこれもするすると話した。どうせ試練になればわかることだし、なんとなれば自分が攻略するヒントが得られるかもしれない。
「滝登りですわね。それならそんなに難しくはないですわね」
ネイルは少し安心したような面持ちになる。
「でも、使えるのは法力だけですよ」
ミーシャは難しくないという言葉に反応してしまう。ちょっとムキになっている。
「ええ、存じてますわ。流れを止めるまではできませんが、弱くなるように促し、その間に法力フィールドを使って登れば良い事ですわ」
「滝の高さは三十メートルですよ、そんな長さの滝の勢いをどうやって弱くするんですか」
ミーシャは言うほど簡単ではないのは身に染みてわかっている。少なくてもミーシャには流れを弱くしながらの法力フィールドを張るのは簡単な作業には思えない。
「あら、そんなこともできないの」
ネイルは意外だというように言った。ミーシャは面食らって言い返せない。
「まあ、無理もありませんか。この技術は基礎や応用を超えた発展技術ですから」
いとも簡単に言うネイルがミーシャには御高くとまっているように見えて、少しいらいらした。
「発展技術」
そうは言っても攻略のヒントが目の前にあるため自分の感情を殺して上手く聞き出せないかと話を合わせる。
「ええ、発展技術」
ネイルはそれだけ言った。ミーシャはネイルを見つめる。次の言葉を待っているのだ。ネイルは目をパチクリさせてから、続けた。
「教えても良いですけど、その前に貴女がドラグナーになる理由を聞いて良いですこと」
渋られた。まあ、当然と言えば当然だ。今は敵同士なのだから。
「理由……それはーー」
ただ、教えてくれそうな気配はある。ミーシャは素直に全て話すことにした。
「なるほど、腐った政治を正すためですか。悪くありませんわね」
ネイルは感心しているようだ。ミーシャは期待の目を向けた。
「ええ、良いですわ。コツを教えてあげます」
「ありがとうございます」
ミーシャは先程のいらいらなど忘れて元気よく返事した。
光の魔術を使いながら川のほとりまで来ると、ネイルは「良いこと」と話し始めた。
「まず、基本に立ち返りましょう。手を川に入れるとどうなりますですこと」
ミーシャは手を入れてみる。普通にひんやりと冷たいが、そういう事ではないだろう。川の流れが手を入れた場所だけ少し変わる。ミーシャはそう伝えた。
「そう、そうですわね。手を入れることで川の流れは簡単に変えられます。これを利用するのです」
ネイルがそう説明すると、ミーシャも勘が良いのかすぐに何かに気付いた。
「そっか、法力の力でこれを拡大するんだ」
ミーシャがそう言うと、ネイルは意外だというように目を向けた。
「あら、意外とおつむの方の飲み込みは早いみたいね」
ミーシャは教わる前に自分で試してみる。手の周りに法力を集中させ、流れを止めるのだ。
ーーーーーー
できた。が、それは一瞬で、しかも小規模なものだった。
「身体の方の飲み込みも悪くないようね」
ネイルはそれでも感心する。
「ここで肝心なのは、いきなり流れを止めることではなくまず流れを変えたい場所を法力で探る事をやる事ですことよ」
ネイルはそう言って、自ら手を川に入れる。そして、目を閉じて集中した。しばらく沈黙が走る。ミーシャは一応手を入れながら、ネイルのやっていることを感じることにした。
そして、五分くらい経った頃だろうか、ネイルが目を開けて話し始める。
「しっかりと探ったら、今度はその部分を包み込むようにして、法力を一気に高める」
ネイルがそう言うと、川の一帯の流れが急に弱まり始めた。
「と、こんな感じになりますのよ」
ネイルは手を川から引くが、まだ川の流れは遅いままだった。
そして、一分を過ぎたあたりから流れが戻った。
「すごい」
ミーシャは感服した。自分では一瞬のそれも小規模の状態でしか流れを止められなかったが、ネイルのそれは実用性に長けている。すごいものを見つけた気分だ。
「まあ、焦らずに落ち着いてやるのがコツですことよ、って」
ネイルが説明していると、既にミーシャはネイルの真似をしていた。目を瞑って手を川に入れ集中している。
ネイルはやれやれといった様子だ。
「まあ、飲み込みは早いみたいですので、やるのが早いですわね」
そう言って自分は焚き木の場所に戻っていった。
感想など頂けたら幸いです。




