第三章 均衡の終焉 第三節 ミーシャの夢
第三節 ミーシャの夢2
「試験があるって言うけど、どんな試験なの」
ニーナは少し考える。魔王に操られているかもしれない人を蹴落とすため。という理由は裏向きの話のため、あまり触れない方が良さそうだ。
「うーん。試験の具体的な内容に関しては教えられないわよ。公平性を保つためにね。そもそもまだ決めてないし」
とりあえず、いったんお茶を濁してみる。
「わかってる。そうじゃなくて、何のための試験って事」
「誰が一番ドラグナーにふさわしいかを決める試験よ。迷路のように入り組んだ森をお題を解きながら進んでもらって、一番早くリバルド様の所に辿り着いた人がドラグナーになれる」
これが表向きの内容だ。
「誰が一番ふさわしいか……。難しいの」
ミーシャは呟くように聞いた。
「そりゃもちろん難しいと思うわよ。なんたってこの後何十年かのドラグナー、王様を決める試験だもの。いくら血筋で優遇されててもこればかりは本気で難しい問題になるはずよ」
「難しい問題、か」
これまた呟くようにミーシャはそう言った。
そして、沈黙。
考え込み始める。
ニーナはニーナで気を利かせて、その沈黙を受け入れていた。整理するには少しは時間が必要だろうと思ったからだ。
「わかった、受けるよその試験」
そして、急にぱっと明るい決意のこもった言葉が響く。
「そう、状況が理解できたのね。っというか、受けてもらうしかないんだけど、立場的には」
「えっ、そうなの。ドラグナーになりたくなかったら辞退できないの」
ミーシャは首を傾げた。
「まず、ドラグナーになりたくないって人なんかいないでしょ普通。だって王様になれるのよ。この国で一番。しかも血筋でそれが知らされている。なれるかもしれないって。ミーシャ様の場合は特別にそうではなかったけど、普通は全員なりたいものなの。えっ、ってなりたくないとか考えてたって事」
ニーナは説明しながら違和感を覚えて、自分の言葉を飲み込む。すると、ミーシャがあらぬことを考えていたのではないかという推察に至った。そして、驚愕する。
「えっ、いや、まあ、一応、えーと。なりたくないというか、持ってた夢と相反するような気がして」
ミーシャはニーナの教学を前に自分の思考を遠慮がちに披露した。
「夢って。ああ、ドマリオス様を支える高官になるってこと」
ニーナも簡単には聞いている。
「ああ、うん。そう。だけど、ちょっと違くって。血筋ではなく実力で高官になるっていうのが夢で、血筋で決まるドラグナーって制度じゃ夢とは違うものかもって」
「なるほど。そういうこと」
ニーナはそれを聞いて納得する。しかし、すぐに疑問が出てきた。
「でも、王様になってしまえばそれこそ実力主義にすることはより簡単に出来るようになると思うけど」
ドラグナーの絶対的権利を使ってしまえば良いのだ。もちろん、本人は嫌がるかもしれないし、実態はそんな簡単ではないが。
「うん。結局私もそう思ったの。ただ、やっぱり血筋だけでなれちゃうのなら嫌で、それで試験はどうかって」
「あっ、そういうこと」
「でね、もう少し聞きたいんだけど、もしかして血筋で有利不利とかってある」
この国に住むものとしては当然の疑問だ。普通に考えたらありそうなものだ。
「あー、えーと」
ニーナは考えた。正直ミーシャの言う意味での有利不利はない。スタット一がバラバラで、それによる有利不利はある。が、今回は魔王として怪しい者がよりなりにくくなるためにその位置調整はされることになっている。しかし、それはやはり裏向きの理由で、表向きは血筋であったり諸々の理由だ。
正確にか答えると裏向きの理由まで話さなければならない。
もちろん、ニーナはミーシャが魔王と繋がっているとは微塵も思っていない。が、他の重鎮たちは違う。それに公平性の問題もある。ここは素直には話せない。
「あるわね」
「ね、お願い。私を不利にして」
ミーシャは手を合わせて懇願した。
「えっ、どういうこと」
「実力でドラグナーになるってことを形にしたいの。それにたぶん他の人よりもドラグナーになる動機って薄い気がして。だったら、不利な形からのスタートで頑張った方が納得できるっていうか」
血筋としては一番有利な位置にいるので、その提案には驚ろいてしまう。ニーナは目を疑った。
「ね、できない」
ミーシャは頭を下げ始めている。正直できない話ではない。というより、重鎮たちの中にはミーシャを疑う声もあったと聞く。ぽっと出の不利な印象もある。あるいは提案に乗るのが一番落ち着く結果になるかもしれない。
「できなくはないけど、本当にそれでいいの」
念のための確認を行う。とは言え、否定されたらそれはそれで困るかもしれない。
「うん。お願い」
ミーシャの意志は固いようだ。
「わかった。できるだけそうなるように手配するわ」
簡単な話だ。ミーシャが魔王と繋がっているかもしれないと報告すればいいだけなのだから。とは言え、それを信じられるのは抵抗ある事ではあるが、願いを叶えるには仕方ないことだ。
「恨みっこなしよ」
「もちろん」
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