第三章 均衡の終焉 第三節 ミーシャの夢
この節も短いと思います。
第三節 ミーシャの夢2
「えっ、うそ。なんで」
ミーシャはクエっションマークを浮かべながらニーナの顔を見た。
「えっと話すと長いんだけどね。簡単に言うと、ミーシャ様の本当のお父さんはドマリオス様だったのよ」
「え、ええええええーーーーー」
ミーシャは大声で叫んだ。かなり大きな声で、反響音が鳴り響く。
「いやいやいや」
ミーシャは頭を両手で抑えて、思いっきり頭を振る。
「何言ってるの。意味わからない」
「まあ、そうなるわよね。どこから話すべきかしら」
ニーナは手を顎に当て、少し傾けながら思案した。
「えっ、だって、じぃじのお子さんは暗殺されたはずでしょ。私生きてるし」
「暗殺されたのは本当よ。片方は本当に暗殺されたのよ」
「えっ、片方」
「双子だったのよ」
「えええええーーー」
ミーシャはまた絶叫した。天井を見上げて口が大きく開かれている。
「でもでもでも、じゃあじゃあ、お父さんとお母さんは」
ハッと何かを思い出したようにミーシャはニーナに詰め寄った。
「えっと、カッテさんとトリーさんの事ね。育ての親。つまり養父母って事ね」
「お母さんたちも暗殺されたの」
ミーシャは少し弱弱しくなって聞いた。ミーシャは実際に死の現場にいたわけではない。
「あーあ、いえ、ご両親、というか養父母の二人は事故よ。交通事故。近くでなった銃声に驚いた馬車馬達が暴れて、馬車が転倒。転倒した先が崖で転落死ね。銃声も暴発だったらしく、完全に偶発的な事故よ。って聞いてると思うけど。聞いている通りで間違いないわ。ガーディアンズでもかなりちゃんと調査したから」
「そうなんだ」
ミーシャは少し胸を撫で下ろすように息を吐いた。
「でも……。いや、だからよく会って……」
そして、ミーシャは聞こうとしたり、すぐに自分で納得したりを暫く繰り返した。
「そう、ドマリオス様が貴女によく会ってたのは自分の娘だから。そして、授業形態が他の子と違うのも貴女が特別な存在だったから」
「そう、なんだ」
ミーシャはポツリとそう言った。
「でも、そしたらどうなるの」
そして、納得したのか開き直って自分の状況を確認するよう努め始める。
「うん。次のドラグナー候補って事になるから、今度開かれる候補者選抜試験に参加することになる」
ニーナはミーシャをしっかり見据えて説明した。
「候補者選抜試験」
ミーシャは取り敢えず引っ掛かった言葉を口に出して繰り返してみる。が、あまり理解が追いついてないようだ。
「そう。候補者選抜試験。これに勝ち抜けば貴女がドラグナーになれる」
「ええーーー。私がドラグナーに」
ミーシャは今日三度目の絶叫を飛ばす。が、その絶叫も少しずつ小さくなっているようだ。顔も前に向いたままである。
「ドラグナー。なりたくない」
ニーナはミーシャに聞いた。ガーディー国では血統が大切にされている。ドラグナーとの血統が近ければ近いものほど優遇され、遠ければ遠いほど中枢からは遠ざかってしまう。
それでも、実力のある者はある条件を元に中枢に入り込める。
例えばガーディアンズだ。ガーディアンズのメンバーはいずれも血統という点ではかなり離れており、しかし国の中枢で権力を持っている。
そして、ミーシャもそのような形で中枢に入ろうとしていたのだ。血統ではなく実力で自分の地位を確立する。それがミーシャの夢だった。
ドラグナーになる選択が目の前に飛び込んでくること等夢にも思わなかったミーシャは暫く混乱した。
普通の者にはドラグナーになることは、なる可能性を持つことは許されていない。つまり、自分がドラグナーになったらこうしよう、ああしようという望みを抱くことは出来ないのである。
ミーシャも然り、自分にはなれないものとしてそんな事考えたことも無かった。ただ、ドマリオスの愚痴を聞く限りでは国の政治はどんどん腐敗して言っているという事であり、それが血統ばかりを大切にしているからだと聞いていた。
ミーシャの血統は、いや、正しくはカッテとトリーの血統は決して悪くない。故にミーシャも労せずして高官の地位に就くことは出来る位置ではあった。
だが、大好きなドマリオスの望む国の姿が血統に頼った政治ではなく、実力をしっかり備えた政治であると感じたミーシャは実力でより高い地位に就くことを夢見ていたのである。
「私は……」
しかし、ドラグナーになってしまったらどうだろうか。そこにミーシャが持っていた夢は重なってくるのであろうか。
ドラグナーは血統で決まる顕著な例だ。
もしかしたら一番夢とは相反している立場かもしれない。
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