第三章 均衡の終焉 第二節 混乱する国政
遅くなりました、すみません
第二節 混乱する国政 3
「つまりはミーシャ様の単独犯と言う線も出てきましたな」
どこからともなくそんな言葉が飛んできた。ハットもナハトも目を剥いてその言葉の発信源を見る。
「どうしてそうなるのですかな」
ハットが冷静を装いつつも、敵意を秘めた声で相手を刺す。
「私としては魔王がやったというおとぎ話よりも、ドラグナー候補の一派がやったという方がよっぽど頷けます。ミーシャ様も候補の一人で、その場に居合わせたのならむしろ当人を一番に疑うべきかなと思った次第です」
「反論させて頂くが、ミーシャ様は暗殺が行われたと思われる瞬間には私と共に現場から離れていました」
ハットはミーシャをドマリオスと幻覚し、一緒に逃げていた。
「それに優秀な成績は残しているものの、まだ成人したばかりで暗殺できるほどの使い手ではありません」
ナハトも援護射撃をする。
「油断というのは身内であれば身内であるほど起こるものです。ドマリオス様もまさか実子に殺されるとは思わなかったはず。つまり暗殺に必要な実力は大していらないでしょう。ナイフ一本持っていれば十分です」
「憶測を唱えるのは構いませんが、失礼ながら動機がありません。ミーシャ様は自身がドラグナー候補だということを知りません。これはかなり厳重に知られないようコントロールされています。それに、ミーシャ様とドマリオス様はとても仲が良く、殺すなどという事はお互いにありえないです」
ハットの言葉が段々熱くなっている。しかし、本人はあくまで冷静を乱さないよう最大限の努力をしている。
「ミーシャ様が直接手を下したとは限りませんな。誰かを雇って暗殺の手の者を送り込んだとも考えられます。少なくてもそうであれば暗殺の者が情報を得ていたという事にも合点がいきます」
「何度も言いますが動悸がありません。ミーシャ様が殺しを行う理由がありません」
ハットが殊更に熱く言い切った。
「人の恨みと言うものは時には理解を超える者があります。ミーシャ様もドマリオス様との触れ合いの中で何かしらの恨みを得ていた可能性はあります」
「というより、自分がドラグナー候補であることに気付いたのではないですかな。秘密と言うものはいつかバレる者です。何かをきっかけに自身の生い立ちを知ったという可能性もありますな」
「恨みを抱く相手に手作りのマフラーを与えるものなどいません」
「カモフラージュですよ」
「いい加減にーー」
ハットが怒り出すところで、ナハトが肩を持って冷静を訴える。
「ドラグナー候補だと気付くという事はドマリオス様を父と認識するという事です。父を殺めるというのはよほどの動機が必要でしょう。」そこまで言うには動機があるという事ですね」
「動機など簡単だ。ドラグナーになりたかった。それで十分だろ」
ここでナハトは一息吐いた。
「ミーシャ様がドラグナーになりたいという願望をどうして持っていると思うのですか。ミーシャ様は勤勉で将来ドラグナーの補佐になるような存在になるようにと尽力しておりました。人柄として野心的な側面も持っておりません。権力欲があるといった類の傾向は皆無です。
そもそもにおいてそのような推論が生まれるのは貴方方ご自身がそういう野心を持っているからではないのですか。結局は自分がドラグナーになりたいから、誰でもドラグナーになりたいと錯覚しているそうではありませんか」
ハットが、ナハトの肩に手を掛けて止めようとするが、ナハトのそれは止まらなかった。
「暗殺、暗躍。結局自分の都合のいい解釈している貴方達は私にとっては暗殺者と同じくらい質が悪い。無垢な少女に罪を被せて何が面白いのか。ひねくれにもほどがありますよ」
ハットが今度は両肩を抱き寄せてナハトの正面に立つ。
「もういい。ナハト。いいから後は私に任せろ」
ナハトはまだ何か言い足りない様子だったが、ハットの目を見て唾を呑んだ。そして、静まり返る会場を後にした。
「さて、ガーディアンズと言うのはあんなにも礼儀知らずなのですね、ハット君。あれが教育係だというのであれば尚更にミーシャという子を疑いたくなるものだ」
毒々しくそういう者がいたので、キッとハットはその声の主を睨んだ。すると声の主は竦んで少し面食らったようだった。
「大変失礼を致しました。彼の処分については後程こちらで対処します。また、場にふさわしくないと判断したため退出して頂きました」
ハットは目を瞑り恭しくそう言って頭を下げた。
「相応しくないものを退出させた事でより一層の建設的な話し合いを願います」
そして、少し顔を上げて言葉と共に会場を見渡した。その背後には怒気が詰まっており、オーラとして圧力を醸し出している。ガーディアンズ指揮官にして国一番の使い手(ドマリオスを除いて)と評される男の覇気が会場を牽制した。
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